第683話 山田は愚考する2
無事にレベルアップを達成した僕は、これからチートルーレットのために天界へと転送される予定だ。
そして今は、転送前にユグドラシルさんと合流する計画を練っていたわけだが――
「さすがに現実的じゃないかなぁ……」
「キー……」
正直合流までの道のりはだいぶ険しそうだね……。とりあえずメイユ村の近くまで自力で歩いて向かうのは無理っぽい。軽く口にしただけで、ヘズラト君からも『こいつマジかよ……』みたいな顔を向けられた。
ひとまず自力は無理として、リュミエスさんにメイユ村まで空輸してもらう案も挙がったのだが……やっぱりそれもちょっと厳しいよねぇ。というか、それこそ本当に無理だ。それは僕的に無理。怖くて無理。
「仕方がない。今回はユグドラシルさん抜きで、このまま転送されるとしよう」
「キー」
僕の転送シーンに並々ならぬ関心を寄せるユグドラシルさんではあるが、今回ばかりは納得してくれることだろう。今回はご縁がなかったということで、次回に期待してほしい。
「さて、他に何かあるかな? 他に考えておくべきことは?」
「キー」
「むむ?」
「キー」
「ふむ。そうだね。そこも話を聞いておかないとだ」
ヘズラト君から、『ミコト様のご予定はどうなっているのでしょう』と指摘があった。
今はメイユ村のダンジョンで悠々自適な生活を送っているミコトさんだが、僕の天界行きで、その予定が大きく変わる可能性もありそう。
「うん、それじゃあ本人に直接聞いてみようか」
「キー?」
「そうそう。Dメールを使って僕とヘズラト君とミコトさんと、あとナナさんも入れて、全員で会議をしよう」
「キー」
というわけで、それぞれ準備を始める。
ヘズラト君は椅子に腰掛け、テーブルの上に自分のダンジョンメニューを呼び出した。ディスプレイとキーボードで分かれているセパレートタイプのダンジョンメニューだ。
そして僕はソファーに体を預け、楽な体勢でスマホサイズのダンジョンメニューを呼び出して――
……ヘズラト君と比べると、なんだか僕の方はだらけているように見えてしまうな。
……まぁいいや。ひとまずミコトさんとナナさんに連絡しよう。
「さて、それじゃあ招集のメッセージはヘズラト君に任せてもいいかな?」
「キー」
「ありがとう。よろしく頼むよ。せっかくだし、ヘズラト君らしい文章をお願いしたいな」
「キー?」
「ヘズラト君らしく真面目で丁寧な文面で、それでいてヘズラト君の可愛らしさが伝わるようなメッセージを希望したい」
「キー……」
てな感じで、軽く無茶振りしてみたところ――
『アレク様が見事レベル45に到達致しました。つきましては、これから行われるチートルーレットに関して皆様とご相談させていただきたく存じます。ご返信いただけますと幸いですฅʕ´•Ψ•`ʔキー』
おぉ、顔文字だ。シマリスの顔文字だろうか。確かにヘズラト君らしい文章と、ヘズラト君らしい顔文字である。やるなぁヘズラト君、まさかこんな技を持っていたとは……。
というか、もしかして以前から自分の顔文字を作っていたのだろうか? そう考えると、なんか可愛いなヘズラト君。
◇
『ついにレベルアップか。おめでとうアレク君』
「おぉ……。ようやく気付いてもらえた……」
ミコトさんから返信があるまで、ずいぶんと時間が掛かってしまった……。
やはり着信になかなか気付けないのが、Dメール唯一の弱点だね……。
さて、それじゃあさっそく会議を始めるとしよう。
僕はDメールに、ぽちぽちと文章を打ち込んだ。
『ありがとうございますミコトさん。それで、ミコトさんはこれからどうしますか?』
『うん? どうするとは?』
『ミコトさんの予定をお聞かせ願いたいのです』
『とりあえず今はお昼ごはんを食べ終わって、これから軽くお昼寝でもしようと思っていたところだけど』
「…………」
あー、うん。まぁいいんだけどね。別にミコトさんのライフスタイルにケチを付けるつもりはないけれど……。
『お相撲さんですか?』
「やめろナナさん」
確かにそんなライフスタイルに感じてしまったけれど、Dメール越しとはいえ、それを直接本人に伝えるんじゃない。
「消して消して。ヘズラト君、ナナさんの文章を消しておいて」
「キー」
ヘズラト君には急いでメッセージを消すよう指示を出し、逆に僕は急いで別のメッセージを入力していく。急いで話題を変えよう。
『というわけで、これから僕は天界へと転送される予定ですが、ミコトさんはどうしますか? いつもは一緒に天界でルーレットを見守ってくれていますよね』
『ああうん、そうだね。それより今、お相撲さんって……』
いかん。すでに見られていたようだ。
――いや、しかしその文面はすでにヘズラト君が消してくれた。このまま全部なかったことにしてしまえ。
『なんのことでしょう。僕のログには何もないです』
『んん……? うん、そうみたいだけど……』
よしよし、このまま勢いで押し切れ。寄り切れ。
『さておき、今からミコトさんを送還すれば、ミコトさんとも天界で再会できるはずです。しかしその場合、ミコトさんはメイユ村に戻れなくなってしまいます。どうしましょう?』
『あー、そうか。どうしようかな』
「まぁ僕としてはどちらでも――うん?」
……あ、でも僕からすると、ミコトさんも天界に居てくれた方がよいのかな?
ミコトさんが居ないとなると、天界でディースさんと二人きりである。その状況は、ちょっとまずいかもしれない……。
なにせディースさんだしな。僕に対してあまりにも熱烈な寵愛を授けてくれるディースさんなのだ……。
いつだったか、寵愛が暴走したディースさんを止めるためにド派手なバトルが展開された過去が思い出される。ミコトさんによる神の鉄槌が、ディースさんの後頭部に炸裂した過去だ。
あれを思うと、ミコトさんというストッパー不在はまずいかもしれない……。
あるいは他の女神様――ウェルベリアさんやレーテーさんが代わりにストッパーになってくれるだろうか?
どうなのだろう。レーテーさんはともかく、ウェルベリアさんは助けてくれそうな気もするけど……でも別にウェルベリアさんも毎回会議室にいるわけじゃないからなぁ……。
「んー、やっぱり僕的にはミコトさんも天界に居てほしいかな……」
とはいえ、その理由をストレートに書くのもよろしくない。
きっとこの会議はディースさんも見ているだろうし、『ディースさんが暴走したときの用心として、ミコトさんも同席してもらいたい』とは発言しづらい。
だから上手いこと言葉を選んで、良い感じにオブラートに包みながら文章を――
『ディース様が暴走したときの用心として、ミコト様も同席した方がよろしいかと、ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田は愚考します』
「…………」
台無しである。
いや、うん、たぶんアドバイスとしてはあっているんだろうけどね……。僕も同じことを考えたし、確かにそれはみんなに伝えておくべき的確なアドバイスだったのかもしれないけどさ……。
『というか、その長い長いフルネームが一瞬で入力されなかった?』
『単語登録しているので』
『そうなんだ……』
next chapter:おやすみヘズラト君




