第724話 総集編14 ――世界のお土産
「失礼しました。少々エキサイトしてしまいました。常に冷静沈着で泰然自若で明鏡止水なナナさんらしからぬ言動でしたね」
「お、おう……」
アイテムボックスの件について、声を荒らげたことを恥じるナナさん。
確かに珍しいといえば珍しいナナさんの激昂シーンだったかもしれないけれど、普段の自分への評価について、どれだけ御大層な四文字熟語をつらつらと並べるのか……。
でもまぁ、とりあえず落ち着いてくれたのなら何よりだ。
「あ、そうだ。そういえばナナさんにお土産があるんだ」
「ほう? お土産ですか?」
「アイテムボックスがあることで、用意できるお土産にも幅が広がって――」
「チッ……」
「…………」
でもやっぱりアイテムボックスの話題を出すと舌打ちも出てくるのか……。明鏡止水の心はどうしたのだナナさんよ……。
「失礼しました。それで、アイテムボックスを利用したお土産ですか。だとすると――食品ですかね」
「おぉ、やるなぁナナさん」
ほんの少しのヒントを元に正解へとたどり着いた。さすがナナさん、素晴らしい推理力と考察力である。
「いえいえ、大したことはないです。アイテムボックスには時間経過がないようなので、そのことを利用して食べ物をお土産に用意したのでしょう。そして、その食べ物とはおそらく――ただのパン。ただのパンをラフトパンと称して、お土産に渡すおつもりでしょう」
「…………」
そこまで鋭いと困ってしまうな……。もうお土産を出しづらくなってしまったじゃないか……。
「つまりはただのパンなのでしょうが、お土産をしっかり用意していただいたことが嬉しいです。ありがとうございます。一応貰っておきます」
「うん、じゃあ貰ってくれるかな……」
一応とか言われると微妙だけど、一応は喜んでくれるんだよね……?
「ええはい、ありがとうございます。おや? 他にもあるんですね。これは……キノコ?」
「ラフトキノコだね」
「ラフトキノコ?」
「ラフトダンジョンのキノコなんだ」
「あぁ……。マスターが愚痴っていたダンジョンの歩きキノコですか」
ラフトダンジョンのコピペエリアで延々倒し続けてきた歩きキノコである。
そもそも僕は食材としてのキノコも嫌いだし、もう何もかもがうんざりしていたラフトキノコではあったけど、ラフトの町のお土産にはなるかと思って持ってきたのだ。
「あとはナナさんの推察通り、ラフトパンだね。ナナさんはただのパンと言っていたけど、これは四人の女神様が愛したという、とてもとてもありがたいパンなのだよ?」
「四人の女神様?」
「ルーレットで天界に行ったときも、女神様達にお土産として渡したんだ」
「そうなのですね……。しかし『女神様が愛したパン』というのは、マスターの誇張が入っているのではないかと疑ってしまいますが……」
まぁ本当に心から喜んでくれて愛してくれたかどうかは定かではない。ディースさんは喜んでくれたけどね。
「あ、そうだ。あと天界のお土産もあるんだ」
「ほう? それは楽しみですね。天界の食べ物を持ってきてくれたのですか?」
「…………」
「マスター?」
あー、いや、別にそういうわけではなくて……。そもそもアイテムボックスに時間経過がなくて、食品を保存できるとわかったのも下界に戻った後だったから……。
なのでナナさんが期待するような天界の食べ物ではない。今回僕がナナさんに用意した天界土産というのは――
「なんですかこれは……」
「ペナントだね」
いつもの三角形のペナント。中央には『天界』と大きく書かれている。
「……マスターにはがっかりです」
「ごめんねナナさん……」
「まぁ一応これも貰っておきますし、一応部屋の壁にも掛けておきますが」
「ありがとうナナさん」
やっぱりなんだかんだでペナントを普通に喜んでくれているのではなかろうか。
◇
「さて、いろいろと旅の話を聞いてもらって、お土産も渡し終わったところで――今度はナナさんの話を聞きたいな。ナナさんからは何かない? 僕がいない一年で、何か変わったことはなかったかな?」
なにせ一年だからね。僕がいない空白の一年。まぁ旅の間もDメールで毎日やり取りをしていたし、大体のことは知っているはずだが、Dメールでも伝えきれない細々とした変化などはあっただろうか?
「そうですねぇ……。あると言えばあるのですが」
「おや、そうなの? なんだろう? とりあえず僕としては、僕がいない一年は家族全員の心に大きな穴がぽっかりと空いてしまって、もはや家の中は火が消えたような雰囲気だったと予想しているのだけれど」
ジスレアさんに似たような質問をしたところ、『さすがにそこまでじゃあない』と言われてしまった記憶がある。
でもあれは『村の中』という質問だった。そして今回は『家の中』である。さすがに実家ならば状況が違うはず。家族ならば僕のことを寂しがって、火が消えたような雰囲気になっていたはずだ。
「この家の状況で言うと、もはやお祭り騒ぎの一年でしたが」
「何故なのか……」
何故そうなる……。いや、まぁ良いことなのかもしれないけどね。火が消えた一年よりは良いのかもしれないけど、お祭り騒ぎってのはどういうことか……。
「こちらもいろいろとありまして……。では、付いてきていただけますか?」
「ふむ?」
◇
「ミリアム様」
「どうかした?」
ナナさんに連れられて、台所までやってきた。
台所では、母が僕のために凱旋祝いの料理を作ってくれている。
「そろそろ発表してもいいのかと」
「そう? まぁそうね。アレクから気付く前に発表しましょうか。じゃあアレク、付いてきて」
おぉ、なんだなんだ。二人とも僕に何を隠しているというのだ。あっちこっち僕を連れ回して、いったいどうしようというのだ。
でもまぁとりあえず言われるまま母に付いていき――父と母の寝室まで移動した。
そこで待機するように言われ、待っていると――まず父が寝室から出てきて、それから母が出てきた。
そして母の腕には――
「――赤ちゃんだ」
母の腕には赤ちゃんが抱かれていて、すやすやと眠っていた。
赤ちゃんである。いまいち状況が飲み込めないが、なんか赤ちゃんがいる。可愛い。
「おー、可愛いねぇ。女の子かな? どこの子かな?」
「うちの子よ」
「ん?」
「アレクの妹ね」
「んんん……?」
next chapter:妹




