第709話 ギルドカード2
「ふむ。仮面ですか」
「ああ、いったいなんなんだ……」
「まぁそうですよね。それはやっぱり気になりますよね」
そもそも何故僕達が仮面を付けているのか、クリスティーナさん的にはそこが気になってしかたないらしい。なので、僕の方から説明させてもらおう。
僕達が仮面を付けている理由、それは――
「理由は複数あるのですが、やはり一番の理由として――目立ちたくないからですね」
「目立ちたくない?」
「そうです。そのために仮面を」
「すげぇ目立ってるけど」
「…………」
あー、うん、それを言われちゃうと困ってしまうのだけど……。
「ええまぁ、そこはちょっと想定外というか、予想できませんでした」
「……そうか」
お忍び観光ツアーなので、目立たないよう顔くらい隠しておこうかなって、なんかそんなノリだった気がする。
そうして全員仮面着用に踏み切ったところ、後々に実はすごい目立つことが発覚して……。
「――ああ、あとアレク君から、『ミコトさんは美女なので顔を隠した方が目立たない』と言われたかな」
「アレクはそんなことばっかり言ってんな……」
……言ったかな? いや、確かに似たようなことを考えたかもしれないけど、直接は言ってなくない?
「というか、確かアレクもそれで仮面付けてんだよな? ミコトもそうなのか? そんくらい美女だったりすんのか?」
「む……。アレク君と比べられると、そこはさすがに譲らざるをえないけど……」
おぉ、さすがのミコトさんでもそこは譲るのか……。どんだけだ僕の顔……。
「そうなんだな……。そういう話を聞くと、アタシも一度くらいアレクの顔を見てみたい気はするよなぁ。まだ見たことねぇんだよなー」
「いや、それはやめた方がいいクリスティーナさん……」
「あぁ、それもみんな言うんだよな。ジスレアやスカーレットも、見ない方がいいって……」
「そもそも『一度くらい』っていうのが間違いなんだ。一度でも見たらまずい。どうやら依存性や中毒性もあるみたいだから……」
どんだけだ僕の顔……。
◇
そんな感じで、ひとしきり仮面についてのあれやこれやを話し合っていたわけだが――
「お似合いですクリスティーナさん」
「これが似合うって言われてもな……」
さすがは押しに弱いクリスティーナさんである。ずいずいとお願いしたら、最終的に仮面を付けてくれた。ありがとうクリスティーナさん。
「それにしても、これ結構視界悪いな」
「そうなんですよねー」
付けて初めてわかる苦労。僕の苦労をわかってもらえて何よりです。
「いっそのこと、アルティメット・ヘズラトボンバーズの正式装備にしてみたい気もするのですが、いかんせん視界が悪く、戦闘に支障をきたすのが難点です」
「もうそれだけで絶対やめた方がいいな……」
それぞれ色も変えて、戦隊モノっぽくするのも面白そうなんだけどねぇ。
「さて、それじゃあそろそろ行くとしようか」
「そうですね。準備も整ったところで、ギルドカード作成と行きましょう」
「準備が整ったって言えんのかなこれは……」
「キー」
四人でうなづき合って、席を立ち、ギルドの受付へと向かう。
そして受付にて――
「こんにちはー」
「こん――」
「こん?」
元気よく挨拶したところ――受付員さん絶句である。
ふむ。それはそうだ。それはそうなる。男女三人が仮面を装着して、大きなシマリス君までも仮面を装着している四人組。控えめに言って不審者の集団である。
こういう反応を見ると、何故これで目立たないと思ったのか、今更ながら出発時の判断に疑問を持ってしまう。
「あー、えぇと――ご用件はなんでしょう?」
お、受付員さんが立ち直った。
なるほど。普段から仮面姿の僕が我が物顔でギルド内を闊歩しているからな。仮面にも多少の耐性が芽生え始めているのかもしれない。
「それで用件だけど――ギルドカードの作成をお願いに来たんだ」
「ギルドカードですね? 承知しました。作成は初めてですか?」
「うん、初めてだ」
「では、これからギルドカードを発行します。こちらの魔道具に手を置いて、魔力を流してください」
お、懐かしのカードをダス魔道具。触れて魔力を流すだけでギルドカードが出てくるやつ。
これだよなー。これのおかげでミコトさんも安心してギルドカードを作成できる。出てきたカードを自分で回収するだけなので、他の人にカード内容を見られる心配がないのだ。
おそらくミコトさんのギルドカードには、異常な年齢だったり、異常な種族やら職業が表示されるはずで、そんな内容を他人に見られたら、また無駄に騒動を引き起こしてしまっていただろう。
「いよいよだ。これでギルドカードが発行されたら、私も冒険者の仲間入りか」
「そうですね、冒険者としての第一歩を踏み出すわけです」
めでたく冒険者としての第一歩を――あれ? あ、いや、でも待てよ?
果たして本当に第一歩なのかな……? 果たして本当にFランクスタートなのかな……?
通常なら、ギルドカードを作った時点でのギルドポイントは0ポイント。Fランク冒険者からのスタートとなる。
だがしかし、このギルドを作ったのはディースさんであり、そしてディースさんとミコトさんは――古くからの友人である。
たぶんだいぶ古くからの親友。そんな親友のために、特別なサービスとかがあったりなかったり……? ひょっとすると、もっと上のランクからスタートできたりってことも……?
「よし、ではさっそく――」
そう言って、ミコトさんがカードをダス魔道具に手をおいた。
さぁ、果たして結果はどうなのだ。親友のミコトさんのために、お友達サービス的なものがあるのかどうか。
僕が固唾を呑んで見守っていると、カードをダス魔道具からギルドカードが排出され、ミコトさんが手に取った。そしてカードをじっくりと眺めて……。
「…………」
「……えっと、どうでしたか?」
「うん、見ても構わない」
「あ、はい、ありがとうございます」
ミコトさんからカードを渡されたので、内容を確認してみる。
ミコトさんのギルドカードには――
冒険者ランク:Fランク パーティ:――
名前:ミコト
種族:神 年齢:4 性別:女
職業:神
ギルドポイント:0
更新日:0日前
あー、普通だな。普通の内容で……あ、うん、普通ではないか。種族とか年齢とか職業とか、異常な内容だとは思う。とはいえ、当初予想していた通りの結果ではあった。
やはり0ポイント。やはりお友達ポイントなんてなかった。
でもまぁ当然だよね。なにせ僕も0ポイントだった。ディースさんの寵児である僕ですら0ポイント。
寵児ポイントもなかったのだから、お友達ポイントもなくて当然である。これでミコトさんにだけポイントが入っていたら、僕の猛抗議が始まっていただろう。次回の天界では会議室に寝転んで、手足をバタバタさせる僕が現れていたことだろう。
「…………」
「あれ? どうかしましたか?」
僕的には納得の内容なのだけど、ミコトさんはえらく不満げな顔をしている。どうしたのだろう。
「見てわかっただろう? とても残念なことになってしまっている」
「おや、ミコトさんもそう感じましたか」
そうなのか、どうやらミコトさんもお友達ポイントを期待して――
「――写真写りが、とてもひどいんだ」
「……え?」
あ、そっち? そこが気になったの?
でも別に、おかしなところはなかったと思うけど……。
「なんだか顔がむくんでいるように見える」
「むくんで……?」
そうなんだ。そういう感想を……。いや、でもむくんでいるというか……。それはそういうことではなくて……。
「なんなのだろう。私に対する嫌がらせか、魔道具が壊れているかのどっちかだと思う」
「…………」
滅茶苦茶言いよる……。
でも違うんですよミコトさん。ディースさんの嫌がらせでもなければ、魔道具が壊れているわけでもないんです……。
まさしく写真です。写真という言葉の通り、真実しか写していないんですよミコトさん……。
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