第691話 チートルーレット Lv45
「さて――それじゃあ始めましょうか」
「そうね。始めましょう」
「うんうん、ついにか」
「キー」
というわけで、いよいよこれからチートルーレットが始まる。
レベル45のチートルーレットだ。
「それにしても、振り返るとここまで長かったですね……。ひとまずルーレットはミコトさんの神像が完成してからという話になって――」
「うん、ありがとうアレク君。良い物を貰った」
「あ、いえいえ、喜んでいただけて何よりです」
無事に等身大ミコト神像が――スタイル抜群の美女バージョンの等身大ミコト神像が完成したので、すでにミコトさんへと納品済みである。
ミコトさんも大層喜んでくれて、やはりスタイル抜群にしてよかったなと改めて思う次第。
「それで、いよいよルーレットかと思いきや――」
「その次はレーテーの神像か」
「そうですねぇ」
なんか頼まれたのだ。
頼まれて、女神レーテーさんの神像も作ることになった。
「まぁ私とミコトとウェルベリアの神像まで作ったら、それはレーテーも欲しがるわよね」
「そうみたいですね。とりあえず喜んでもらえてよかったです」
そんな感じで、結局ミコトさんとレーテーさんの神像を制作。その制作期間が――十ヶ月である。
一体五ヶ月で、合計十ヶ月。いやはや、やはり長期滞在となってしまった。最初に話した『今回は短期滞在プランでいこうと思います』というセリフはなんだったのか。ふと気が付けば十ヶ月だ。あっという間に十ヶ月も経ってしまった。
「まぁなんだかんだで楽しく過ごさせていただいたわけですが、無事に人形制作も終わったことですし、そろそろルーレットを始めたいと思います。ディースさん、よろしいですか?」
「わかったわ。ちょっと待っていてね」
僕の言葉に頷き、ディースさんがルーレットへと足を進めた。
ひとまずディースさんは、ルーレットボードに手を伸ばして――
「ミコト」
「おっと、すまない」
何やらボードに引っ掛かっていたミコトさんの私服を手に取り、持ち主に投げ返した。
……うむ。大事なチートルーレットなので、あんまり雑な扱いはしないでいただきたいものだ。というか、仮にも女神様がそこらへんに服を脱ぎ散らかさないでいただきたい。
「さてさて――はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ディースさんがボードの裏側からダーツを回収して、僕に手渡してくれた。
僕は手にしたダーツを見て――おや?
「ディースさん、これは……?」
いつもダーツの羽には誰かしらのイラストが描かれているのだが、今回は少々趣が異なっていた。
とりあえずディースさんとミコトさんのイラストは普通に描かれているのだけれど、もう二人ほど、なんだかよくわからない人物が描かれている。
知っているとか知らないとかではなく――単純によくわからない。輪郭しか描かれていないのだ。顔も体も黒く塗りつぶされていて、シルエットで描かれている。これはいったいどういうことなのか。
「まだ見ぬ強敵達……?」
なんかそんな雰囲気。
……いや、まぁ敵ってことはないだろう。じゃあ仲間かな? まだ見ぬ仲間達?
「でもこれって、ウェルベリアさんとレーテーさんのシルエットに見えますよ?」
「ウェルベリアとレーテーね」
「…………」
何がしたいのだ。じゃあ何故シルエットにしたのか。
「ウェルベリアもレーテーも私達と仲が良いから、もしかしたらそのうちアレクちゃんと会うことがあるかと思ったの。なので存在をうっすら匂わせておくのも面白いかなって」
「いや、もう普通に出会った後ですけど……」
「そうなのよね。失敗したわ。このシルエットバージョンは、もっと早く見せておけばよかったわね」
「はぁ……」
なんなのだろう。なんかもうよくわからん。確かに出会う前に見ていたら、まだ見ぬ仲間達にわくわくしたことがあったのかもしれないけれど……。
……まぁいいや。とりあえず置いておこう。ダーツなのだから投げられればいいさ。
「あ、それで、この前お願いした景品追加の件ですが」
「ええ、大丈夫よ。アレクちゃんに言われた景品は、すべてルーレットに書き込んでおいたわ」
「おお、そうですかそうですか。ありがとうございます」
少し前に――といっても、もう五ヶ月前か。
五ヶ月前に話した新しい景品のアイデアも、正式に採用してもらえたらしい。
「でも追加したのは五十件程度で、八億のうちから五十と考えると、なかなか当てるのは難しいかもしれないわね」
「まぁそうですよねぇ」
というか普通に考えて当たらんわな。やたらめったらディースさんが増やしたこともあり、分母があまりにもでかすぎる。
「とはいえ、チャンスは次回以降もあるから気を落とさずにね? しっかりルーレットには追加したから、今回がダメだったとしても、もしかしたら次はアレクちゃんが追加した景品が当たるかもしれないわ」
「ええはい。ありがとうございます」
とのことなので、気長に待とうではないか。
快く景品追加を許可してくれたディースさんにも感謝だし、景品のアイデアを出してくれたみんなにも感謝で、ついでに『木工』スキルレベル2アーツのアイデアを出してくれたことにも感謝したい。
すべての人達に、重ねて御礼申し上げます。みんなありがとう!
「よしよし、それじゃあ今回ばかりは追加景品を狙わせていただきましょうかね。今回僕が狙うのは――『素早さ』5アップボーナス」
これだ。これを狙っていこう。
「……それでいいの?」
「いいですとも」
「というか、正直これを追加したのは失敗だと思ってしまうのだけど……。なんならもっと上がるのが元からあるわよ……?」
「いやいやいや、いいのですよディースさん。これくらいがいいのです」
5ポイントで十分ですとも。それはまぁね、普通の人からしたらガッカリしてしまう景品なのかもしれない。だがしかし――だからこそ良いのだ。
これくらいの景品の方が――なんかむしろ当たりそうな気がする。
「ではでは、そろそろルーレットの方を回していただいてもよろしいですか?」
「ええ、わかったわ」
そう言って、ディースさんはルーレットボードに手を掛けた。
「それじゃあ行くわよ。チートルーレット――スタート!!」
掛け声とともに、ディースさんが勢いよくルーレットを回した。
そして僕もダーツ投擲の準備に――
「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」
「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」
「…………」
だから『素早さ』5アップだと言っておろうに……。
そう言っているのに、相変わらずのパ◯ェロコールを繰り返す女神様二人と、その様子を見てどうしたものかと困っているラタトスク君。
うん。なんだかありがとうラタトスク君。いつもラタトスク君は僕のことをちゃんと理解してくれて、僕を気に掛けてくれている。
なんとなく心の中でラタトスク君に感謝を伝えてから、僕はスロウラインへ進み、ダーツを構える。
そして――
「やー」
サッとダーツを投擲。
もうかれこれ十回以上投げているチートルーレットのダーツである。もう慣れたものだ。まぁ外すことはあるまい。
「うん、無事に刺さったわね」
「…………」
なんか投げた瞬間に失敗フラグを立ててしまい、背筋が凍る思いをしたが、とりあえずダーツは無事にボードへ突き刺さった。
……投げた後で良かったな。たぶん投げる前なら失敗していた。
「さて、注目の結果はどうでしょうディースさん」
「ええ、今確認するわ」
ディースさんがルーレットに近付き、ボードに顔を寄せた。
そしてダーツが刺さった場所を見て、当たった景品を確認している。
「ふむふむ」
「どきどき」
どきどきするねぇ。もう何度も味わっている緊張だけど、この瞬間ばかりはどきどきが止まらない。
「――なるほど。とても良い物だと思うわ」
「良い物?」
良い物? とても良い物だと? 僕がとても良いと思う物だとすると――
「まさか、当たりましたか!? 本当に『素早さ』5アップボーナスが……!?」
「あ、それじゃなくて……。というか私からすると、それはそこまで良い物だとは思っていなくて……」
「そうですか」
違うのか……。
僕からすると、それはとても良い物なのにな……。
「でも本当に良い物よ? ――以前はアレクちゃんもチートルーレットの景品で欲しいと言っていた物ね」
「ふむ……?」
「では――発表します」
「あ、はい」
んん? なんだ? 何が当たった? 僕が以前から欲しがっていた物だと?
わからん。急にそんなことを言われても、いつも適当なことばかり言っている僕なのだから、なんのことだかわからん。
だがしかし、とりあえず悪い物ではないのだろう。『チートルーレットの景品で欲しい物』ならば、とりあえずは普通に本当にチートなのだろう。
さぁなんだ! 果たして何が当たったのか――!
「おめでとうございます! ――――アイテムボックス、獲得です!」
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