第736話 ラブコメ回10 ――変なところで急に大胆なアレク
「それで、次回予告リストってなんなん?」
「ふむ?」
あ、そうか、まだディアナちゃんにはその説明もしていなかったのか。
……ってことは、説明もないまま次回予告リストの話を進めて、次回予告リストを増やした方がいいのか尋ねて、次回予告リストの新たなアイデアを募集したのか。
これだけ聞くと、だいぶ滅茶苦茶なことをしているな僕は……。
「まぁ簡単に言うと、これからの予定表かな」
「予定表?」
「これからやりたいこととか、やりたかったけどできていなかったこととか」
「えぇと、自分がやり残したこと?」
「うん、そういうことだね」
「自分の持ち物や財産を整理して遺言を作っておくとか、大切な家族や友人に感謝を伝えておくとか?」
「…………」
何その死ぬまでにやりたいことリスト……。
なんか微妙に違う。それはたぶん余命宣告された人とかが作り始めるリストだろう。僕の余命は、まだあと九百年以上あるというのに……。
「そういう重たいことはあんまり書いていないかな……。なんというか、旅が終わって故郷に戻ってきて、やりたいことはたくさんあるんだけど、でもいつの間にか妹が生まれていて僕も忙しくて……だからやりたいことを忘れないようメモしておこうって、そんなリストなんだ」
「ふーん? ああ、それでダンジョンの新エリアに行きたいって?」
「そうそう。わりとそういう細々としたリスト」
「なるほどねー、他にはどんなことが書いてあるの?」
「ん、他には……」
他には――いやでも、ディアナちゃんには言えないことも結構多いな。
ミコトさんとディースさんの顕現についても言えないし、アイテムボックスの検証についても言えない。ダンジョン関連でも、新エリアに行きたいってことは言えるけど、新エリアの改装をしたいってことは伝えることができない。
……そう考えると、これってだいぶ危険なメモだな。何気に僕の秘密がいろいろと書かれてしまっている。
「――ってことが書かれていたりする?」
「うん?」
――あ、いかん、聞いてなかった。
僕があれやこれやと考えているうちに、ディアナちゃんも何か言っていたようで……。どうやらリストに書かれていることを、ディアナちゃんなりに予想したようだが……。
「そうなんでしょ? ――そういうことをアタシとしたいって、リストには書いてあるわけだ」
「そうだね」
「お、おう……」
……なんか前にもあったなこの展開。
うっかりディアナちゃんの発言を聞き逃してしまい、それでもいつものように返答したところ、ディアナちゃんが照れながら赤面する展開。
質問を理解しないまま肯定とか、結構怖かったりするのだけれど……。いやでも、聞いていなかったと伝えるのも気まずくて、それにいつもの流れを僕のせいで止めるのも申し訳なくて……。
果たしてディアナちゃんはどんなことを聞いてきたのか……。そして僕は、どんなことを肯定してしまったのか……。
「前から思ってたけど、アレクって変なところで急に大胆だよね……」
「…………」
たぶんそれはディアナちゃんの方なのではなかろうか……。
「てーか、そんな予定を自分のメモに残しておくとか、さすがのアタシも恥ずかしいんだけど……。うん、アレクの気持ちは嬉しいけどね」
「…………」
そうか……。僕はただ肯定しただけではなく、何やら恥ずかしい自分の願望をメモに残しているヤバイ奴になってしまったのか……。
◇
なんやかんやありつつ、ひとまず僕とディアナちゃんはダンジョンに向けて出発した。
そしてその道中で――
「――みたいな感じで、そういうことしてみたら?」
「ふむふむ」
改めてディアナちゃんから次回予告リストのアイデアを募集させていただき、貴重なご意見を賜ることができた。
「参考になったよ、ありがとうディアナちゃん」
「あー、うん、急に聞かれて、アタシも上手いことを言えたか自信がないけど……」
「いやいや、助かったよ。また何かあったらアイデアを募集させてもらうかもしれないから、そのときはお願いね」
「ういー」
やっぱり良いな。他の人からアイデアを募るのは良い。
いかんせん僕一人では限界があるからね。どうしても一人では出せるアイデアにも限界というものが――いや、別にネタ切れなんかじゃないけれど、それだけは違うと断言させてもらうけれども!
――さておき、やはり今回も大成功に終わったアイデア募集企画。
アイデアをくれたディアナちゃんには感謝しつつ、あとで次回予告リストをアップデートしておこう。また機会があったらよろしくお願い申し上げます。
とかなんとか話しながら、僕達は歩みを進め――そしてダンジョンへとたどり着いた。
「おー、久しぶりのダンジョンだ。新エリアどころか、ダンジョン自体が久しぶりだったりするんだよね」
「あ、そうなんだ? 旅から帰ってきて初めてのダンジョン?」
「そうなのよ。なのでだいぶ懐かしい」
最後に訪れてから、もう一年以上の時が流れた。懐かしいね。とても懐かしい我がダンジョン。
懐かしの門構えに、懐かしの等身大ユグドラシル神像。
「ではでは、久々にお供えしておこう」
「あー、そういえばアレクは毎回やってたね……」
というわけで神像前のお賽銭箱に、ジャラジャラと硬貨を流し込んでいく。
「じゃあアタシもちょこっとやっておこうかな……」
「ふむ。――それも僕が出そうかな」
「ん? 何?」
「こういうときは男が出すものと決まっているような気がする」
「んん……?」
紳士の嗜み。こういうところで男気とか甲斐性とかを見せるものな気がする。
そんなわけで、ディアナちゃんにジャラジャラと硬貨を渡していく。ディアナちゃんは若干困惑しつつ、受け取った硬貨を賽銭箱に流し込んでいく。
「これはなんなんだろう……。デート中に奢ってもらったと考えるべきなのかな……? でも実際にアレクが奢っている相手は、アタシじゃなくて世界樹様な気もする……」
なるほど、それはすごいな。今の状態はディアナちゃんに貢ぎつつ、同時にユグドラシルさんにも貢いでいることになるのか。ある意味で理想の形態なのかもしれない。
「……もうよくない?」
「そう? まぁそうかもね。こんなところかな。名残惜しいけどこの辺で――この辺りで切り上げて――」
「そう言いつつ、未練がましくお金を渡さないでくれるかな……。もう行こうよ……」
「ん、それじゃあそろそろ進もうか」
理想的な奉納作業が終わり、僕達はダンジョンへと足を踏み入れた。
「とりあえず8-4エリアまでワープして、それから9-1エリアでいい?」
「うん、そうしよう」
「……あれ? というか、アレクは新エリアの内容自体は知ってるの?」
「一応知っているね」
というより、何を隠そう僕とナナさんで相談して決めたことだったりする。
「そっか、じゃあ9-1エリアの――」
「――おっと、待ってほしいディアナちゃん」
「うん?」
「申し訳ないのだけれど、具体的な情報は控えてくれるかな?」
今はまだ控えてほしい。今この場で新エリアについて詳細を語るのは避けていただきたい。
「ここで発表するよりも、実際にエリアに付いてから発表した方が盛り上がるよね?」
「いやでも、アレクは知っているんだよね……?」
「知っているけれども」
でもほら、なんと言っても――次回予告だから。
この新エリア探索は、次回予告リストに記された案件だからさ。そう考えると――ここだと思うんだ。今ここで次回予告が差し込まれると思うんだ。
ようやくダンジョンに到着して、これから新エリアに向かおうとなった場面で――満を持して次回予告。このタイミングで『世界樹様の迷宮、新エリア』と次回予告が入って、自ずと次回への期待感が高まっていくのだ。
そうして視聴者様は、高まる期待を胸に抱きながら次回を待つのだろう。果たして次回はどうなるのか、果たして新エリアはどんなエリアなのか――ドキドキしながら次回を待つに違いない。
そういうわけで、この時点でネタバレしてしまうのはよろしくない。みんなのためにも詳細は伏せておきたい。
ここはあえて詳しく書かずに、『世界樹様の迷宮、新エリア』という次回予告を、是非皆様に楽しんでいただきたいと願っている所存。
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