第722話 そしてまた、田舎でのんびりスローライフを2
エルフの掟を無事に達成して、村に帰ってきた。
そして緩めの凱旋パレードなんかを企画して、自宅までの道のりをゆったり練り歩いたわけだが――
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「ムー! ムー!」
「おめでとー!」
「おめでとうございますー」
「おめでとう」
「おめでと」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
――てな感じだった。
それほど準備もできなかったし、大規模な告知なんかもできなかったけれど、わらわらと村の人達が集まってくれて、僕のことをお祝いしてくれた。
「そうですか、最終回ですか」
「いや、違うけども」
自宅に帰ってきて、ひとまずナナさんと凱旋パレードの振り返りをしていたところ、どこぞの最終回っぽいとの指摘を受けてしまった。
確かにわからんでもない。むしろ僕も同じことを思った。いろんな人から『おめでとう』の言葉を掛けられて、どうしても連想してしまった。途中の『ムームー』も、なんかちょっとそれっぽかった。
とはいえ、別に最終回ではない。勝手に人の物語を締め括ろうとしないでいただきたい。
「それはそうと、やっぱり嬉しかったね。帰ってきて良かったなーって、そう思ったよ」
「ほうほう。やはり故郷は良いですか。マスターには、ちゃんと帰れるところがあるということですね」
「え? ああ、うん、僕には帰れるところがあるから……」
「こんな嬉しいことはないですよね?」
「……僕には帰れるところがあるんだ。こんな嬉しいことはない」
「そうですか、最終回ですか」
「いや、違うけども」
またしても、どこぞの超名作アニメの最終回っぽいことを言ってしまった。というか、今のは完全に言わされた。
「まぁ最終回ではないけれど、掟も達成して旅も終わって、いろいろと一段落した感じはあるよね。しばらくは故郷でのんびりするよ」
ジスレアさんにも言ったけど、肩の荷が下りた感じだ。案外僕の中で掟がプレッシャーになっていたのかもしれないな。案外肩の荷が重かった。無事に下ろせてホッとしている。今はゆっくり休みたい気分。
「ふむ。そしてまた故郷でのんびりスローライフを送ると? それもまた微妙に最終回っぽい言い回しですねぇ」
「ん? そうかな?」
「おそらくマスターの物語にタイトルを付けるとすれば、『転生ポンコツ半ズボンエルフが田舎でのんびりスローライフを送ります』――と言った具合でしょう」
「ポンコツ半ズボン……」
いきなり何を言うのか……。勝手に僕の人生にタイトルを付けて、しかもポンコツ半ズボンとは何事か……。
「えぇと、もうちょっと他にないものかな……」
「鈍亀半ズボンの方がいいですか?」
「いや、それも……」
「『転生鈍亀半ズボンエルフが田舎でのんびりスローライフを送っているけど、もう遅い』」
「…………」
なんか『もう遅い』が別の意味になったな……。
「まぁマスターは本当の本当にスローライフを送っているため、タイトルに『スローライフ』を入れるのは、もはやタイトル詐欺なのではないかという疑惑も浮上しますが」
「あー、大抵は全然スローライフしてないからね……。普通にバチバチのバトルとか始めちゃうから……」
本当にスローライフだけをやっていたら、むしろびっくりされちゃうっていうね……。
「さておき、そんなタイトルの物語で『そしてまた、田舎でのんびりスローライフを』などと言い出したら、それはもう最終回ですよ」
「そうなのか……」
タイトル回収で感動のフィナーレなのか。
「でもさー、それで言うならもっと最終回っぽい雰囲気を醸し出せたらよかったね。なんというか、凱旋パレードでもあんまり感動的な雰囲気にはなっていなかった気がするんだ」
笑いあり涙ありの感動的な最終回っぽくはなかった。どちらかというと笑いしかなかった。
「それはそうでしょうね……」
「ふむ? と言うと?」
「そんな浮かれポンチみたいな格好をしていたら、そんな雰囲気にもなりますよ」
「浮かれポンチ……」
そうか、僕の格好か。本日の主役タスキとパーティハットがダメだったか……。
「確かにディアナちゃんからも『間抜けに見える』って指摘されたかな」
「では何故……」
「思い切りが足りないのかと思って、星型のサングラスを追加してみたのだけれど」
「より間抜けになるだけですよ……」
「うーむ……」
やっぱりそういう印象になってしまったか……。一年ぶりの凱旋で、間抜けな浮かれポンチが村を練り歩いている姿を、みんなはどう見たのだろうか……。
それでも『おめでとう』と声を掛けてくれたことはありがたいが……。いや、あるいは『おめでたい奴』と言われていた可能性もなくはなくて……。
「……次はもうちょっと考えて凱旋パレードを開きたいところだね」
「次ですか?」
「うん、掟の旅は終わったけど、またそのうち旅に出ようかとは思っているんだ。旅先で知り合いも増えたし、また機会を見付けて出掛けてくるよ」
カーク村やラフトの町の人ともまた会いたいし、王都や魔界にも行ってみたいと一応は考えている僕なのだ。
「なるほど、マスターの旅はまだ続くと?」
「そうだね。まだまだ続くね」
「なんなら始まったばかりだと?」
「……僕達の旅はまだ始まったばかりだ」
「最終回ですねぇ」
どんだけ僕の物語に終止符を打ちたいのだナナさん……。
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