第678話 VS歩きキノコ100
ラフトダンジョンへの突入を果たし、初戦の歩きキノコ戦を見事勝利で飾った僕達であったが――そこでクリスティーナさんから衝撃の事実を聞かされた。
なんと第100階層までは――歩きキノコしか出ないらしい。
……うん、衝撃だね。あまりにも衝撃。
なんなのだろう。果たしてどういうことなのか。いったいどう受け止めればいいものか……。
「えっと……何故ですか?」
「アタシに聞かれても……」
クリスティーナさんもわからないのか……。
そうなると迷宮入りだな。迷宮の謎が迷宮入りだ。現地の超一流冒険者様がわからないということは、きっと誰にもわからないのだろう。
うん……? あ、でもクリスティーナさんだからな。そこは少し話が変わってくるか……。
決して交友関係が広いとは言えないクリスティーナさんなので、そのあたりを考慮すると、みんなは知っているけどクリスティーナさんは知らないとか、そういう可能性もなくはないかと……。
「それで、つまりこのダンジョンは歩きキノコのダンジョンなのですか?」
「あー、別にそういうわけでもなくて、101階層からは別のモンスターが出てくるな」
「なるほど、そうなのですね……」
じゃあ100階層までは歩きキノコゾーンって感じなのかな? ……ゾーン長くない?
「ふーむ。ということは、歩きキノコが段々強くなっていく感じですかね」
「いや、強さは変わんねぇな」
「変わらない……?」
「さっき倒したのと同じだ。同じ歩きキノコが、100階層まで続く」
「…………」
そうなのか………。
段々と強くなっていき、100階層ではとんでもないキノコが現れるのかと思いきや、ずっと変わらぬキノコが歩いてくるのか……。
「あ、じゃあフロアが変わったりするんですかね。複雑な迷路になったり、罠が増えたり」
「それも変わんねぇなぁ。大して複雑でもないフロアが延々続いていく」
そうなのか……。
じゃあえっと、とりあえず敵モンスターも変わらなくて、フロアも変わらなくて……?
「今の第1階層が、100回続くと思ってくれ」
「…………」
なんなのだこのダンジョンは……。
「だからアタシとしては、むしろアレクに聞きてぇんだけどな。どういう理由でこんなダンジョンになってんだ?」
「え、理由ですか……? そんなことを僕に聞かれましても……」
「ダンジョンマスターのアレクなら、なんかわかったりしねぇか?」
「あー、そうですねぇ。やっぱり考えられることとしては、それはなんというか……」
……ただの手抜きなのでは?
適当に歩きキノコを配置したエリアを、適当にコピペしただけなのでは? そんなふうに手を抜きつつ、階層を水増ししただけなのでは……?
……いや、でもそれをクリスティーナさんに伝えるわけにもいかない。
クリスティーナさんからすれば、慣れ親しんだ地元のダンジョンなのだ。よそ者が急に――
『このダンジョンは出来そこないだ。降りられないよ』
――なんて言うわけにはいかない。あまりにもぶしつけで無神経すぎる。
というか、別に僕のダンジョンだってそんなに褒められたダンジョンではないしさ……。
「どうなんでしょうねぇ。凡人の僕にはラフトダンジョンのコンセプトはわかりかねますが、なんとも個性的で独創的で、とりあえずユニークでクリエイティブなダンジョンですよね」
「なんだそりゃ……」
ここでラフトダンジョンを貶めるわけにもいかんので、無理やりにでも褒めてみた。
「一周回って洗練されているように感じます」
「一周どころか、ほぼ同じエリアを百周することになるけどな……」
「味があって良いダンジョンだと思います」
「100階層までは、キノコの味しかしねぇけどな……」
無駄に返しがキレているなクリスティーナさん……。
◇
歩きキノコしか出ないキノコゾーンとのことだが、それでも一応は初チャレンジのダンジョンなわけで、ひとまずはインペリ◯ルクロス陣形で進むことになった。
時折現れる歩きキノコをクリスティーナさんが無言で葬り去りながら、僕達はダンジョン内を進んでいく。
「そういえば、ダンジョンの作りも似ていますね」
「うん? アレクのダンジョンと比べてか?」
「そうです。入口は階段になっていて、階段を降りると第1階層が始まって、床は石畳で、壁にはヒカリゴケが生えていて――そのあたりは全部同じですね」
「ふーん? やっぱりそこは似るものなのか」
「そうなんでしょうねぇ。そういうものらしいです」
デフォルトがこの設計なんだろうね。たぶんこのダンジョンが生まれたとき、最初に入口と階段と第1階層が出来て、そこに歩きキノコを配置して――そのエリアを99個コピペしたのだろう。
うむ……。何やらここでも手抜き水増し疑惑が浮上してきてしまったな……。
そんなことを考えながら、さらに進んでいくと――
「お、階段ですね。このまま降りてもいいのですか?」
「ああ。第1階層はここまでだな」
「なるほど」
というわけで、全員で階段を降りる。
「――で、ここからが第2階層だ」
「……なるほど」
第1階層とまったく同じ風景が広がっている……。これを100回繰り返すと、ようやく別のモンスターが現れるようになるわけか……。これはなかなかにしんどいな……。
「あれ? ところで帰りはどうなるんでしょう」
「そこの宝石に触れると地上に出られるぞ?」
「ほほう?」
クリスティーナさんに指摘されて振り向くと、青い宝石がはめこまれた石の台座が目に入った。台座には『B2』なる文字が刻まれている。
つまりは地下二階か。いろいろとシンプルだけど、その分わかりやすいね。
「ちなみに、地上からダンジョン内にワープすることもできる。自分がたどり着いたことのある最高深度まではワープできる仕組みになっている」
「おぉ、それはありがたいですね」
というか、そうでもなければ100階層到達とか厳しい。一度の探索で100階層進むのも厳しいし、そこから100階層戻るのも厳しい。そこら辺はさすがに配慮してくれたらしい。やはりダンジョンにワープは基本。
そういえば、ナナさんもダンジョン立ち上げ当初からワープを強く推していたなぁ……。でも当時の僕はワープって移動手段が怖くて、ちょっとだけナナさんと意見がぶつかった記憶がある。
確かそのときナナさんから――
『ダンジョンでワープ装置は基本です。それを設置しないなんてとんでもない』『まさか怖いのですか?』『軟弱者!』『素早さたったの5』『ハーレム主人公』『ヒカリゴケ』
――てなことを言われた気がする。
ちょっと意見がぶつかっただけで、あまりにも厳しく罵られているような気もするけれど……。でも懐かしいね。今ではワープも怖くないし、僕の『素早さ』も7まで上がった。何やら成長を感じる。
「なるほどなるほど。ではちょっとずつ頑張って進んで、ちょっとずつ最高到達深度を更新していけばいいのですね」
「そうなるな」
「ふーむ。まったく変わり映えのしない探索ではありますが、諸々の事情を考えると、案外悪くないのかも……」
というより……むしろ良かったりする? 僕からすると、むしろありがたい?
歩きキノコ100階層ってのも、見方を変えればありがたい。敵モンスターがあんまり強すぎても、僕じゃ進めなくなっちゃうしさ。その点ここでは、少なくとも100階層までは僕でも進めることが確定している。
そして、少しずつ最高到達深度が更新されていくことに、ちょっぴりやりがいを感じてしまいそうで……。
むぅ……。なんだか悔しいな……。
手抜きの水増しダンジョンだとわかっているのに、それでも頑張ってしまいそうな自分が悔しい。いいように踊らされているのが口惜しい……。
「やー」
「……え?」
おもむろに自前のヒカリゴケを生成して、ヒカリゴケが生い茂るダンジョンの壁に投擲してみた。
上手い具合に壁のヒカリゴケと絡んで、僕のヒカリゴケも壁にぺたりと張り付いた。
「……どうした急に」
「なんとなく嫌がらせを」
「そ、そうか……」
ふふふ。僕のヒカリゴケで、このダンジョンのヒカリゴケを押さえ込んでくれるわ……!
そして、内側からラフトダンジョンを侵食してやるのだ!
……いや、まぁそんなことができるわけもないんだけどね。
もちろん僕もわかっている。ただなんとなく投げ付けただけだ。なんだか悔しくて、その辺の石ころを蹴っ飛ばしたくらいの感覚だ。
というわけで、特に意味はなかった。なんの意味もない行為のつもりだった……。だというのに……。
この行為によって、まさかあんなことになろうとは、今の僕には知る由もなかった――
next chapter:ダンジョンマラソン6




