第698話 ナナさんとアイテムボックス
――よし。それじゃあ僕もアイテムボックス能力を使ってみようじゃないか。
ミコトさんやヘズラト君に先を越されてしまったが、なんと言ってもアイテムボックスは僕の能力なのだ。僕にも使わせていただきたい。
というわけで、さっそく僕も――
「ところでアレク君」
「はい?」
「もしかして、ナナさんもアイテムボックスを使うことができるのかな?」
「ナナさんですか?」
さっそく僕も虚空に手をわさわさやって、アイテムボックスをまさぐろうとしたところで、ミコトさんからそんな質問が飛んできた。
ふむ。ナナさんがアイテムボックスを……?
「さっき話に挙がったダンジョンメニューのように、ナナさんも使えるのかなって」
「あー、どうなんでしょうね……」
確かにダンジョンメニューは、僕とか僕の召喚獣に加えて、ナナさんも使うことができるけれど……アイテムボックスはどうだろう。
というか、それより何より、まずは僕に使わせてほしいのだけど……。
「……でもまぁ、試しに聞いてみましょうか。もしかしたらということもありますし、聞いておいて損はないでしょう。――『ダンジョンメニュー』」
というわけで聞いてみよう。
僕はダンジョンメニューを開き、Dメールのメッセージ欄を呼び出した。
「さてさて――おや?」
「ん? どうかしたのかな?」
「ナナさんからメッセージが来てますね」
そういえば天界にいるとき、ルーレット景品でアイテムボックスを獲得したことだけは伝えておいたんだった。その返信が来ていたようだ。
で、その内容が――
『なるほど、アイテムボックスですか。異世界転生作品としてはありきたりで、なんだか今さらな感じはしますが、実際にあったら便利な能力なのは間違いないでしょうね」
「…………」
どんな感想だ。果たしてアイテムボックスを褒めているのか貶めているのか……。
というか、異世界転生作品とか言わんでくれるかな。
「まったく、ナナさんは……。む、まだ続きがありますね」
さらに追加でメッセージが来ていた。それによると――
『いざというときのために、大量の水を保管しておき、水攻めの準備をしておきましょう』
「…………」
なんか怖いこと言ってる……。
具体的な使用例を挙げてくれたんだろうけど、いったい何の準備だナナさん……。いったい何と戦うつもりなんだナナさん……。
◇
ひとまずナナさんの不穏な発言は聞き流し、ナナさんには『ミコトさんとヘズラト君もアイテムボックスを使えたんだけど、ナナさんも使えたりしない?』とメッセージを送っておいた。
今はナナさんからの返信待ちである。
「さて、どうなるかな。これでナナさんのアイテムボックス利用が成功したら、一瞬にしてメイユ村からラフトの町までナナさんの荷物を輸送することもできるわけか。それもすごい話だね」
「そうですねぇ」
確かにすごい。すごいのだけど……。そもそもナナさんが成功するかというと……。
「しかしですね、僕の予想としては……おそらくナナさんはアイテムボックスを使えないんじゃないかと」
「おや、そうなのか。ダンジョンメニューも使えるのだから、アイテムボックスも使えそうなものだけど」
「ですが、やっぱりダンジョンメニューとアイテムボックスでは違うんじゃないですかね? そもそもの話として、関係性が違うと思うんですよ」
「関係性?」
関係性だ。僕とナナさんとミコトさんとヘズラト君、そしてダンジョンメニューとアイテムボックス。それぞれ関係性が異なっていると思う。
「元々僕とナナさんは共同のダンジョンマスターで、ダンジョンメニューも共有して使用できました。そして、そんな僕の召喚獣であるために、ミコトさんとヘズラト君もダンジョンメニューを共有して使えたわけです」
僕とナナさんが使えて、僕の召喚獣だからミコトさんもヘズラト君も使えた。とりあえずダンジョンメニューの関係性はそんな感じ。
……どうでもいいのだけど、何度も繰り返して『ダンジョンメニュー』という単語を使ってしまったため、目の前でダンジョンメニューが何度も繰り返して開いたり閉じたりしている。若干鬱陶しい。
「しかしアイテムボックスは違います。僕がルーレットで取得して使えるようになって、その僕の召喚獣という関係性だからこそ、ミコトさんとヘズラト君もアイテムボックスを使えるようになった。――僕はそう考えています。だとすると、ナナさんはどうでしょうか」
「なるほど……。アイテムボックスに関しては、ナナさんは無関係ということになってしまうのか」
「そういうことです」
そんなことを考えていた。どうかな? 意外と説得力あるんじゃない? わりと見事な推理だったりしない?
「まぁ私からすると、『召喚獣だからダンジョンメニューやアイテムボックスが共有される』って説の時点で、微妙によくわからない話だったりするのだけど」
「ふむ」
……それは確かに。よくよく考えると、それはそう。
うむ。じゃあもうわからんな。どうなのだろう。結局のところ、ナナさんはアイテムボックスを使えるのか否か。
「というかですね、その前に僕も検証したいのですが……」
「うん? アレク君が? いや、それはやめておこう。先にナナさんの検証を済ませるべきだ。こういうのは、ひとつひとつ丁寧に進めていった方がいいと思う」
「そうなんですかね……」
そういうものだろうか……。
でも僕としては、だいぶ不安なのだけど……。こうも引っ張られると、もしかして僕だけ使えないんじゃないかって、そんな不安がどんどん大きくなってくるのだけれど……。
◇
「キー」
「おっと、ナナさんかな?」
ああでもないこうでもないとミコトさんと話しているうちに、ナナさんからの返信が来たらしい。
ヘズラト君に促されてDメールを確認すると、ちょうどナナさんからのメッセージが打ち込まれている最中であった。
さぁ、果たしてどうだったのか。ナナさんの検証結果は――
『使えなかったのですが』
「あー」
「んー、そうか……。やはりアレク君の推理であっていたのかな」
「そのようですね」
というわけで、どうやらナナさんはアイテムボックスが共有されないようだ。
なるほどなぁ。やはり僕の推理で正解か。珍しく冴えているところを見せてしまったな。
「キー……」
「おや?」
おっと、まだ続きがあるようだ。追加でナナさんが文章を打ち込んでいる。
『てっきり私もアイテムボックスを使えるのかと、ぬか喜びさせられました』
あっ……。
……あー、うん。それはそうだね。変に勘違いさせるようなことを言ってしまった。確かに申し訳ないことをしてしまった。
『訴訟も辞さない』
すごい怒ってる……。ごめんてナナさん……。
『とりあえず良い物をマスターの元に送り込もうと、急いでセルジャン落としを探したというのに』
それは別に良い物では……。というか、それを送り込んでどうしようというのだ……。
まぁ、いかにもナナさんらしい行動ではあるけど……。
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