第731話 次回予告
「ところで――」
「はい?」
試しに『ニス塗布』でポリマーっぽい物を作って水を吸わせる実験をしていたところ、ユグドラシルさんに話し掛けられた。
「アレクは『他にやりたいことがある』としきりに言っておったが、具体的には何をしたいのじゃ?」
「ほほう……?」
うん、確かに言っていた。しきりにそう伝えて――無駄に忙しい人アピールをしていた。
「そうですかそうですか、聞いていただけますか。なんなら僕も是非聞いていただきたいです。それはもういろいろと予定が山積みでして、とてもとても忙しい僕だったりするのですよ」
「う、うむ……」
さらに追加で忙しい人アピールをさせてくれるというユグドラシルさんからの提案。僕としても願ったり叶ったり。
「ちょっと待ってください。僕も忘れないようメモに残しておいたのです」
そう言って、僕は虚空からメモを取り出した。
「おぉ、それはアイテムボックスじゃな?」
「ええはい、前回のルーレットで取得したアイテムボックス能力です」
そういえばユグドラシルさんの前でアイテムボックスを使うのは初めてか。
――というより、一応この能力は隠した方がいいだろうって結論になったので、ユグドラシルさんは気軽に目の前で能力を使える数少ない相手である。
「ちなみに、アイテムボックスもそうですね」
「うん?」
「アイテムボックスの検証も、やりたいことのひとつです」
今取り出したメモにも、しっかり『アイテムボックスの追加検証』と書かれている。
「検証が済んでおらんのか? だいぶ慣れた感じで使っているように見えたが」
「もうちょっと追加で検証したいんですよね。この能力は、まだまだ可能性を秘めていると思うんです」
基本的な性能とかは理解できたはずだけど、まだまだ応用が利くと僕は睨んでいる。
むしろそこからが本番なんじゃない? 僕の『ニス塗布』や『ポケットティッシュ』だってそうだ。一応は木にニスを塗ったりポケットからティッシュを出したりってのが基本的な性能なんだろうけど、もう今は明らかにそんな次元を超越した能力になっている。
「ひとまず僕としては、何百何千という数の武器をアイテムボックスに保管しておき、虚空から射出して攻撃できたりしないかなって妄想しています」
「ずいぶんと突飛なことを考えるのう……」
確かに突飛ではあるけど、前世ではわりと有名な技だったので。
「まぁ実際には手を使って出し入れしなきゃいけないみたいなので、何百何千という数の武器を自分の手で引っ張り出して、自力で投擲することになりそうですが」
「だいぶ地味な技に落ち着いたのう……」
現状ではそれが精一杯。あまりにもかけ離れた理想と現実。
「さておき、そんな感じで追加検証をしたいのです。アイテムボックスを使えるモモちゃんやミコトさん達と一緒に検証したいなって――あ」
「うん?」
ミコトさん……。そういえばミコトさんとディースさん……。
「……あと僕のやりたいこととして、ミコトさんとディースさんの召喚もしたいですね」
「ふむ? 二人とも今は天界か? ……というか、もしや帰ってきてから一度も召喚しておらんのか?」
「ええまぁ、まだ一度も……いや、だけど違いますよ? 別に忘れていたわけではないですよ?」
「……忘れていたのか?」
いやいや、違うと言っているじゃないですか。違いますとも。うっかり忘れて放置していたわけではないですとも。
「えぇと、つまりなんと言うか…………あ、タイミングをずらした方がいいのかなって」
「タイミング?」
「そうですよ、タイミングですよ。確かディースさんは、一年前に僕の旅と同じタイミングでこの村から天界へ転送されたと記憶しています。そしてミコトさんは、半年ほど前に僕のルーレットと同じタイミングで天界へ転送されたはずです。そんな二人が僕と同じタイミングで村へ戻ってきたら、少々不自然だと思いませんか?」
「なるほど、それは確かに……」
「なので、タイミングをずらした方がいいと考えたのです。そして今は、実際に召喚するタイミングを見計らっている最中なのです」
「ふむ。確かに納得できる理由じゃ」
「ですよね? 納得できますよね? ――というわけで、忘れていたわけではないです」
「……そう何度も繰り返し言われると、やはり忘れていたのではないのかと疑ってしまうのう」
いやいや違いますとも。忘れていたわけでもないですし、今必死に理由を考えて、天界で聞いているであろうミコトさんとディースさんに向けて言い訳したわけではないですとも。
「もちろん忘れていたわけではなくて、なんならメモに残すまでもないことだと思っていたのですが――一応は新たにメモに記しておきましょうか」
「……うむ」
というわけで、二人の召喚をメモにサラサラと書き込んでいく。よし、これでもう大丈夫。
「さてさて、あとメモに書かれていることと言えば――世界樹の酒ですかね」
「あー、そういえばあったのう」
「その節は大変お世話になりました。ユグドラシルさんが素足で踏んだぶどうを、ユグドラシルさんからいただいた世界樹の枝で作った世界樹の樽で熟成――そうして完成した世界樹の酒を、いよいよ開封したいと考えております」
「……まぁわしの素足はともかく、どんな出来に仕上がったかはわしも気になるところではある」
「元々僕が旅から帰ったら開封の予定でしたので、近いうちにやりたいのですが――でもせっかくなら、大々的にイベントとしてやってみたいところですよねぇ」
「お主はイベントが好きじゃのう……」
なんだかんだで村のみんなもイベントが好きで盛り上がってくれるし、なんと言ってもユグドラシルさんが素足で踏んだぶどうで作った世界樹の酒だからな。きっとみんなも飲みたいに違いない。
とはいえ、なにせ生産量が少ないため、そのあたりをどうするか悩みどころだ。
「――まぁそんな感じで、軽くメモの内容を三つほど挙げさせていただきました」
「ミコトとディースの件は、今この場で追加されたような気もするが……」
ええまぁ、それはまぁ……。いやでも、今はちゃんとメモに書かれているし、そもそも僕はその件を忘れたりしていなくて、元々しっかり予定にあったことだから……。
「さておき、そんな感じで予定が書かれていて、他にも細々とした予定がたくさん書かれているわけです」
「ふむ。アレクの今後の予定か」
「そうですね、例えるならこのメモは――僕の次回予告と言ったところでしょうか」
次に僕が何を始めるか予告されているメモ。そんな次回予告メモ。
「次回予告とは、あまり耳慣れない言葉じゃのう」
「あー、まぁそうですかね。前世ではよく聞く言葉だったのですが」
確かにこの世界では聞かない言葉かもしれない。
まるで聞かない言葉であり――今世の僕とはまったくの無縁で無関係のシステムだったり構成だったりするのだろうね。
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