第714話 目標600ポイント
「か、格好いい……」
「ふふふ。そうでしょう? 格好いいでしょう? これこそが――竜へと変身した魔王リュミエス様のお姿なのです!」
――てな感じで、冒険者ギルドの納品所にやってきた僕は、ヒゲの受付さんに竜バージョンのリュミエス人形を見せびらかしていた。隣のリュミエスさんもどことなく自慢げである。
「あ、でも違くて、別に見せびらかしに来たわけではなくて、納品に来たのですよ」
「おぉ、そうだそうだ。あまりの迫力に、こっちも仕事を忘れてしまっていた」
ふむ。そう言ってもらえると僕も悪い気はしない。ヒゲの受付さんも存分にリュミエス人形の迫力に感服して敬服してくれたまえ。
「しかし本当に大したもんだな。完成までどれくらい掛かったんだ?」
「そうですねぇ。制作日数としては二ヶ月ほどでしょうか」
「二ヶ月か……。なるほどなぁ。そう聞くと長く感じるけど、なにせこの出来栄えだ。なんなら二ヶ月って期間も短く感じてしまうな」
うむ。ヒゲの受付さんも絶賛である。悪い気はしない。その調子でヒゲの受付さんもリュミエス人形の素晴らしさに屈服して平伏してくれたまえ。
「さて、そんなリュミエス人形も無事に完成したわけで――諸々の手続きをお願いしてもよろしいでしょうか」
「ああ、わかった。納品と、受け渡しと、支払いだな」
「よろしくお願いします」
僕からギルドへの人形納品と、ギルドからリュミエスさんへの人形受け渡しと、ギルドから僕への報酬支払いだ。
例のごとく、依頼人も依頼の受注者も揃っているため、さくさくと手続きを進めていこうではないか。
「そういえば、今回僕は依頼料を払っていないのですよね」
「ん? そうなのか? 確か前回は、ほとんどアレクが出したって話だよな」
依頼人はリュミエスさんだけど、そのお金は僕が出した。僕からお願いしたことだし、支払いも僕が負担するのが筋だと考えたのだ。
「とはいえ、それだとポイントのマイナスが起こるかもしれないという懸念がありまして」
「ポイントのマイナス?」
「やっぱり僕が依頼料を出して僕が依頼をこなしたら、どうしても自作自演っぽい感じになっちゃうと思いませんか?」
「まぁそうだな。丸っきり自作自演でしかないな」
「ええまぁ……」
そうはっきりと断言せんでほしいところではあるが……。
「その辺も考慮して、今回はリュミエスさん自身のお財布から依頼料を出していただきました。――とはいえ」
「ん? とはいえ?」
「とはいえ、やっぱり申し訳ないので、リュミエスさんには別口で僕から依頼料をお渡ししました」
「んん? どういうことだ?」
「まず僕がジスレアさんにお金を渡して、そのお金をジスレアさんからリュミエスさんに渡してもらったのです」
「なんだそりゃ……それって意味あるのか?」
「わかりませんが、それで法の目を逃れられると聞いたことがあります」
「法の目……?」
なんでも三店方式というらしい。
「その結果、前回以上のポイントを獲得できるはずだと予想しています」
「おぉ、そうなのか……。正直何がなんだかさっぱりだけど、アレクが納得しているならそれでいいんじゃないかな……」
「ありがとうございます。これでポイント増額間違いなし。とりあえず今回の目標としては――600ポイントを目指そうかと考えております」
「600とは大きく出たな……。前回の倍じゃないか」
「まぁ制作日数も倍掛かってますからね」
なにせ倍だ。ならばポイントも倍だろう。それくらいは貰っても構わないはず。当然。それくらいは当然。
「さて、それじゃあいよいよカードの更新といきましょうか」
諸々の手続きが済んだところで、僕はマジックバッグからギルドカードを取り出した。
ちなみに、現在のポイントは――625ポイントである。
ここ数ヶ月、さすがに運動しなさすぎだと感じたので、時々はみんなを誘ってダンジョンへと繰り出していた。その甲斐あって、前回のリュミエス人形納品からちょびっとポイントも上がっている。
一応はEランク冒険者を目指して頑張っているはずの僕が、もはや運動不足解消のレクリエーション感覚でしか真っ当な冒険者活動をしていない点について、我ながら疑問に思ったりしなくもないが……。
……まぁいいや。それより何より、今はEランクに到達することが先決。兎にも角にも、僕はFランクを脱却したいのだ。
では今回の目標は600ポイントということで――というか、もしも600取れたらすごいな。
前回は元々あった300に300が加算されて600。そして今回は600に600が加算されて1200。倍々ゲームで増えていっているじゃないか。
すごいな。そうなると次は1200に1200で2400だ。知らんけど。
よし、それじゃあ更新しよう。目標は600ゲットで、1200ポイントだ!
さぁ行くぞ。注目の更新結果は――
冒険者ランク:Fランク パーティ:アルティメット・ヘズラトボンバーズ
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:20 性別:男
職業:木工師
ギルドポイント:1199(↑574)
更新日:0日前
……もはや思考盗聴でもされているのではないかと疑ってしまう結果である。
◇
「まぁ悪い結果じゃなかっただろ」
「……そうですよね。それはそうなんですけど」
「目標には届かなかったけど、悪くはない」
「ええまぁ……」
そこだよね。目標に届かなかったがゆえに、なんか微妙な空気になっているんだ。目標の600ポイントも叶わず、目標の1200も1足りない。1て。
「というか、1ポイント足りないのが気持ち悪いので、なんとか1200には乗っけたいところなんですが……」
どうにかならんかな。あと1ポイントでいいんだ。たった1ポイント。
ひとっ走り外に出て、その辺の石ころでも拾って納品できないかな。1ポイントくらいなら、それでなんとかならないだろうか。
適当に手持ちの物を納品できればよかったのだけど、レクリエーションの狩りで手に入れた物はすでに全部納品してしまったし、それ以外だと最近はリュミエス人形とお皿作りしかしていなかったし――
「あ、そういえば……」
「ん?」
「お皿も納品すれば良かったかもですねぇ……」
「お皿?」
「これです」
マジックバッグから白いお皿を取り出して、ヒゲの受付さんに提示した。
「んん? なんだか不思議な皿だな」
「あ、たくさんあるので一枚プレゼントしますよ」
「おぉ、いいのか? 悪いな」
「いえいえ」
まぁヒゲの受付さんにはいろいろとお世話になっているからね。せめてものお礼だ。そんな純粋な感謝の気持ち。
――別に賄賂とかではない。このお皿で何かと便宜を図ってもらおうとか、そんな狙いはない。ないったらない。
「最近はこればっかり作っているんです。たくさん作ったのでこれも納品したら、たくさんポイントを貰えたかもしれないなって、今更ながら気付きました」
うっかりしてたなぁ。この依頼も試しておけばよかった。アレク痛恨のミス。
「ふーん? この皿をたくさんか」
「そうですね。400枚ほど」
「想像の何十倍もたくさん作ってたな……」
例えばだけど、もしも1枚で5ポイント獲得できていたとしたら――一気に2000ポイント。
一気にEランク到達できていただろうに。何故今まで気付かなかったのか。アレク痛恨の極み。
「え、じゃあ、もしも気付いていたら……ギルドの納品所に皿を400枚並べていたのか?」
「まぁそうなりますね」
「……気付かないでくれて助かったよ」
「ふむ」
――いや、でももう僕は気付いちゃったからな。
来年だ。来年こそはチャレンジしよう。来年は納品所のカウンターを、白いお皿で埋め尽くしてみせようじゃないか。
next chapter:第三回新春パン祭り




