第688話 天界短期滞在プラン
なんとかディースさんとミコトさんへのお土産を無事に渡し終えた僕だったけど、どうやらお土産を渡すべき相手はまだまだいるらしい。
どうしたものか。とりあえずラフトパンは二つほど回収させてもらったものの、もう他には何もない。ウェルベリアさんやレーテーさんには、いったい何を渡したらいいものか。これから僕はどうしたらいいものか……。
うむ。こんなときこそ――ヘズラト君だ。
ヘズラト君に頼ろう。ヘズラト君に聞けば、何か良いアイデアを出してくれるはず。
「えぇと、とりあえずヘズラト君を……あ、違いましたかね。確かここでの呼び名は――ラタトスク君でしたっけ?」
「ああ、そういえばそうだったかな。確か天界ではそう呼んでいたはずだ」
なるほど、もうずいぶんと長いことヘズラト君と呼び続けていたが、久々の名前変更だ。
「では、今からラタトスク君を召喚しようと思います」
「そうだね、いいんじゃないかな? 何はなくとも呼んでおこう。ラタトスク君を呼んでおいて損なんてないはずだ」
「ですよね、じゃあまずは――『送還:大シマリス』」
ミコトさんも同意してくれたので、さっそくラタトスク君を呼び出すことにした。今現在ラタトスク君は下界に召喚中なので、まずは送還。そして次に召喚の呪文を――
「……でもアレクちゃん、ここでラタトスクちゃんを呼ぶのはどうなのかしら」
「はい?」
召喚の途中で、ディースさんから静止の声が飛んだ。
え、何? 何かまずいことが?
「えっと、どういうことでしょうか?」
「確かアレクちゃんは、ルーレットでとんでもないチートを手に入れたとき、ラタトスクちゃんを頼ろうと考えていたわよね?」
「ええまぁ」
「とりあえずラタトスクちゃんに丸投げしたら、事態を上手く収めてくれるはずだと期待していたわよね?」
「ええまぁ……」
丸投げって言い方は……いや、まぁその通りか。むしろぴったりだ。むしろそれ以外の言い方はなかった。
「だとすると、ここでラタトスクちゃんを呼ぶのはどうなのかしら? アレクちゃんが下界に戻ったとき、ラタトスクちゃんが不在の状況になってしまうわ」
「あ……」
あー、そうか、一緒に帰れるわけじゃないものな。僕だけ先に帰ることになってしまうのか。そしてそのとき、ラタトスク君はいないわけで……。
「……というか、もう送還しちゃいましたね」
「そうねぇ。そうなると、もうラタトスクちゃんは下界からいなくなってしまって――なんならそのこと自体も問題かもしれないわね。五人部屋で全員寝ていたはずが、突然ラタトスクちゃんだけが消えてしまって、他のみんなが気付いたら不審に思うかもしれないわ」
「むぅ……」
うーむ。いろいろと失敗しちゃったな。まさかラタトスク君を呼ぶことに、そんなリスクがあるとは思っていなかった。ミコトさんも『呼んで損はない』って無駄に太鼓判を押してくれたし……。
あ、いや、別にミコトさんを責めるつもりはないんだけどね。別にミコトさんが悪いわけじゃない。
それでもちょっと思うところはあって、なんとなくミコトさんの方を見てみると――
「迂闊だなアレク君。後先考えずに行動して、取り返しのつかないことになってしまった」
「…………」
なんなのこの人……。
「まぁこうなってしまったら仕方がない。諦めて呼ぶといい」
「そうしましょうか……。やっぱりラタトスク君にも居てほしいですからね。どうせしばらくは天界に滞在するわけですし――うん?」
……いや、それはどうなんだ? 別にそうは決まっていないはず。別に天界に長期滞在しなければいけないわけでもないよね?
「あるいは、この後すぐチートルーレットを回して、終わったらすぐ帰るって選択肢もあるんですかね?」
むしろ最初はそうだったはずだ。天界に来て、ちょっとお話して、ルーレットを回して帰る。基本は数時間で、長くても一泊して帰るくらいの滞在時間だったはずだ。
「えぇ? そんなこと言わずに、しばらくのんびりしていったらいいじゃない」
「そう言ってくれるのはありがたいですが……でもそれで前回は一年も滞在しちゃったじゃないですか。さすがに一年は長すぎでは?」
あまりにも長く滞在しすぎて、ルーレットのために来たのに、ルーレットを忘れて帰りかけたくらいだ。ラタトスク君が体を張って止めてくれなければ、そのまま普通に帰っていたことだろう。
「別にいいじゃない。そのおかげで今回は九ヶ月で再びルーレットを回せるわけでしょう?」
「ええまぁ、それはそうですけど……」
「いっそのこと二年くらい滞在したら? そうしたら二回連続でルーレットを回せるわよ? 最短記録の更新も夢じゃないわ」
「最短記録……?」
あぁ、そういえばそんなのもあったな……。最短記録は五分だったか。レベル5アップボーナスを引いたときの記録だ。
今後破られることはない記録だと思っていたけど、まさか更新のチャンスがあったとは……。まぁ別にそこまで破りたいとも思っていなかったけど。
「それに、せっかく久々にアレクちゃんと再会できたのに、すぐにお別れは寂しいわ。ここを逃したら、次はいつ会えるのか……」
「いやいや、ディースさんとはすぐ会えるじゃないですか。もう前みたいに、会えるのは天界だけってわけでもないですし」
今は召喚獣として活動してもらっているし、僕の旅が終わってメイユ村に戻ったら、すぐに再召喚して再会することができるから。
「んー、だけどこのまま掟の期間が終わるまでは旅していそうじゃない? 意外にも世界旅行が順調みたいだし」
……意外にもってのはどういうことか。
とはいえ、確かに順調ではある。なんだかんだで半年以上旅を続けていて、あと半年も過ぎれば掟も達成だ。あまりにも順調。
基本的には同じ場所に留まって、ダラダラするか木工するかくらいの生活で、そもそもそれは旅なのかという疑問も生まれつつあるが、とりあえず掟のノルマ消化だけは順調だ。
「そうですねぇ……。そういうことなら、もうちょっと滞在しますかねぇ」
「あら、嬉しいわアレクちゃん。ありがとうね」
「いえいえ、お礼を言うのは僕の方です。こちらこそよろしくお願いします。しばらくお世話になります」
というわけで話がまとまり、またしても天界での生活が始まることとなった。
うん、まぁ決まったからには楽しもう。これからラタトスク君を召喚して、ウェルベリアさんやレーテーさんにも挨拶をして、しばしの天界滞在を楽しもうではないか。どれだけいるかは決めていないけど、しばしの滞在を――
……ふむ。なんか怖いな。この流れはちょっと怖い。ふと気が付いたら、とんでもない時間が経過していそうで怖い。
何気に居心地いいからなぁ。だらだらと滞在を続けてしまって、下手したら本当に二年以上経過してしまうかもしれない。それどころか四年とか六年とか八年とか十年とか経過して、チートルーレットのストックを無駄に溜め込むことになるかも……。
まぁさすがに十年はないと思うんだけどね。さすがに二桁はないと思うけれども……。
next chapter:500年後……




