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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第720話 旅の終わり5


 ――誕生日である。

 今日僕は誕生日を迎え、二十一歳になった。


 めでたいね。非常にめでたい。

 なんなら誕生日というだけでもいろいろと語ることがあり、これでワンエピソードくらいはいけそうな気がしなくもないが……。


 だがしかし、今日はそれ以外にもイベントが目白押しで、なんと言っても今日この日をもって――エルフの掟、無事達成である!


 めでたいね。非常にめでたい。

 世界を旅すること二年、今日で無事に掟達成。文字通り達成感がすごい。


 というわけで、僕の旅はこれにて完結。後はラフトの町を出発し、帰路につくだけである。

 そうして今、僕とジスレアさんとヘズラト君の三人は、町の検問までやってきた。


「ありがとー、みんなありがとー」


 さすがに町を挙げての大送別会とまではいかなかったけど、検問前にはそれなりの人数が集まってくれた。

 何気にヘズラト君のファンも多いっぽいな。そんな雰囲気を感じる。可愛らしいヘズラト君がいなくなってしまうことを、大勢の人が寂しがっているのだろう。

 というか、普通に僕の見送りよりも、ヘズラト君の見送りに来た人の方が多いのでは……?


 ……いや、でもまぁそうだよね。そこは認めよう。

 なにせこの町で僕は、謎の仮面の半ズボンだから……。それに比べてヘズラト君は、ふわふわで可愛らしい大きなシマリス君だから……。


「さぁさぁ、ヘズラト君も応えてあげて」


「キーキー」


 というわけで、みんなの声援に応えるようヘズラト君にも(うなが)してみた。

 観衆もヘズラト君の愛らしい姿に喜んでいるように見える。


「うんうん。あっちにも手を振っておこうヘズラト君。そして次は向こうにも振っておこう」


「キーキー」


 よしよし。良い感じでファンサできている気がするぞ。

 ちなみに、せっかく用意した本日の主役タスキとパーティハットではあるけれど、状況が状況なので着用は控えることにした。

 残念だけど仕方がない。まぁいいさ。むしろ僕は今の状況を喜んでいる。ヘズラト君がみんなに可愛がられていることは、僕としても嬉しいものだ。


「キーキー」


「それじゃあその調子で頑張ってヘズラト君」


「キーキー……」


 さて、ヘズラト君には引き続き頑張ってもらうとして、僕は僕で他の人達と交流してこよう。

 誰か僕の知り合いは――


「あ、ケイトさん。ありがとうございます。見送りにきてくれたのですね」


「検問で門番をしていただけで、元からここに居たわ」


「なるほど」


 普通に仕事をしていただけだった。なんかちょっと自意識過剰で恥ずかしい勘違いをしてしまった。

 本日の主役かと思えばそんなこともなく、見送りに来てもらったかと思えばそんなこともなく、おめでたい日だというのに、何やら残念な思いばかりしているな。


「それで、いよいよアレク君達も出発なのね」


「そうなります。長い間お世話になりました」


「いいのよ。アレク君とはいろいろあったけれど、なんだかんだで退屈はしない楽しい日々だった気もするわ」


「それはそれは、そう言ってもらえると嬉しいです。またそのうち遊びに来ることがあると思うので、次回も期待を裏切らないよう励みますね」


「えぇ……。まぁその、お手柔らかにね……」


 てな感じでケイトさんへの挨拶が終わり、その後も知り合いを探しては挨拶を交わしていく。

 その中で、特に関係の深いエルザちゃんや、リュミエスさんやクリスティーナさんやスカーレットさんの姿も確認できた。そしてエルザちゃんには膝小僧をツンツンされ、リュミエスさんには別れのハグをしてもらった。


 うむ。膝小僧とハグだけで僕はもう満足だ。もうこれだけで今日が素晴らしい日だったと断言することができる。

 ありがとうラフトの町。さらばラフトの町。いつかまた戻ってこよう。



 ◇



「なんだか肩の荷が下りた気分です」


 ラフトの町を出発し、ヘズラト君の引っ張る人力車に揺られながら、隣を歩くジスレアさんに話し掛けた。


「想定よりも時間は掛かってしまいましたが、無事に掟を達成することができて、無事に旅も終わって、僕としてはホッとしています」


「そう。お疲れ様アレク」


「ありがとうございます」


 というか、ジスレアさんには本当に感謝だ。かれこれ二年間も旅に付き合ってもらって、八回もの世界旅行に付き合ってもらって――きっとジスレアさんがいなければ無事に旅を終えることはできなかっただろう。本当にありがとうジスレアさん。


「――でも、旅の終わりで掟達成と言うには、少し早い気がする」


「はい? 早いですか?」


「やっぱりメイユ村に帰るまでが旅だと思う。今はラフトの町を出ただけで、旅はまだ続く。だから最後まで気を抜かないように」


「なるほど、確かにそうですね。ありがとうございますジスレアさん」


 軽く(たしな)められてしまった。何やら遠足の決まり文句みたいなことを言われてしまった。家に帰るまでが旅であり、家に帰るまでが掟とのことだ。


 まぁそうか。確かにジスレアさんの言わんとすることはわかる。

 ってことはやっぱり……まだ旅は終わっていないのかな。ここしばらく旅の終わり旅の終わりと連呼していて、今日という日を迎えた段階で旅が終わったつもりでいたのに、実際は全然終わっていなかった……。


 いやでも、そう考えると不穏だな。なんだか不穏な空気が漂ってきた。

 無事にすべてが終わったと油断しているところに、この流れ。果たして僕はこのまますんなり旅の終わりを迎えることができるのだろうか? おそらく何か……最後にとんでもないイベントが待ち受けているのではなかろうか……?


 ……ちょっと気になるのは、少し前に挙がった蘇生薬の話題。

 旅の途中で命を落とすとか、そして蘇生薬で復活するとか、そんな話になっていた気がするのだけど……あれはもしやフラグだったのでは?

 僕としてはそうならないよう旅の終わりを待っていたはずが、でも実際には旅が終わっていなかったわけで――


「……気を引き締めて行きましょう」


「うん? うん、そうしよう」


「キー」


 さてどうなる……。鬼が出るか蛇が出るか……。

 というか、なんか出ないとおかしいよね。もうそんな気がしてきた。ふと旅を振り返ってみると、隣村に二ヶ月滞在して、隣町に十ヶ月滞在して、その間はのんびり狩りをするか木工をするかで、最後の半年なんてお皿と人形作りだけで終わってしまって……。

 それでそのまま何事もなく旅が終わるとか、果たしてそんな展開が許されるのだろうか?


 いいや、許されない。これはもう何かあるね。むしろ最後に何かなければおかしい。これでもしも本当に何もなかったとしたら――それは物語として破綻している。



 ◇



 ――三週間後。


「……何事もなく帰ってきてしまった」


 目の前には、懐かしのメイユ村。

 何もなかった。普通にラフトの町を出発して、カーク村に到着して、ひとまずカークおじさん宅にて一週間逗留したのち、メイユ村を目指して――そしてそのまま到着してしまった。


 あっさり何事もなく本当に旅が終わってしまった……。物語として破綻していた……。





 next chapter:そしてまた、田舎でのんびりスローライフを

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