第703話 第三回アイテムボックス検証会議
「――第三回、アイテムボックス検証会議です」
「おー」
「キー」
僕とミコトさんとヘズラト君の三人で、三度の音楽室である。
今回も部屋に鍵を掛けて、ニスで厳重に扉をロックさせていただいた。
「第二回から一週間、こうして三人での検証会議を再び開催できたことを、僕も喜ばしく思っております」
なんやかんやで気付けば検証会議も三回目。この会議も結構な回数を重ねることになり――
……まぁそのわりには検証が進んでいるかどうかは怪しいところだけど。
「ところで、今回もみんなには出掛けてもらったのだろう?」
「そうですね。ジスレアさんとスカーレットさんとリュミエスさんには狩りに行ってもらいました」
その三人に加えて、今回はクリスティーナさんも一緒らしい。
……うん、普通に最強パーティだね。お荷物が抜けたことにより、世界最強パーティになってしまった。
そんな現状に対して、もちろん僕にも寂しさや悔しさはある。
一応はある。ちょっとはある。たぶんあった方がいいと思うので、ほんの少しはあることにしている。
というわけで、いつかはみんなと肩を並べて戦いたいと、ほんのり願っている僕なのであった。
「しかしそれは……大丈夫なのかアレク君」
「はい? 何がですか?」
「二週連続で宿から追い出されて、みんな明らかに訝しんでいたような気がするのだが……」
「あー、それはまぁ……」
なにせ二週連続だ。というより、なんなら三週連続なのかもしれない。検証会議も三回目で、僕が音楽室に閉じ籠もったのも三回目となってしまった。
「……そう考えると、こっそり隠れて何度も検証会議を繰り返すのは避けるべきなのかもしれないですね」
もうスカーレットさんに、一人で部屋に閉じこもってゴソゴソしているとか言われたくないしね……。
「なので――今回の検証を最後にするつもりで挑みましょう」
「おぉ……。つまり今回で、すべての謎を解き明かすと? 今回でアイテムボックスのすべてを隅々まで検証しつくすと――そういうことかアレク君!」
「そういうことですミコトさん! つまり今回の検証は、『第三回アイテムボックス検証会議』などではなく――『アイテムボックス検証会議FINAL』なのです!」
アイテムボックス検証会議FINAL!
……まぁそんな命名をしちゃうと、どうせすぐ続編が来るんじゃないかと疑いたくなってしまう僕がいたりもするが。
さておき、それじゃあさっそく検証を始めよう。一応は最後という気概で挑むのだから、サクサクと検証を進めていこうではないか。
「では前回のおさらいからですが、アイテムボックス検証において、やはり一番重要な点が――」
「時間経過か」
「その通りですミコトさん。そのために我々は――」
「お肉とお野菜のスープを食べたね」
「その通りですミコトさん」
まぁ違うけどね? そこは検証とは関係のない部分だったりするけどね?
むしろ検証を中断した結果として、スープを食べただけだったりもするわけだ。
「とりあえずスープを検証に使うのはもったいないという話になり、スープはみんなで食べて、それからお鍋を洗って、そのお鍋に水を入れて――お湯を沸かしました」
「うん。ポコポコと煮立っていた」
ちなみに、それも音楽室で準備したのだ。IHの魔道具を使い、お鍋でポコポコとお湯を沸かした。
そしてポコポコと煮立つ鍋を――そのまますぐにアイテムボックスへと収納した。
それが一週間前の出来事だ。
あれから一週間が経ち、果たして今はどうなっているのか……。
「では、さっそく確認してみますか……」
「おぉ、いよいよ検証結果が……あ、でも気を付けないとだな」
「はい? 何をです?」
「もしかしたら熱湯の入った鍋なのかもしれないのだろう? そこで鍋の取っ手以外を掴んだら、火傷してしまうのではないか?」
「ああ、それは確かに」
なるほど。適当に鍋をまさぐったりしたら、熱くなったお鍋のふちを掴んだり、熱湯に手を突っ込んでしまう危険性もあるわけか。それは確かに気をつけなければいけないな。
「ありがとうございます。気を付けます」
「うんうん、本当に気を付けるんだぞ? うっかり熱い部分に触れないようにね? 絶対に触れちゃあダメだぞ?」
「…………」
……なんか微妙にフリっぽくなっているな。
いやでも、そんなの普通にやりたくないのだけれど……。
……うん、申し訳ないけど本当に気を付けて作業させてもらおう。
まずは虚空に手を伸ばし、アイテムボックスにアクセスして、気を付けながらお鍋を探し、気を付けながらお鍋の取っ手だけを掴むように心掛けて――
「む。掴みました。しっかりお鍋の取っ手を掴みましたよミコトさん」
「おぉ、無事掴めたか。よしよし、それじゃあ引っ張り出すんだアレク君。――あ、でもゆっくりだぞ? 慌てて取り出して、勢いよく熱湯をかぶったりしないように気を付けるんだ!」
「…………」
怖いよミコトさん。それは無理だよ。さすがにそれは洒落にならないフリだよミコトさん……。
……まぁそんなフリをするとは思えないから、たぶんミコトさんも本当に心配してくれているのだろう。
というわけで、間違っても事故が起こらないよう慎重にお鍋をアイテムボックスから引っ張り出した。
そうして取り出した、お鍋の中には――
「おぉ……!」
「これは……!」
「キー……!」
――ついに検証の結果が出た。何やら最終的にはバラエティ番組っぽいノリになってしまったりもしたけれど、とにもかくにも一週間掛けて検証した結果が出た。
お鍋の中身は――
――熱湯だ。
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