第689話 500年後……
「結構な月日が流れてしまった……」
時の流れは速いものだ。もうずいぶんと長いこと天界に滞在してしまった。
まぁ正直なところ、この流れはちょっぴり予想していた。なんとなくそんな流れになりそうだと予想していて、その予想が見事に的中してしまった形だ。
その結果、現在の滞在日数は――
「――五ヶ月」
五ヶ月である。ここへ来てから五ヶ月が経過した。
ふむ。でも五ヶ月か、まだ許容範囲内ではあるのかな? 五ヶ月くらいだったら、別にそこまで大した期間ではない。……と思うんだけど、どうなんだろうね。そんなふうに考える時点で、すでにだいぶ感覚が狂っているような気がしないでもない。
とはいえ、五ヶ月だ。五年でもなければ、五十年でもない。ましてや500年後だったりもしない。ふと気が付くと、唐突に500年経っていたわけでもない。
うん。懐かしいね。昔プレイした国民的RPGのエンディングで、唐突に『500年後……』などと表示されて、『え……? お、おう……』とかなった記憶がある。
「どうかしたのかアレク君」
「あ、はい。ここへ来てから、なんだかんだでもう五ヶ月なのだなと」
そう返事をしながら振り向くと、そこにはソファーに寝っ転がって、ポテトチップスを貪りながらコーラで流し込むミコトさんの姿が。
……うむ。なんてだらけきった姿だろうか。
「でもスタイル抜群の美女なんですよね……」
「お、おぉ? な、なんだ急にアレク君」
なんとなく、ミコトさんを見た感想を素直に口にしてしまった。
僕が急に変なことを言い出したので、ミコトさんがあわあわしている。
「なー、えぇと、まぁなんだ? それはもちろんそうだとも。なにせ私は女神だから」
「そうですねぇ。女神様ですからねぇ」
基本的にだらけていて、とんでもない食生活を送っているミコトさんではあるけれど、女神様なのだ。その女神様補正のおかげで、スタイル抜群の美女なのである。
そして、この補正がなくなった召喚獣バージョンのミコトさんがどうなるかと言うと……。それはやっぱりああいう結果にもなるよね。摂取カロリーが体重に反映されるようになっちゃうよね……。
「まぁそんなわけで五ヶ月ですが――あとちょっとでこの神像も完成です」
「お、そうなのか。うんうん。だいぶ出来てきた感じはしていたんだ。完成が楽しみだね」
天界での滞在中、僕はミコトさんの等身大神像を作っていた。
前回の滞在では、僕自身とディースさんとウェルベリアさんの等身大人形を作ったのだが、時間の都合上ミコトさんの分は作ることができなかった。顔出しミコトパネルで間に合わせることになってしまった。
なので今回こそ、ちゃんとした等身大神像を作ってプレゼントしようという流れになったのだ。
――ちなみにだが、女神様バージョンのミコトさんである。スタイル抜群の美女の等身大人形である。
まぁ普通に考えてそっちだろう。ここであえて召喚獣バージョンのミコトさんを作ることもあるまい……。
「そういえば、こっちもこっちで順調っぽいね」
「あー、そうですね。まだちゃんと光ってますね」
そんな会話をしながら僕達が眺めるのは――ヒカリゴケのアクアリウム。ミコトさんへのお土産としてプレゼントした物だ。
ニスで作ったガラスビンに水を入れて、その中に丸めたヒカリゴケを詰めて、上はコルクで蓋をした。
ちなみにだが、このヒカリゴケは『水の中でマリモっぽく生き続けることができるヒカリゴケを!』とかなんとか願いながら生成してみた。
今までの経験上、こういうのって結局はイメージなのよ。頑張ってイメージしたら、大抵はなんとかなる。やはり魔法はイメージが大事。
そして、そんな僕の祈りが通じたのかどうなのか、ヒカリゴケリウムのヒカリゴケは五ヶ月経った今でも、うっすらと光を放ちながら元気にビンの中でころりと転がっている。
どうやらまだちゃんと生きているようだ。以前にもヒカリゴケの耐久実験はしたことがあるけど、ここまで長く生きていたことはなかった。やはりマリモっぽくと願って、マリモっぽく育成しているのが功を奏したのだろうか? とりあえずこのまま長い事生き続けてほしいものだ。
「――それはそうとミコトさん、五ヶ月ですよ」
「ん? ああうん、五ヶ月だね」
「五ヶ月も経過したので、今作っている神像が完成したあたりで――下界に帰ろうかなって考えていたりもします」
「む。そうなのか」
「そうなのですよ。……なんか気が付いたら、このまま500年経っていたとかありえそうな予感もしますし」
やはりそういう展開もないとは言い切れない。というか、あるいはミコトさんならば、そういう経験もあったりしたんじゃないかな? なにせミコトさんだしさ。なにせ女神様だしさ。
大容量サイズのポテトチップスを、もっしゃもっしゃと頬張っているミコトさんで、食べきりサイズではないポテチを一度で食べきろうとしているミコトさんだけど、それでも女神様だ。たぶん悠久の時とかを生きている女神様なのだ。
そんな女神様と一緒に生活していたら、こっちの感覚までおかしくなってしまい、本当に気付けば500年後という展開もないとは言えない……。
「んー、そうか。まぁ良い区切りなのかもしれないね。像が出来たら帰宅か」
「ええはい、そのつもりで――あ、その前にルーレットを回してからですけどね」
「ああ、そうだそうだ。それを忘れていた」
それが本題。長期滞在のせいで、ついつい忘れがちになってしまうチートルーレットだけど、本来僕はそのために天界までやって来たのだ。
――うむ。こうして思い出すと、改めて楽しみになってくるな。果たして次はどんな景品を手に入れることができるだろうか。
「ミコトさんならどうです?」
「うん?」
「ミコトさんなら何が欲しいですか?」
「何が欲しい? 何が欲しいと聞かれても……えぇと、とりあえずしょっぱい物を食べたから、次は甘い物を食べたいかな」
「…………」
あー、うん、今のは僕が悪かった。話を端折った僕が悪い。
「そうじゃなくてですね、チートルーレットの景品です。ミコトさんが僕の立場だとしたら、ミコトさんは何が欲しいですか?」
ってことを聞きたかったのだ。そんな世間話をしたかった。
「あぁ、そういうことか。そうだなー」
「ええはい、どうです?」
「んー、ちょっと待っていてくれ」
とのことなので、ちょっと待つ。
ミコトさんが冷蔵庫に向かい、中からアイスを持って戻ってくるまで待った。
……考えるから待ってほしいってわけではなく、アイスを持ってくるから待ってほしいってことだったのね。
「電子レンジが欲しいかな」
「ほう?」
「下界でも魔道具に冷蔵庫っぽい物はあるだろう? だから冷やすのは大丈夫だけど、温めるのは面倒。なのでレンジが欲しい」
「なるほど」
これでもかってくらいミコトさんの趣味嗜好に沿った意見だけど、わりとうなづける意見でもあった。確かにレンジ欲しい。
「あとは、食洗機欲しいな」
「ほう?」
「食べるのは好きだけど、洗い物が面倒くさい」
「なるほど」
これでもかってくらいミコトさんの趣味嗜好に沿った意見だけど、わりとうなづける意見でもあった。確かに食洗機欲しい。
「ふむふむ。こうやって他の人の意見を聞いてみるのも面白いですね。ありがとうございますミコトさん」
「いやいや、別に大したことじゃないけれど」
「どうせなら、もっといろんな人に聞いてみましょうか。いろんなアイデアを集めて、ディースさんに話してみましょう」
「ディースに?」
「ディースさんにお願いしたら――ルーレットの中に加えてくれそうじゃないですか?」
まぁここでは僕の知り合いもそう多くはないけれど、できるかぎりアイデアを集めて、良さそうなものはディースさんに陳情してみようではないか。
「ふむ。追加してくれるかな?」
「わかりませんけど、案外軽いノリで入れてくれたりしませんかね? なにせルーレットの景品って、六億あるって話じゃないですか。それだけあるのですから、十個や二十個増えたところで、あんまり変わらないと思うんですよ」
「なるほど、それは確かに」
というわけで、みんなにアイデア募集。
うんうん、なんだか楽しくなってきたな。自分で考えたり、みんなに考えてもらった超絶便利なチート景品を実際に獲得できるかもしれないと思うと、もうそれだけで心が踊る。
「まぁ六億ってことを考えると、僕のアイデア募集というのも余計なことなのかもしれませんけどね。なにせ六億ですから。まだまだ景品は余っているわけです。もうこれでもかってくらい余っていて――決してネタ切れなんかじゃないですから」
「……うん?」
「もしもネタ切れで次のルーレット景品が思い付かないとかであれば、僕も急いで協力してあげたいところですが、まだまだ景品は余っています。余りに余った六億です。それだけのアイデアがまだまだ唸っているわけで――決してネタ切れなんかじゃないのです」
「なんだ……? なんの話をしているんだアレク君……?」
だからまぁ、アイデアを募集する必要なんてないとは思う。そう思うんだけど……別に聞いといて損はないよね。アイデアを募集しても損はない。
というわけで、是非ともお願いしたい所存。是非とも皆様からたくさんのアイデアを頂戴できたら、僕としても幸いでございます。
――別にネタ切れなんかじゃないけれども!
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