第721話 そしてまた、田舎でのんびりスローライフを
メイユ村目前までやってきて、ひとまず僕達は足を止めた。
僕とジスレアさんとヘズラト君の三人は足を止めて……いや、まぁヘズラト君の人力車に乗っている僕の足は、そもそも最初から止まっていたのだけれど。
さておき、全員が足を止めて、ようやく帰ってきた故郷メイユ村を眺めた。
「メイユ村ですねぇ」
「うん、帰ってきた」
「キー」
なんか普通に帰ってきちゃったな。最後の最後で何かイベントがあるかと思いきや、本当に何事もなく帰ってきてしまった。
まぁいいんだけどね。別に僕も何か起こってほしいわけではないし、何事もないならそれが一番だ。
「それじゃあ行こう。みんなアレクを待っているはず」
「ふむ……」
「どうかした?」
「このまま村に入るのはどうなのでしょう」
それは僕だって今すぐ帰りたい。久々にみんなと会いたい。
だがしかし、このままサラッと帰るのもどうなのか。それはちょっと芸がないのではなかろうか。
「この際もっと華やかに、もっと盛大に――凱旋パレードを開いたらどうでしょう」
「凱旋パレード……?」
いや、うん、わかっている。そんなことを自分から提案するのはどうなんだって僕も思う。
でもさ、なんだかんだみんなお祭り好きでしょう? 僕が思い付きで企画するお祭りを、みんな楽しんでくれているじゃない。
あとはまぁ……僕も褒められたい。僕も僕なりに頑張って旅をしてきたと思うので、できたらみんなに褒めてもらいたい。華やかな舞台で、盛大に褒めていただきたい。
「そうなの? アレクは帰ってくるときの姿を見られたくないのだと思っていた」
「いや、それは……」
ええまぁ、確かに今まではそうでしたけどね……。なにせ掟を達成できずに、おめおめと敗走する姿だったので、みんなに見られないよう隠れながら自宅まで戻りましたとも……。
だがしかし、それで言うなら今回はむしろ真逆の状況だ。今回こそは、大手を振るって堂々と村に凱旋できる機会が訪れたのだ。
「ひとまず村から離れて、いっそのこと一週間ほどキャンプを張って、入念に準備を重ねてから凱旋パレードを――」
「――アレク、危ない」
「え? なんですか?」
「とりあえず無力化する」
「はい?」
え、何? なんなの? いきなりどうしたというのだジスレアさん。
発言の内容からすると、僕に何かしらの危険が迫っていて、その危険を排除しようとしているみたいだけれど、いったい何が――
あっ……。
◇
「ムー! ムー!」
「…………」
僕の目の前には、ジスレアさんに捕獲されて、簀巻きにされたレリーナちゃんが……。
「とりあえず、リザベルトの家に置いてくる」
「あ、はい。でもあの、できるだけ穏便に、優しく運んであげてください……」
「善処する」
「よろしくお願いします……」
「ムー! ムー! ムー!」
そんな会話があって、簀巻きレリーナちゃんはジスレアさんに担がれて、村へと運ばれていった。
そして、その様子を何とも言えない表情で見つめる僕とヘズラト君……。
「……久しぶりの再会で、居ても立っても居られなくなっちゃったんだろうね」
「キー……」
特に僕が、『あと一週間ほど村を離れる』とかなんとか言ったから、近くに潜んで聞いてたレリーナちゃんからすると、それは到底看過できる発言ではなくて……。
というか、何故近くに潜んでいたのか……。普通に声を掛けてくれたらよかったのに……。
一年ぶりの再会だというのに、だいぶ残念な感じになってしまった。なんなら再会と呼んでいいのかすらわからない。ろくに会話もできず、すぐさま簀巻きにされて護送されていってしまった……。
◇
「やっぱりこのまま村に入ろうかな……」
「キー?」
「うん、最初はしっかり準備してから入るつもりだったんだけど、僕の帰りを心待ちにしてくれる人がいると思うと、できるだけ早く帰った方がいいのかなって」
心待ちにしすぎて暴走してしまった人を、間近で見てしまったからね……。
「ジスレアさんが戻ってきたら、すぐ移動しようか。華やかで盛大な凱旋パレードにはならないかもだけど、僕達に気付いた人はそれなりに喜んで出迎えてくれるんじゃないかな」
「キー」
そういうわけで、ジスレアさんを待ちながら準備をしておこうか。
まったく気付かれないってのも寂しいからね。それなりに僕の存在をアピールして、それなりに歓迎してもらえるよう準備をしておこう。
「うん、一応はできるだけの準備をして――おや?」
「キー」
ふと、村の方から誰かが近づいてくることに気が付いた。
あれは――
「おー、やっぱいた」
「――ディアナちゃん」
ディアナちゃんだ。ルクミーヌ村の幼馴染、ディアナちゃんである。
一年ぶりのディアナちゃんは、どことなく成長していて、より大人っぽく、より美人さんになっている気がした。
「おーおーおー、アレクじゃん。アレクじゃーん」
ぺしぺしぺしと、ディアナちゃんが僕の肩にパンチをしてきた。
口調は軽い感じだけど、再会の喜びは隠しきれないようで、ディアナちゃんの口元はにんまりしている。
「なんかレリーナが簀巻きにされて、勘違い女――ジスレアに運ばれてたから、もしかしたら帰ってきてるんじゃないかと思ったんだよねー。モモもおかえりー」
「キー」
「ただいまディアナちゃん」
「おかえりアレク。……もう、待たせすぎだっての」
そう言って、今度は優しく僕の肩を小突くディアナちゃん。
さすがだなぁ……。なんかもう瞬く間にラブコメ時空に引きずり込んでくるものな……。
しかしこれは、レリーナちゃんからすると腸が煮えくり返るような展開だろう……。自分は簀巻きにされて強制送還されて、その隙にディアナちゃんがラブコメしているという……。
「それにしても久しぶりだね。なにせ一年ぶりだものね」
「だねー。一年だねー。どう? この一年でアタシも成長したんじゃない? より大人っぽく、より美人になっているんじゃない?」
「そうだね」
「お、おう……」
ディアナちゃんが照れている。照れ隠しにヘズラト君――モモちゃんをわっしゃわっしゃしている。ここは以前と変わらんな。変わらぬやり取り。
「ところで僕はどうかな? ちょっとは成長したように見えるかな」
「あんまり変わってないように見える」
「…………」
そうなのか。一年ぶりなのに。一年の旅を経て、エルフの掟を達成してきたというのに……。
「というか、その格好はなんなん……?」
「うん? ああ、これは僕が自作したおめでたい日の格好で――本日の主役タスキとパーティハットだね」
それなりの凱旋パレードを目指して、一応は装着しておいたのだ。
どうかな? 実際にお出迎えをしてくれるディアナちゃんの感想を、是非ともお聞かせ願いたい。
「まぁアレクっぽい感じはするけどね……。でも、外したほうがいいんじゃない?」
「あれ? ダメかな」
「なんか間抜けに見えるし」
そうなのか……。
というか、そんな間抜けな格好だというのに、僕っぽいとはどういうことか……。
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