第700話 第二回アイテムボックス検証会議
700話(ノ*ФωФ)ノ
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「――第二回、アイテムボックス検証会議です」
「おー」
「キー」
僕とミコトさんとヘズラト君の三人で、再びの音楽室である。
今回も部屋に鍵を掛けて、さらにはニスで厳重に扉をロックさせていただいた。
「前回の会議では、緊急事態により強制終了となってしまいましたが、今回こそはアイテムボックスのすべてを隅々まで検証していきたいと思います」
「そうだねぇ。頑張ろうアレク君」
「ええはい、よろしくお願いしますミコトさん。ヘズラト君も、よろしくね」
「キー」
「うんうん。こうして三人での検証会議を再び開催できたことを――一週間ぶりに開催できたことを、僕も喜ばしく思います」
――一週間ぶり。
何気に一週間ぶりなのだ。前回の検証から一週間空いて、今日ようやく第二回を開催できる運びとなったのである。
「ミコトさんも、前回のドタバタとした送還から一週間ぶりということで、お待たせして申し訳ないです」
「いやいや、構わないとも」
「もう少し早くにできれば良かったんですけどね。機会を伺っていたら時間が過ぎてしまいまして、その機会というのが――」
「ああ、天界で見ていた。今日は他のみんながいないんだろう?」
「そうなんですよ。僕とヘズラト君以外のメンバーは、狩りへ行っているところでして」
ジスレアさんとスカーレットさんとリュミエスさんは狩りに行っているところで……というより、僕からお願いして狩りに行ってもらった。
もっと正直に言ってしまうと、アイテムボックスの検証がしたくて、ちょっと出かけてもらったのだ。
とりあえず今日、みんなには――
『いつも狩りと言えば、僕に付き合ってレベルの低い狩り場でお願いしていますが、やはり皆さんからすると物足りない気持ちもあるのでは? たまには思いっきり暴れたい気持ちがあったりもしますよね? ありませんか? ありますよね? あるはずです。間違いなくあります。なので、たまにはもっと高レベルの狩り場へ繰り出すのも良いかと思うのです』
――とかなんとか言って、狩りへと繰り出してもらった。
少々強引な会話の流れになってしまった気もするが、僕を除けば揃いも揃って達人しかいないアルティメット・ヘズラトボンバーズなわけで、なんだかんだでそういう戦闘欲求があるのか、そこそこ乗り気でみんな出かけていった。
「――しかしアレク君」
「はい?」
「そうなると、より一層気を付けなければいけないな。これで前回みたいに、いつの間にかみんなが帰ってきて、もしもこの部屋に入ってきたら――『みんなを追い出した後に、スタイル抜群の美女を密室に閉じ込めて、こっそり何かしていたアレク君』という構図になってしまうわけだ」
「ええまぁ……」
確かにみんなを追い出したと言われても仕方がない状況ですし、その間に何か怪しいことをしていたと勘ぐられてもおかしくない状況ではあります。
あ、ちなみにスタイル抜群の美女というのはどうなのでしょうか。やはりその点に関しては物言いが付きます。
「だとすると、あまり時間を無駄にはしていられないですね。検証を始めましょう」
「そうだね。そうしようか」
「それでは、まず――僕がアイテムボックスを使えるかどうかの検証です」
まずはこれだろう。何はなくとも、この検証から始めねばならん。
ずいぶんと引っ張ってしまったが、いよいよ僕の検証。一番大事な検証。むしろ一番最初にやっておくべき検証。
「ではでは、さっそく――」
「なぁアレク君」
「…………」
さっそく僕も虚空に手をわさわさやって、アイテムボックスをまさぐろうとしたところで、ミコトさんに声を掛けられた。
何故なのか。何故僕が検証しようとすると止めるのか。もう何度目のブロックなのだ。
「……なんですか? さすがにそろそろ僕も検証しておきたいですよ?」
「ああ、すまない……。でもそのことについて聞きたくて」
「と言いますと?」
「自分が使えるかどうかの検証なら、この一週間のうちにできたんじゃないかな? アレク君も気にしていたようだったし、むしろ何故やらないのか不思議だったんだ」
「あー、そうですねぇ……」
確かにできないこともないよね。たぶんサクッと一瞬で検証できそうな気もする。
「とはいえ、せっかく三人で始めた検証ですし、この三人が集まるまで待とうかなと」
「ああ、そうなのか……。じゃあ私が下界にいられないせいでもあったんだな。それは申し訳ないことをした」
「あ、いえいえ、他にもいくつか理由があってですね……なのでまぁ、そこは気にしないでください。結局は僕の都合だったりもしますし……」
「ふむ?」
三人で検証したいってのも、結局ただの言い訳かもしれないね……。
単純に、僕が怖かったんだ……。あんまりにも引っ張りすぎて、そうこうしている間に、本当に僕もアイテムボックスを使えるのか不安になってきてしまって、結果を知るのが怖くなって、それでただ逃げていただけのような……。
「とにかく、さすがにそろそろ検証しておこうと思います。ひとまずアイテムボックスに手を伸ばして……あ、でも今は何も入っていないんですかね?」
「あぁ、そうだね。中身はからっぽだと思う」
「ヘズラト君が入れてみた薬草も、一応回収しておいたんだよね?」
「キー」
「なるほど……」
ヘズラト君が自分の薬草をアイテムボックスに入れて、その薬草をミコトさんが回収して、それからまたアイテムボックスに収納――僕を置き去りにして、二人でそんな検証をしていた記憶がある。
その薬草もすでに回収済みとのことで、やはりアイテムボックスの中身はからっぽらしい。
だとすると、僕が手を伸ばしたところで何も掴めないか。
それはちょっと微妙だな。検証としては微妙。まぁアイテムボックスがあるかどうかの感覚とかは掴めるかもしれないけど……。
「ふむ。それじゃあ――これを」
「はい? えぇと、パンですか?」
ミコトさんが自分のマジックバッグからパンを取り出した。砂糖がまぶしてある菓子パンだ。たぶん前のと同じやつだろう。
はて、それがなんだというのだろうか?
「これを入れておいてあげよう」
「はぁ……」
ミコトさんの手から菓子パンがスッと消えた。アイテムボックスに収納したようだ。
アイテムボックスに手を伸ばして、そのパンを取ってみよということらしい。
「さぁ、頑張るんだアレク君」
「…………」
なんだろう。なんか上から目線でマウント取られている感がすごい。
……でもまぁ、わかりやすい検証ではあるかな。
「――よし。それじゃあやってみますね」
さぁいくぞ! 満を持して、僕の検証だ!
その手を伸ばし、その手に掴み取るんだ――菓子パンを!
……菓子パンか。菓子パンを掴み取る検証。気合いを入れて挑むにしては、なんとも地味な挑戦である。
まぁいいや。とりあえず頑張ろう。とりあえず掴み取ろう。勝利を掴むのだ。勝利とか栄光とか真実とか未来とかを掴む感覚で――菓子パンを掴み取るのだ!
そんな感じで、僕が手を伸ばすと――
「んー……」
「さぁ、どうかな……」
「……お? おぉ!?」
これは――あるぞ? あるような気がする! アイテムボックスを感じる!
そして、アイテムボックスの中に――
「これは……!」
「お、掴んだかな?」
「掴みました! 菓子パンです!」
菓子パンだ! 菓子パンがある! 菓子パンを感じる!
「そうかそうか。いいぞアレク君、扱いとしてはマジックバッグと似たものだと考えればいい。落ち着いて行動するんだ」
というミコトさんからのアドバイス。
やっぱり微妙にマウントを取られているような……いや、まぁ気のせいだろう。普通にアドバイスだ。ミコトさんは僕にアドバイスをしてくれているにすぎない。
「まぁ私くらいアイテムボックス操作に慣れてくると、もう無意識で操作できてしまうけどね? でもアレク君は初心者だし、慌てずゆっくり操作することを心がけたらいいと思う」
「…………」
完全にマウントである。
とはいえ、確かにミコトさんの言う通りではある。確かに慌てる必要もないし、確かにマジックバッグと似ている。マジックバッグ操作をイメージして、マジックバッグからアイテムを取り出すイメージで――
「とー」
「おぉ、やったなアレク君!」
「キー!」
そうして僕の手には――菓子パンが現れた。
「おめでとうアレク君」
「キー」
「ありがとうございますミコトさん。ありがとうヘズラト君」
いやー、良かったねぇ。良かった良かった。なんか流れ的に僕だけ使えない可能性をビシビシ感じてたからなぁ。本当に良かった。
こうして無事にアイテムボックスを操作できて、菓子パンを掴むこともできたし――
……菓子パン。手には菓子パン。
「これ、どうしましょう」
「ん、それじゃあ返してくれるかな?」
「え?」
あ、そうなんだ。返すんだ。
「食べるから」
「はぁ……」
そうか、食べるのか……。
「でも素手で掴んじゃいましたけど?」
「ふむ?」
わりと強めに、ガッツリと掴んでしまった。
勝利とか栄光とか真実とか未来とか、そういうキラキラしたものを掴み取るくらいの感覚でいたもので……。
「それは、つまりあれかな? ツバつけたというやつかな? だからもう自分の物だと、そう主張しているのかな?」
「いや、そんなことは……」
そんなことはしないし、別にそこまでパンが欲しいわけでもなくて……。
「女神である私のパンにツバをつけたと……それはつまり、天に向かってツバを吐くということだよアレク君」
「はぁ……」
たぶん違うと思うんだけど……。上手いことを言おうとして失敗している感じがするんだけれど……。
「でもまぁ、そこまで言うなら仕方がない。アレク君が無事にアイテムボックスを使えたお祝いに――はんぶんこしようか。今回だけ、特別だぞ?」
「はぁ……。ありがとうございます」
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