第735話 世界樹様の迷宮、新エリア
「ういー」
「おや、こんにちはディアナちゃん」
部屋の扉がノックされ、それからすぐに扉が空いて、誰かが入ってきたと思ったら――ディアナちゃんだ。ディアナちゃんが僕の部屋にやってきた。
おそらくいつものように、ふらっと遊びに来てくれたのだろう。
「今日も今日とてアレクは木工かー。何作ってんの?」
「ん、今日は人形作りだね」
「へー、誰の人形? アタシ? やっぱアタシなん? 愛しのディアナちゃん人形?」
「あ、いや、ごめん、違うのだけど……」
「なんでよー」
なんでよーなんでよーと、ディアナちゃんが僕の肩をペシペシ小突いてくる。来て早々自由だなぁディアナちゃん。
「で、誰なん?」
「妹だね。今日は妹の人形を作っているんだ」
「アンナちゃん人形かぁ。――まぁ許す」
なんか許された……。
あるいは許されないパターンもあったのかな……。ディアナちゃんのことだし、ジスレアさんとかルクミーヌ村の美人村長さんとかだったら許されなさそう……。
「妹はこれからどんどん成長して大きくなるからさ、毎年人形を作っていったら、その成長を記録として残せるかなって思ったんだ」
写真の代わりに人形でアルバムを作ろうかなと、そんな心づもり。
「ん、いいんじゃない? アンナちゃんも喜んでくれそう」
「お、そうかな、喜んでくれるかな」
「たぶんねー。知らんけど」
知らんのか……。どうなんだろうなぁ。喜んでくれるといいんだけどねぇ。
……とりあえず引かれないといいな。いつか妹が成長して、物心ついたときに『これまでの成長を全部人形にしておいたんだ!』と伝え、何十体もの妹人形を見せたら…………なんか普通に引かれそうな気がしないでもない。
「それで、これから毎年ずっと作り続けるの?」
「んー、今のところはそんな予定かな」
「アンナちゃんもしばらくしたら成長が止まって、それからはずっと変わんないでしょ? それでも作り続けるの?」
「あー……」
そっか、それもそうだな。エルフだしな。何百年も変わらぬ妹を作り続けることになるのか……。
「でもまぁ、別にいいのかな? 今でもアレクは賢者さんの人形作っているんでしょ?」
「母の人形? うん、作ってるね」
「賢者さんもずっと容姿は変わっていないわけで……一応賢者さんも、年齢的にまだ当分は変わらないんだよね?」
「…………」
おもむろに余計なことを言い始めたなディアナちゃん……。
たぶんその発言は侮辱判定されちゃうよディアナちゃん……。
◇
そんな感じで妹人形を作りながら、ゆるゆると他愛のない会話を続けていた僕とディアナちゃんだったが――
「でもさー、なんかアレク最近ずーっと家の中にいない? 旅から帰ってきて、ずっと家の中で木工しているか、アンナちゃんのお世話している印象」
――てなことをディアナちゃんに指摘された。
確かにそうかもしれない。一応は定期的に馴染みのお店に寄ったりはしているけど、それ以外だと引きこもりの生活を続けている。
「いやでも、今がチャンスなんだよね……」
「チャンス?」
「セルジャンシリーズを作るチャンスなんだ」
「……どゆこと?」
「僕がプレゼントした世界樹の剣を父も大層喜んでくれて――今ならどんな物を作っても、笑って許してくれそうな雰囲気なんだ」
なんかだいぶやばい性能しているみたいなんだよねぇ……。あの剣で狩りをして帰ってきたときも、父的に相当良い動きができたようで、『僕ちょっと強いかも』みたいなことを言っていたし……。
というわけで父がそんな状態の今こそ、セルジャンシリーズ量産のチャンスなのだ。
とりあえず今は、セルジャンおしゃぶりなんて物を計画中だったりするのだが、さすがの僕でもセルジャンおしゃぶりはちょっと躊躇してしまって……。
「まぁいろいろと悩みながら、次の作品を検討中で――」
「んー、よくないなー。よくないよアレクー」
「よくない?」
「そうやってずっと家の中に引きこもってばかりだから、アレクはアレクなんだよ?」
「…………」
どういう意味だろう……。
ひょっとして、僕の『アレク』という名前を、『遅い』という意味でも使っているのだろうか……。
「ずっと家に引きこもりってのも不健康でしょ? どっか行こうよ」
「確かにそうかもねぇ……。せっかく誘ってもらったし、そうしようかな」
「おー、そうしようそうしよう。行こう行こう」
「でも、どこに行こうか?」
なにせ最近僕が出掛けたところと言えば、診療所と教会と材木店だけなのだ。急に外へ出掛けると言われても困ってしまう。とりあえず今挙げた三箇所は、ディアナちゃんを誘って一緒に行くような場所ではない。
「んー、とりあえずダンジョン行ってみる?」
「ダンジョンか……」
「ん? どしたん?」
「ダンジョンの新エリアに行きたいってのは、次回予告リストにも書いてあることだったりする」
だからまぁ、僕もダンジョンに行きたい気持ちはある。
とはいえ、ここで新エリアに行ってよいものか……。ここで次回予告リストの一項目を消化してしまってもよいものか……。
とりあえず僕が作った次回予告リストが――
『父へのお土産』
『ミコトさんディースさん顕現』
『アイテムボックス検証会議』
『世界樹の酒、開封パーティ』
『鑑定』
『新人力車』
『世界樹様の迷宮、新エリア』
『世界樹様の迷宮、大改装』
――これだ。
そして、つい先日『父へのお土産』を消化したばかりである。
ここでダンジョンの新エリアまで行ってしまったら――あまりにもリストの消費ペースが早すぎる。
もうちょっとじっくり進めるつもりだったのに、このままではあっという間にリストを完遂してしまう可能性が……。
「もうちょい増やそうかな……」
「んん? 増やす? 何を?」
「もうちょっとリストの項目を増やして、尺稼ぎを……」
いやでも、急に増やすと言ってもなぁ……。簡単には思い付かないし、そもそも思い付いたものはすでに全部メモしてあるわけで……。
じゃあどうするか……。こうなったら――またアイデア募集してしまうか?
今までもいろんなアイデアを募集してきた僕だ。ルーレット景品のアイデアを募集したり、木工スキルアーツのアイデアを募集したり、ダンジョンの新エリアのアイデアなんかも募集してきた。
……とはいえ、さすがにこのアイデア募集はどうなのか。
『これから僕は何をしたらいいと思いますか?』などというアイデア募集は、さすがにやりすぎなのではなかろうか。そこまで丸投げしていいのだろうか。そんなことまで他人に託して聞いてしまっていいものなのか……。
「――でも聞いちゃう!」
「お、おう……?」
それでも聞いちゃう! やっぱり聞いちゃう! せっかくなので、みなさまから広くアイデアを募集させていただき、今後の活動の指針とさせていただきたい所存!
というわけで、今回もみなさまのお知恵を是非とも拝借したく存じます! 何卒よろしくお願い申し上げます!
――そして、ついでにディアナちゃんにも聞いてしまおう!
ディアナちゃんからもアイデア募集だ!
「さてさてディアナちゃん。これから先、僕はいったい何をしたらいいと思う?」
「さっきから何を言ってるのか全然わかんないんだけど……。とりあえず自分が何をしたらいいかなんて、自分で決めた方がよくない……?」
「…………」
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