第705話 ラフトの町、お忍び観光ツアー
アイテムボックス検証会議FINALから、一週間が経過した。
無事に検証が終わり、解散したはずのアイテムボックス検証班だったが――
「――第四回、アイテムボックス検証会議です」
「えぇ……?」
僕とミコトさんとヘズラト君の三人で、四度の音楽室である! 前回でFINALかと思いきや、一週間後にまさかの再会議!
ミコトさんには何も言わずに召喚したので、なかなかに困惑した様子を見せている。
「とかなんとか言いつつ――まぁ冗談なのですが」
「なんなんだいったい……」
まるっきり同じシチュエーションだったので、ついついそんなことを口走ってしまった。
まぁ冗談だ。別に今から追加の検証会議を始めるつもりはない。検証会議FINAL LASTとかでもない。今日は別の用事があったのだ。
「それはそうと、突然お呼び立てして申し訳ございません」
「あぁ、うん、それは別にいいんだ。ちょうど天界からアレク君を見ていて、私を呼ぼうとしているのにも気が付いたし」
「おや、そうなのですか」
一応天界のミコトさんに向けて、今から呼びますよー的な声掛けだけはしておいたのだが、その姿をしっかり見ていたらしい。
きっと映画館で映画を見るときのように、ポップコーンでも食べながら見ていたのだろう。ポップコーンキャラメル味Lサイズをもっしゃもっしゃと頬張って、メガサイズのコーラで流し込みながら僕のことを見ていたのだろう……。
「……というか、見ていて退屈だったりしませんか? 別に僕だって、年がら年中奇行に走っているわけではないですし」
それはまぁ、時々は奇行に走っていることは認めよう。そこは認める。
とはいえ、特別なことは何もない平々凡々とした一日を過ごすことも多いはずだ。ただただ黙々と木工に勤しんでいる僕がいたりする日もあると思う。
僕の母を自称するディースさんならまだしも、ミコトさんの場合はそんな僕を見ていて楽しいのだろうか?
「んー、そうだなぁ。やっぱり今までそういうことはしてこなかったからなぁ」
「そういうこと? と言いますと?」
「私は地球の女神で、もちろん見ようと思えばいくらでも下界の人達の様子を見ることができるけど、私としてはひとりひとりのプライバシーを尊重して、なるべく見ないように心掛けていたんだ」
「ほう、そうなのですね」
「だから今、天界から神の視点でアレク君を見ているのは新鮮で楽しかったりする」
「なるほど」
なるほどなぁ。そういうことか。言わんとしていることはわかった。
それはわかったけど、ひとりひとりのプライバシーを尊重する女神ミコトさんが、何故僕のプライバシーはないがしろにしても問題ないと判断したのかがわからない。
「さておき、それで今日はどんな用事なのだろう。検証ではないのかな?」
「そうですね、今回は別の用事で――ちょっと外に出てみようかと思いまして」
「外に?」
「ええはい、今までにミコトさんを三回ほど音楽室に召喚させていただきましたが――でも外には出ていないですよね」
「ああ、そういえばそうだったかな」
「ミコトさん的には初めての人界で、初めてのラフトの町だったわけですが、それなのにずっと部屋に閉じ込めたままというのは、さすがに申し訳ないことをしたと反省しまして――なので、せっかくなら観光っぽいこともしていただこうと考えた次第であります」
検証も無事に終了したところで、そんなイベントを計画してみたのだ。
題して――ラフトの町、お忍び観光ツアーである!
「おぉ、それは良いね! それは楽しみだ。ぜひ案内してほしいな。ありがとうアレク君!」
「いえいえ、ミコトさんには普段からお世話になっていますから」
お世話になって……。お世話に……? なんとなく流れでそう伝えたものの、普段からお世話になっているかというと、それはだいぶ怪しいところで……。
いや、だけどアイテムボックス検証にも付き合ってもらったしな。たぶんお世話にはなっているはずだ。そういうことにしておこう。
「そうかそうか。また急にみんなを宿から追い出して、何を始めるつもりかと思ったら、そんなことを考えてくれたのかアレク君」
「ええまぁ、こっそりそんなことを考えていました」
ちょっとしたサプライズ的な感じでね。こっそりと準備させてもらったのだ。ミコトさんも喜んでくれているようで何よりだ。
というか、声も聞かれていて姿も見られているミコトさん相手にサプライズを成功させるとか、無駄に難度の高い偉業を無駄に達成してしまったな。
「……でも、みんなを追い出したことについては大丈夫なのかな。もう三週連続で追い出されて、みんなの不審感もすごいことになっていそうだけど」
「あー、そうですねぇ。なにせ三週連続ですからね……」
何気に僕としても習慣化していたため、ついつい三週連続でミコトさんを呼んでしまったが、さすがにもう何週か空けておくべきだっただろうか……。
「こうなると、みんなが帰ってくる前に急いで行動しなければいけないな。もしも私達が一緒に歩いているところを見られたら――『みんなを追い出した後に、スタイル抜群の美女と密会しているアレク君』という構図になってしまうわけだ」
「物言いが付きます」
「うん?」
「――あ、いや、違います。なんでもないです」
いかんいかん。いつも心の中で思っていたことを、ついそのまま口に出してしまった……。
「えぇと、とりあえずその点に関しては大丈夫だと思いますけどね。時間的にもまだ早いですし、みんなも出掛けたばかりですし、さすがに鉢合わせることはないと思います」
「む。それもそうか、じゃあ安心だ」
「安心ですとも。なんの問題もありません」
そこは安心していただきたい。安心して出発しましょうミコトさん。
「……でもなんだろうな、そこまでアレク君に安心を強調されると、逆に少し不安になってしまうな」
「はっはっはっ。面白いことを言いますねぇミコトさん。大丈夫ですよ、絶対安心です。これでみんなにバレるとか、むしろそれだけはないと断言してしまいますよ僕は」
「ふーむ……」
next chapter:自称スタイル抜群の美女と密会している現場を目撃されるアレク君




