第679話 ダンジョンマラソン6
ラフトダンジョンの仕様も粗方確認できたところで――満を持してのダンジョンマラソンである。
レベル45到達に向けて、今日も元気にマラソン中。今日の面子は僕とヘズラト君のリュミエスさんの三人だ。この三人で、ちょうど第14階層の攻略を終えたところであった。
「お疲れ様でしたー」
「キー」
「…………」
14階層から15階層へと続く階段を降りたところで、僕はヘズラト君の鞍から降りてヘズラト君とハイタッチを交わし、続けてリュミエスさんともハイタッチを交わした。
「じゃあ次は第15階層。いくぞー」
「キー」
「…………」
そうしてまたヘズラト君の鞍に乗り込み、ダンジョンを進み始める。ちなみに今のは、僕らで決めた探索ルーティーンである。
やっぱりさ、なんかもうずーっと代わり映えしないダンジョン探索だからさ。無理矢理にでも盛り上がるポイントを作って、無理矢理にでもテンションを上げて進まないと、気力がもたないのよ。
そんなこんなで、ラフトダンジョン第15階層を進んでいると――
「…………」
「おっと、敵襲ですか?」
僕の隣を歩いていたリュミエスさんが、にわかに歩みを緩めた。索敵にモンスターが引っ掛かったときの合図だ。
さてさて、いったいなんのモンスターが……いやまぁ、歩きキノコなんだけどね。そこはもう確定しちゃっているのだけれど……。
「キー」
「おー、見えてきた見えてきた」
やはり歩きキノコだ。当然のように歩きキノコ。256分の1で走りキノコが出たりとか、そんな遊び心もない。本当に歩きキノコしか出ない。なんと硬派な歩きキノコゾーンだろうか。
さておき、そんなキノコがこちらに向かって歩いてきたので――
「やー」
裂帛の気合いとともに、僕は矢を放った。
そして見事に矢は命中。キノコはパタリと倒れた。
「よしよし。完勝だ」
「キー」
「ありがとうヘズラト君」
「…………」
「ありがとうございますリュミエスさん」
うん、褒めてくれるのはもちろん嬉しいけれど、歩きキノコを倒しただけで毎回そんなふうに称賛されると、なんかむしろ居たたまれない気持ちにもなってくるねぇ。
「さて、それじゃあドロップを回収して先へ進もうか」
「キー」
そうこうしている間に、倒れた歩きキノコはダンジョンに吸収され、その場にはドロップ品が残された。
このあたりは僕のダンジョンと同じだね。確かそうした方がダンジョンのエネルギー効率が良いんだっけかな? ナナさんがそんなことを言っていた気がする。
「キー」
「回収ありがとうヘズラト君。ちなみにドロップ品は……あ、うん、まぁそうだよね。キノコだよね」
そしてドロップ品はキノコだった。もはやドロップ品を楽しみにすることすら許されない歩きキノコゾーンである。
……うーむ。この調子だと、そのうち本格的にダンジョン探索に飽きてしまいそうだ。
もうちょっと他に楽しみ方を模索した方がいいのかもなー。またタイムアタックでもしてみようか? 100階層までずっと同じ作りなのだし、これなら毎回毎回タイムを計測することもできる。
それに、タイムアタックは良いんだ。レベルアップ時に『素早さ』が伸びる確率がちょっと上がる。なんなら僕に一番必要なレベリング方法かもしれない。
あとは、別の武器を使ってみるのも飽き防止には良いかもね。
なんといっても僕はいろんな武器の使い手だ。格好良い呼び方をすれば、マルチウェポンユーザーだ。マルチウェポンマスターなのだ。
弓じゃなくて剣を使ったり、あるいは槌を使ったり――
「……あれ?」
「キー?」
「槌……。槌に関して何か……。何かを忘れていたような……?」
なんだっけか? 僕は何を忘れていた? えぇと、なんだろう。思い出せない……。
――うん、まぁいいか。
「キー」
「え? 何?」
「キー」
「あっ……」
そうか、それだわ……。それを忘れてた……。
というか、すごいなヘズラト君。あまりにも曖昧な僕のヒントから、即座に正解を導き出してくれた。むしろ僕なんて、即座に正解を諦めて考えることを放棄したというのに……。
「…………?」
「あ、はい、僕の『槌』スキルについて、忘れていたことがあったのです」
「…………」
「それと言うのが――『光るパラライズパワーアタック』」
「…………?」
「三ヶ月ほど前に取得したスキルアーツなのですが……一度も使うことなく存在を忘れていました」
うっかりしていた。普通に忘れてた。
まぁどうせ『パワーアタック』に麻痺効果がついて、ついでにヒカリゴケが生えたりして、そしてきっと呪文が長すぎて使いづらいのだろうと予想していたわけだが……。
そんな残念な予想もあって、ついつい後回しになってしまった。
とはいえ、新しく取得したスキルアーツを使いもせずに放置するとは、なかなかにありえないことな気がしないでもない。
「キー」
「そうだね。それじゃあ試してみようか」
せっかくヘズラト君に思い出させてもらったのだし、一度試し打ちをしてみよう。
ここでやっておかないと、また忘れそうだしね……。忘れる前に一度くらいは試し打ちを……。
◇
「よくわかんなかったですね……」
「…………」
「キー……」
さっそくアレクシスハンマー1号を取り出し、歩きキノコに向かって『光るパラライズパワーアタック』を繰り出してみたのだけれど……正直よくわからんかった。
なにせ相手が歩きキノコなため、『パワーアタック』要素のみで事足りてしまったのだ。『パラライズ』要素を確認する前に、歩きキノコはあっさり昇天してしまった。
「でもまぁ、ヒカリゴケはやっぱり生えるみたいですね」
ハンマーで叩いた瞬間、歩きキノコに苔がもさっと生え散らかした。『ヒカリゴケ』要素の方はしっかり確認することができた。
そしてこの要素は、僕的にはどうでもいい要素だったりもする。これのせいで無駄に呪文が長くなるんよ……。
はてさて、どうなのかねぇこのスキルは……。
とりあえず長い呪文がやっぱりネックに感じたかな。『パワーアタック』に麻痺効果が乗ると考えれば、強力なアーツにも思えるのだけど……。
そんなことを考えながら、苔むした歩きキノコを眺めていると、キノコは溶けるようにダンジョンに吸収されていった。しかし、ヒカリゴケだけは吸収されずに地面に残った。
ヒカリゴケは消えなかった。――ヒカリゴケは消えない!
「やー」
「キー……?」
消えずに残ったヒカリゴケを拾い上げて、ヒカリゴケが生い茂るダンジョンの壁に投擲してみた。
「キー?」
「うん、なんとなく」
「キー……」
せっかく生えてきたヒカリゴケだしさ。このままなんの意味もなく朽ちていくのは忍びない。ダンジョンの光源の一部となるがよい。
うん、まぁ変わらんけどね。あんま光量変わらんかったけども。
というわけで、特に意味はなかった。なんの意味もない行為のつもりだった……。だというのに……。
この行為によって、まさかあんなことになろうとは、今の僕には知る由もなかった――
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