第685話 アレク君二十歳、九ヶ月ぶり十回目
「――ハッ」
――会議室だ。
ふと気が付くと、僕は天界の会議室にいた。
……どうやら無事に転送されたようだ。突然違う場所に立ち尽くすことになって、毎回転送時には軽くパニックになってしまう僕がいたりもするのだけれど、とりあえずは無事に天界へたどり着けたようで、何よりである。
さてさて、それで他の人達は――
「アレクちゃん!」
「おぉ!?」
突然何者かにむぎゅっと抱きしめられて――
「おぉ、ディースさん……?」
「そうよ? ディースさんよ? あなたのママよ?」
いや、別にママではない。
「えぇと、お久しぶりです」
「そうね。久しぶりね」
世界旅行に旅立って以来なので、かれこれ半年ぶりくらいかな?
そう思うと、やっぱり結構久々で、ディースさんも久々の再会に喜んでくれている。
そしてディースさん以外にも、会議室には誰かいるようで――
んん? あ、ミコトさんか……。久々に女神様バージョンのミコトさんを見たもので、一瞬誰かわからなかった……。
さておき、そんなスタイル抜群のミコトさんもこちらに近付いてきて――ディースさんを僕から引き剥がそうとした。
「……何するのよ」
「アレク君やナナさんから、暴走したディースを止めるように頼まれているのだ」
「…………」
そんなやり取りがあって、僕を抱きしめようとするディースさんと引き剥がそうとするミコトさんが、激しくやり合っている。
というか、そうもはっきりディースさん本人に伝えないでくれないかな……。
「離しなさいミコト。私は暴走なんてしていないわ」
「暴走している人は、みんなそう言う」
なんか酔っぱらいへの忠告みたいな物言いだ……。
えぇと、でもですね、ディースさんも本当にそこまでは暴走していないみたいですし、あまり手荒な真似は……というか、なんだかとても怖い状況になってない?
大丈夫なの? 二人ともだいぶ力が入っているように見えるよ? とりあえず今のところ、僕を抱きしめるディースさんの力と、引き剥がそうとするミコトさんの力が拮抗して、結果的にふんわりと抱きしめられているっぽいけど……この状況大丈夫? ギリギリまで弦を引き絞られた弓みたいな状況なんじゃなくて? ここでミコトさんが手を離したらどうなるの? バチーンってなんない? 僕がバチーンってなっちゃわない?
◇
「そんなわけで、おめでとうアレクちゃん」
「おめでとうアレク君」
「お二人とも、ありがとうございます」
いきなりディースさんとミコトさんが一触即発状態に陥ってしまい、そんな二人に巻き込まれて、昇天からの昇天することに怯えていた僕だったけど――今はどうにか二人も落ち着いてくれたようで、レベル45到達をお祝いしてもらえた。
「ちなみに今回は――うん。一応は九ヶ月ぶりってことになるのかな?」
「あー、そうなりますか」
九ヶ月とは、すごいペースだね。いつもは大体二年に一回ペースなので、それだけ聞くとすごいハイペース。
「まぁ前回の天界で過ごした一年がありますから、実際には一年九ヶ月で5レベル上がった感じですか」
「まぁそうなるね」
一年九ヶ月。そう考えてもそこそこハイペースだ。
やはりこれは魔王式パワーレベリングの影響なのだろう。リュミエスさんのおかげで期間を三ヶ月縮めることに成功したわけだ。
「というわけで、今回が九ヶ月ぶりのチートルーレット、アレク君ももう二十歳だ」
「おー、なるほど」
いつものセリフを聞いて、天界に来たのだなと、チートルーレットが始まるのだと実感したりして。
「あ、ちなみに今回はどのタイミングでレベルアップしたのでしょうか」
これもいつも聞かせてもらえるやつだ。はてさて、今回はどうだったのだろう? やっぱりマラソン中かな? ダンジョンマラソン中にレベルアップしたのかな?
いや、まぁ実はあんまりマラソンをしていなかったことに先ほど気が付いてしまったわけだが、とりあえずダンジョン探索中にレベルが上がったことは間違いないはずで――
「エルザちゃんに膝小僧をツンツンされた瞬間だそうだ」
「…………」
……そこか。よりにもよって、そこなのか。
うん、まぁ偶然なんだろうけどね……。たぶんダンジョン探索でギリギリまで経験値が貯まっていたのだろう。その状態で膝小僧をツンツンされて、それが最後の一押しになったのだと思われる。
「……あれ? ということは、つまり鑑定する直前にレベルアップしたんですか?」
「そうみたいだね」
「はー。だとすると、結構危なかったですね……」
鑑定ではレベルアップしていなくて、そこから寝るまでの間にレベルアップしていた可能性も大いにありえたわけだ。そうなったら、僕はなんの準備もできないまま天界に転送されていたことだろう。
そう考えると――エルザちゃんに感謝だね。
あとでお礼を言っておこう。僕の膝小僧をツンツンしてくれてありがとうと、心からの感謝を伝えておこう。
「それはそうとアレクちゃん」
「はい?」
「他にも何かあるんじゃない?」
「他に?」
「私に何か伝えたいこととか、私への何かとか、そういうのはないのかしら?」
んん? なんだ? ディースさんは何を言って――
……あ、そういうことか。
「……実はですね、ディースさんにお土産を持ってきたのですよ」
「まぁ、なんてことなの! ありがとうアレクちゃん!」
「ええまぁ……」
なんという茶番……。全部知っていただろうに……。天界から全部見ていて、なんならお土産の中身まで知っているだろうに……。
「といっても、大したものではないのですが」
「そんなことないわ。アレクちゃんが用意してくれたものなら、それだけで大したものだし、それより何より、お土産を用意してくれたその気持ちが嬉しいの」
「そうですか? そう言っていただけると、僕も嬉しいです」
うん、まぁ嬉しいよね。そこまで喜んでくれるなら僕も嬉しい。何やらひどい茶番が始まってしまったりもしたけれど、それでもお土産を用意してよかったな。
「おー、わざわざお土産を用意してくれたのか。なんだか悪いね。ありがとうアレク君」
「え?」
「え?」
「……あ、いや、えぇと、そんな大したものではないのですが」
「いいともさ。ディースも言った通り、用意してくれただけで嬉しいものさ」
「そうですか……」
まぁなんというか……ミコトさんには用意していなかったんだけどね……。
……いや、だって仕方なくない? ミコトさんはずっと下界にいたわけでしょう? 僕と同じように下界にいて、ほとんど一緒のタイミングで天界にやってきたのだ。そう考えると、ミコトさんにお土産を用意するのもちょっと変じゃない? 用意しなかったのも仕方ないと思うんだ。……むしろ何故ミコトさんは自分も貰えるものだと確信していたのか。
とはいえ、それをミコトさんに伝えることもできず、ミコトさんの分も用意したと伝えてしまった僕がいる……。えっと、これはどうしたものかな……。
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