第713話 これはどうなの?
――305ポイント。
リュミエス人形納品の指名依頼を達成したことで、ギルドポイントを305ポイント獲得した。
「どうだった?」
「305ポイントです。元の275ポイントに305ポイント加算され、累計580ポイントとなりました」
「おぉ!? そうなのか、やったなアレク!」
驚いた様子を見せて、お祝いしてくれたヒゲの受付さん。
ふむ。そう言ってくれるのはありがたいけど、実際のところはどうなのだろう。果たして喜んでいい結果なのかな?
「でも僕としては、500ポイント獲得が目標だったのですが……」
「いやいや十分だろ。305ポイントってことは、今回だけで元々あったポイントを超えているんだぞ?」
まぁそうか。確かにそうかも。そう考えるとすごいことだ。冒険者活動を始めてから今までの二年間でコツコツ貯めた275ポイントを、たった一ヶ月で超えることができたわけで――
……というか、それを言っちゃうと今までの二年間はなんだったのかと、少し複雑な気分にもなるけれど。
「確かに悪くはない結果ですかね。あるいは500ポイントの目標設定が間違っていたのかもしれません」
「あー、さすがにちょっと高すぎたか?」
「ヒゲの受付さんに、『450は中途半端』と煽られた結果、無謀な目標を掲げてしまいました」
「俺のせいなのか……。というか、別に煽ったつもりはなかったんだが……」
もうちょっと控えめな目標にすれば良かったかなぁ。そうしたら素直に喜べたのにね。
とはいえ、僕だって丹精込めて作ったリュミエス人形だ。そこまでの安売りはできない。一応僕としては、一日15ポイントと考えて、一ヶ月で450ポイントの計算で、そこに少し下駄を履かせて500ポイントという予想を――
「……あれ? でも実際には一ヶ月で300ポイント? つまり一日換算で……10ポイント?」
「ああ、まぁそうなるのか」
「一日10ポイント……」
これはどうなの……? 日給10ポイントと考えると、それはどうなんだろう……。
「もうちょっと欲しいと思ってしまいますねぇ……。あれだけの物を作ったのですよ? ヒゲの受付さんもそう思いませんか?」
「そうだなぁ。確かに素晴らしい出来栄えで、アレクの気持ちもわかるけど……」
一ヶ月掛けてそれだけの物を完成させて納品して、リュミエスさんも大満足で、それなのに日給10ポイントとは……。300ポイントとは……。
……いや、あるいはそこまでの結果を出して、ようやく300ポイントなのかな?
やっぱり僕からお願いしてリュミエスさんに指名依頼を出してもらったこととか、僕が依頼料を出したことで、どうしても自作自演っぽい感じになっちゃって……それでも良い物だしリュミエスさんも喜んでいるし、だからお情けで300ポイントという可能性も……。
「……というかですね、これはもう前提が違うような気がするのですが」
「うん? 違う? 何がだ?」
「これはもう……不正受給ではないような気がします」
真面目に毎日頑張って依頼を達成して、そしてそこそこのポイントを獲得する……。これはもう不正ではないのでは? 真っ当に稼いだポイントなのでは?
「……いいことなんじゃねぇか?」
「ええまぁ……」
それはそう。むしろ良いこと。むしろ褒められるべき。
いやでも、僕としては楽して稼ぎたいんだけどなぁ……。そういう真面目にコツコツとかじゃなくて、楽してガッポリ稼ぎたくて始めた不正受給作戦なんだけど……。
◇
「なんやかんやありましたが、無事にポイントを獲得することには成功しました」
「…………」
ひとまず指名依頼の手続きがすべて終わり、納品所を離れた僕とリュミエスさんは、ギルドの食堂で会話を交わしていた。
「いろいろとリュミエスさんにもご協力いただき、ありがとうございました」
「…………」
「あ、はい、お疲れ様でしたー」
リュミエスさんがにゅっと両手を掲げたので、二人で手を伸ばしてハイタッチ。
うむ。やはり締めはこれだな。やり遂げた感とか達成感とか湧いてくる。
というわけで無事にやり遂げて、無事に依頼を達成した僕だけど――
「僕としては、この勢いのまま――竜形態リュミエス人形の制作に移ろうかと考えています」
「…………!」
せっかく変身できるリュミエスさんだし、人族バージョンと竜形態バージョンの二種類用意したら喜んでくれるんじゃないかなって、元々そんなことを考えていたのだ。
一応はポイントも獲得できることがわかったわけだし、このまま竜形態も作っていこうではないか。
「またお皿作りの合間の作業となるため、時間は掛かってしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
「…………」
うんうん。リュミエスさんも乗り気だ。乗り気に見える。喜んでいるようにも見える。たぶん喜んでいるはず。
正直なところ、日給10ポイントという結果には若干の不満はあるけれど、二年間で300ポイントすら稼げなかった現実を考えると、普通にこっちの方が稼げそうではある。やはり木工だ。やはり僕は木工エルフなのだ。
まぁ木工ばっかりやっていて、それは冒険者なのかという疑問を覚えなくもないが、実際にポイントを貰えたのだから問題はないはずだ。疑問も異論も認めない。他ならぬ、冒険者ギルドが活動を認めてくれたのだ。冒険者ギルドが異論を認めないのだ。僕のせいではない。
というわけで今は木工を続けて、どうにかこうにかEランク到達を目指して――
「……あれ? というか、Fランクじゃないですか」
「…………?」
「300ポイントを超えたのに、やっぱりFランクじゃないですか……」
「…………」
……いや、うん、わかってはいたんだけどね、エルフには3000ポイント必要だとわかってはいた。
だけどヘズラト君とかも300ポイントでEランクに到達したしさ、案外僕も300で行けるんじゃないかなって、なんやかんやみんなと同じ300で行けたりしないかなって、そんな淡い期待を抱いていたのだけれど……。
だがしかし、現実は非情である。普通にまだFランクだった。何故だ冒険者ギルドよ。やっぱりこんなのおかしいって。間違っている。疑問と異論しか湧いてこない。
「結局は3000ポイント必要で、残りは2420ポイントですか……」
遠いなぁ。まだまだ遠い。果てしなく遠い道のり。
ちなみに、リュミエス人形で換算すると……あと八体か。八ヶ月掛かる計算である。余裕で旅が終わる計算だ。というか、さすがにリュミエスさんも八体はいらなくないか?
うーん……。そう考えると、やっぱり効率は良くなくて……。そう考えると、また別の不正受給作戦を企てたくなってきて……。
そうして横道にそれていって、結局ポイントも貯まらなくて、Eランクがさらに遠のいていく僕なのだろうなぁ……。
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