第728話 木工シリーズ第150弾『ガラガラ』
「だー」
「うんうん」
「だー」
「うんうん」
というわけで自宅のリビングにて、ベビーベッドに寝かされている妹をあやしていた。
やはりガラガラを作って良かったな。妹も大層喜んでいる。ご機嫌な妹を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになる。
そんなわけで繰り返し妹にガラガラと、繰り返し繰り返しガラガラと――
「おーい」
「ん? ――おぉ、ユグドラシルさん」
ユグドラシルさんだ。ユグドラシルさんが遊びに来てくれたようだ。
「こんにちは、ユグドラシルさん」
「うむ」
「だー」
「うむ。アンナも元気そうで何よりじゃ」
僕に挨拶を返した後、ベッドの妹を覗き込み、軽く手を振るユグドラシルさん。妹も嬉しそう。
この様子を見るに、きっとユグドラシルさんは僕が旅をしている間も頻繁に家を訪れ、妹の相手をしてくれていたのだろう。ありがとうユグドラシルさん。
「ところでアレクは何をしておったのじゃ? その手に持っている物は――ヒッ」
僕が手に持っている物を見て、ユグドラシルさんが小さく悲鳴を上げた。
「なんじゃそれは……」
「これはガラガラと言って、赤ちゃん用の玩具です。中に小さな球が入っていて、その名の通り振るとガラガラと音が鳴ります」
「ガラガラ……。いや、それよりも……。その顔は……」
「ええはい。――父です」
父である。球を入れておく筒の部分を、父の頭部にしてみた。そんなガラガラ。セルジャンガラガラ。
「じゃんがらです」
「……じゃんがら?」
まぁこのガラガラについては迷ったよね。僕もいろいろと迷った。材質とか音色とかも迷ったし、何よりもデザインで迷った。
「いろいろと迷った結果――やっぱり父なのかなって」
「何故じゃ……。どうしてそうなった……」
「まぁなんというか、妹からすると慣れ親しんだ父親の顔で、安心感を得られるのではないかと」
「そうなのじゃろうか……」
たぶんそう。きっとそう。そう考えると悪いアイデアではないと思うんだ。
別に僕だって、いたずら半分でセルジャンヘッドを作ったわけではないのだと、そこだけはご理解いただきたい。
「一応レリーナちゃんにも相談してみたのですが、僕らしいと褒めてくれました」
「それは別に褒めておらんじゃろ」
「…………」
……やっぱりそうなのかな。なんか微妙に誉めているようで誉めてはいないような気はしたのだ。
いやでも、『アレクらしい』が『褒め言葉にならない』って、冷静に考えるとひどいことを言われてない?
「ちなみにですが、普通のガラガラもあったりします」
「む?」
「こちらです」
テーブルに手を伸ばし、いわゆる普通のガラガラを手に取った。
こちらは父の顔ではなく、ただの筒になっている。とはいえ、やはりこちらもそれなりにデザインにはこだわっていて、筒の絵柄にはユグドラシルさんと大シマリスのモモちゃんを採用させていただいた。二人の楽しそうな姿が、ニスによって描かれている。
「実はセルジャンガラガラは二作目で、こっちが試作品のガラガラだったのです」
「こっちでいいじゃろ……」
「ええまぁ、これはこれで大変可愛らしくて良い物だとは思うんですけどね」
「絶対こっちでいいじゃろ……」
自分とモモちゃんの方を激推しするユグドラシルさん。
……まぁ自分を推すというより、セルジャンガラガラの方にドン引きしているのだろうけど。
「ユグドラシルさんは、セルジャンシリーズ苦手ですよね」
「こんな物を得意な者などおらんじゃろ……。笑っていて怖いのじゃ……」
いつもの柔和な父の笑顔、それすらもさらなる恐怖のエッセンスに感じてしまうらしい。
「いやでも、妹は喜んでいるっぽいですよ?」
「む……?」
「見ていてください。試しに今から両方のガラガラを妹に振ってみます」
やはり一番大事なのは妹本人の反応だと思う。
というわけで、妹の反応をユグドラシルさんにも確かめていただきたい。
「さぁ妹よ、普通のガラガラだよ?」
「うー」
「さぁ妹よ、セルジャンガラガラだよ?」
「だー」
――ってな感じの妹の反応。
どうですユグドラシルさん、今のでわかったのではないですか?
「お主はアンナのことを、『妹』と呼ぶのか?」
「……はい?」
え、いや、そこは別に……。今そこは論点ではないのだけれど……。
でもユグドラシルさん的に、ちょっと気になってしまった部分っぽい。
「えぇと、僕って父のことを『父』と、母のことを『母』と呼ぶじゃないですか。その慣例に従うと、やはり妹は『妹』と呼ぶのが適切なのかなと……」
「慣例なのか……」
慣例なのです。なので適切なのです。
……まぁそもそも父を父、母を母と呼ぶことが適切なのかって疑問もなくはないが。
「それより今はガラガラです。ユグドラシルさんはどう感じましたか?」
「……うむ。確かにセルジャンガラガラの方が喜んでいたような気もするのう」
「ですよね?」
若干だけど、そんな気がする。セルジャンガラガラの方が、妹のテンションもちょっぴり高めな印象を受ける。
「――あ、でも別に、ユグドラシルさんとモモちゃんの絵柄がダメってわけではないと思うんです」
「む?」
自分達よりもセルジャンヘッドが喜ばれると言われたら、それはユグドラシルさんも良い気はしないだろう。一応フォローをしておこう。
「形状も含めて喜んでいるようですし、なんならユグドラシルさんの頭部でも、同じように喜んでくれる可能性もあって――作りましょうか?」
「それは別にいらん」
「……そうですか」
ぴしゃりと断られてしまった。そんな嫌がることもなかろうに……。
ユグドラシルさんのヘッドなら全エルフが大喜びで、大人気赤ちゃんグッズとして大ヒット商品になりそうな予感がしたのにねぇ……。
「いやでも、自分のガラガラで喜んでくれたら、それって嬉しくないですか?」
「うーむ。どうじゃろうなぁ……」
「きっと父もそうですよね。娘が自分の顔で喜んでいることは、父にとっても幸せなはずです」
「そうなのじゃろうか……」
たぶんそうだと思う。セルジャンガラガラを父本人に見せたときは、とてもとても渋い顔をしていて、笑顔のセルジャンガラガラとの対比でちょっと面白くなってしまったが――でもまぁ、やっぱり父だって娘に喜んでほしいはずで、娘の幸せこそが父の幸せで、セルジャンガラガラのおかげで父は幸せなんだと僕は思う。とりあえずそんなことを勝手に思っている
「まぁそんな感じで、僕としては、これから先も妹用の赤ちゃんグッズをたくさん作ってあげたいのですが――この調子だとすべてがセルジャンシリーズになってしまいそうで、そこが少し怖くもあります」
「少しどころではないな……。とんでもなく恐ろしい光景が待っていそうじゃ……」
ええまぁ、妹の周りには無数の父の頭部が並ぶことになって、想像すると恐ろしくも感じるけれど……。
でもそれが妹の幸せで、それが父の幸せらしいので……。
next chapter:総集編16 ――エルフの掟達成のご報告




