第712話 目標500ポイント
「というわけで、冒険者ギルドです」
「…………」
いよいよ指名依頼達成の瞬間が近づいてきた。
リュミエス人形納品という依頼を達成するために、リュミエスさんには誠に申し訳なく思いながらも人形を一旦回収させていただき、二人で冒険者ギルドまでやってきた。
「さて、それで納品はどこでやったらいいんですかね」
「…………」
指名依頼の申し込みはロビーの受付でやったけど、納品もロビーでいいのかな?
でもやっぱり納品だし、納品所の受付なのだろうか。
「とりあえず納品所ですかね。ヒゲの受付さんに聞いてみましょう」
「…………」
「では行きましょう」
「…………」
そんな会話があって、二人で納品所へと向かって歩き始めた。
ふむ。まぁいつも通りだ。リュミエスさんはいつも通りの無言である。
……でもなぁ、今回ばかりはリュミエスさんの無言に圧を感じるんだよね。気のせいかな。ようやく完成したと思った自分の人形をすぐさま回収されて、それで拗ねているんじゃないかなって、なんだかそんな無言に感じてしまうのだけど……。
「あの、その、一度納品したら、すぐお渡しできますので……」
「…………」
「えぇはい、そんな感じで……」
「…………」
ごめんて……。本当にごめんて……。
◇
「どうもー」
「おー、アレクか。久しぶりだな」
納品所までやって来た僕達は、ヒゲの受付さんと軽く挨拶を交わした。
確かに久しぶりかもしれない。例のごとく、気が付いたら木工漬けの毎日になっていたからな。納品所に来るのも久々で、冒険者活動もだいぶおざなりになっていて――
――あ、いや、でもそれも違うか。
なにせリュミエス人形作りをしていたわけで、それは指名依頼であるわけで、つまりは冒険者活動もしっかり真摯に取り組んでいたというわけだ。たぶんそういうわけだ。
「というわけで、指名依頼の納品に来たのですよ」
「指名依頼? そんなの受けてたのか」
「実は受けていたのですよ。これが依頼を受注したときの書類です」
受注時に貰った書類――もはや存在を忘れてマジックバッグにしまいっぱなしだった書類――マジックバッグがなかったら絶対どっかに失くしていただろうなという書類――ありがとうマジックバッグ。でもアイテムボックス能力を手に入れたことで、これからはそれほど重要ではなくなってしまったマジックバッグに入っていた書類――を取り出し、ヒゲの受付さんに手渡した。
「これか。えぇと、依頼内容としては――リュミエス氏からアレク氏への指名依頼で、自分の人形を作ってほしい……?」
書類の文面を見てから、二人並んでやってきたリュミエス氏とアレク氏を見て、訝しげな表情を浮かべるヒゲの受付さん。
まぁ気持ちはわかる。わざわざ依頼にしないで、勝手にやっておけと言いたいのだろう。
「不正受給作戦なのですよ」
「あー、なるほどなぁ……。指名依頼でポイントを稼げないかっていう、そういう狙いか……」
「その通りです」
まぁギルド職員に不正受給の説明をするのはどうなんだって話ではあるけれど、たぶんこれが一番早く説明できると思ったので。
「それで、指名依頼の納品もここでいいんですかね」
「大丈夫だ。じゃあその人形とやらを渡してくれるか?」
「わかりました。ちょっと待ってください」
そう伝えてから、僕は再びマジックバッグに手を伸ばして――箱を取り出した。
「箱?」
「中に人形が入っています」
「おぉ、そうなのか」
確認してもらうために箱のフタを開けると、中には――
「おぉ……? なんだ? 緩衝材か?」
「そうですね、緩衝材です。コケですが」
「コケなのか……」
以前にユグドラシル人形でも使ったヒカリゴケの緩衝材だね。ちなみにもう光ってはいない。
――というより、元々光っていなかった。長年の研究により、ある程度ヒカリゴケの光を調整することが可能になったので、今回は元から光らないヒカリゴケを生成してみた。
「まぁコケの緩衝材はともかくとして――」
長年の研究の成果なのに……。光らないヒカリゴケっていう、ちょっと面白いやつなのに……。
「しかし、この人形はすごいな……。これをアレクが作ったのか?」
「ええまぁ」
「はー、アレクにはこんな特技があったんだな。いや、なんなら特技ってレベルを超えているかもしれない。これは大したもんだ」
「いやいや、それほどでも」
うむ。褒められて気分が良い。
でも確かにそれくらいの出来だと思う。そりゃあリュミエスさんも喜ぶし、即座に回収されて憤慨もするってもんだ。
「それで、こちらを納品するとして、これからどうしたらいいのでしょう」
「あー、そうだな。簡単に流れを説明すると、まず人形を納品してもらって、それから依頼人に人形を確認してもらって、依頼人が人形を受け取った後で、依頼の受注者であるアレクに報酬が支払われる感じになるかな」
「なるほどなるほど。――では、それらの手続きを今から進めてもらってもいいですか? なにせ依頼人も受注者も、ここには全員揃っておりますので」
「ああ、確かにそうだな……」
というわけで、サクサクと進めていこう。
何やら僕達の茶番にギルドを付き合わせてしまっている感覚を覚えるが、ギルド側もしっかり手数料的なものを取っているのだし、そこに文句はないだろう。
「しかし依頼達成の報酬ですか。すっかり忘れていましたが、なんかちょっと嬉しいですね。達成感とか味わえそうです」
「普通は報酬のために働くんだけどな……」
「そもそもの話として、その報酬の大半を支払ったのも僕だったりしますから」
「えぇ……?」
普通に僕のお金が返ってくるだけだからな。そう考えると、むしろ達成感を覚える方がおかしいような気もする。
◇
無事にリュミエスさんの手元に人形が戻ってきて、僕の元にも依頼料が戻ってきた。
これで依頼達成である。なんやかんやあったけど、どうにか無事に指名依頼を達成できた。
「ではでは、次はポイントの確認と行きましょう。どうです? ヒゲの受付さんも気になりますよね」
「まぁ確かに気になると言えば気になる。どうなんだろうな」
「どうなんでしょうねぇ。果たしてどれだけのポイントをいただけるのか。とりあえず僕の目標としては――450ポイントです」
前に計算したところ、それくらいいただければ御の字という結論になったはずだ。
「450? なんだか中途半端な数字だな」
「普通の狩りでも一日で15ポイント貰えたので、一ヶ月だと450ポイント。リュミエス人形には一ヶ月掛かったので、同じくらい貰えたらいいなぁという計算です」
「なるほど、それで450ポイントか」
「ですが……ヒゲの受付さんの言うように、数字としてはちょっと中途半端ですよね」
「ん? ああ、まぁちょっとだけそんな感じはするよな」
「なんだかキリが悪いですね。目標として掲げるには、少々収まりが悪い気がします」
「あー、まぁ確かに……?」
「ではいっそのこと――500ポイントを目標としましょうか」
「うん、まぁ好きにしたらいいと思うけど……」
よし、それじゃあ目標500ポイントだ。500ポイントを目指そう。
ちなみにだが、現在のポイントが――275ポイントである。ついさっき納品の直前にギルドカードを更新してみたのだけど、275ポイントだった。
275ポイント……たぶんこれ二ヶ月以上変わってないね。
ここ二ヶ月は木工しかしておらず、ポイントも伸びずに、どれだけ僕が冒険者活動をサボっていたのかっていう……。
――あ、いや、でも冒険者活動はしていた。一応はしていたことになる。
ここでポイントを獲得できればいいのだ。そうすれば、冒険者活動もしっかり真摯に取り組んでいたことになる。たぶんなるはず。
「さて、それじゃあギルドカードを更新しようと思います。現在275ポイントなので――775ポイント以上になっていれば目標達成ですね」
「なるほど。……というか、元のポイント低いな」
「…………」
うん、まぁそうかもしれないけど……でもほら、それは今までの話で、これからは違うから。今回でポイント大量獲得の予定だから。一気に500ポイントゲットだから。700ポイントの大台に乗ってしまう僕だから。
というわけで更新しよう。
さぁいくぞ。さぁどうなる。果たしてどれだけポイントを伸ばせるのか。注目の更新結果は――
冒険者ランク:Fランク パーティ:アルティメット・ヘズラトボンバーズ
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:20 性別:男
職業:木工師
ギルドポイント:580(↑305)
更新日:0日前
next chapter:これはどうなの?




