第674話 アレクがラフトの町のダンジョンに行きたがらない理由とは……!
僕がラフトの町のダンジョンに行きたがらない理由……。
今こそ明かされる、その理由とは……!
「どうせ大した理由ではないのだし、さっさとダンジョンへ行こう」
「…………」
な、なんてことを言うのだジスレアさん……!
それはわからないじゃないか。もしかしたら複雑で深刻な理由があるかもしれないじゃないか……。もしかしたらだけど……。
「アレクは妙なところで妙に悩み始める癖がある」
「むむ?」
「そうなんでもかんでも深刻に考える必要はない。悩まずとも、人生は大抵なんとかなる」
「おぉ……」
やたら辛辣な意見を突然ぶつけられたのかと思いきや、むしろ温かい人生のアドバイスを僕に授けてくれたらしい。
「確かにそうかもしれません。いろいろと大袈裟に考えすぎて悩み込んでしまうのは、僕の悪い癖ですね」
「試しにアレクの理由とやらを聞かせてみてほしい。どうせ大したことはなくて、悩むだけ無駄だと伝えてあげたい」
「…………」
そうまで言われると、あんまり話したくなくなってくるなぁ……。
まぁ『伝えてあげたい』ということは、僕の助けになってくれるつもりなのだろうけど……。
「さぁ、早く聞かせてほしい」
「えぇと……」
「さぁアレク」
「いや、その……」
「『カーッ』」
「…………」
ビブラスラップでプレッシャーを掛けてきよる……。
何気にその楽器を有効活用しているよね……。そのことを喜べばいいのか、それともジスレアさんに変な道具を与えてしまったことを反省すればいいのか、これまた少々悩むところだ。
「では話しますけど……。そもそも僕が悩んでいる理由とは――僕がダンジョンマスターだからなのです」
「ん? アレクがダンジョンマスター?」
「はい、僕はダンジョンマスターで…………あれ? これはジスレアさんにも伝えていますよね?」
「うん、それは知っている」
だよね。これはすでに開示している情報だ。
先程もうっかりチートルーレットのことを漏らしかけただけに、少し不安になってしまった。何気にいろいろと秘密を抱えている僕であり、しかも相手によって開示している秘密がバラバラだったりして、時々わけがわからなくなるのだ。
「それで、僕も自分のダンジョンを所有しているのですが……たぶん僕のダンジョンって、少し特殊な造りをしていると思うんです。他の一般的なダンジョンに比べて、少し変わっているかなと……」
「すごく変なダンジョンだと思う」
「…………」
せっかく綺麗に包んだオブラートを全部引っ剥がされてしまった。
「まぁ僕なりに、みんなが楽しめるようなダンジョンを目指したのですが……」
「うん、そこはみんな楽しんでいると思う」
「ですよね? それなら良かったです。とはいえ、ダンジョンとして考えた場合、やはり少々趣が異なるというか、一風変わった要素も多く盛り込まれており――」
「そもそも私は、アレクのダンジョンをダンジョンだとはあんまり思っていない」
「…………」
だからオブラートを……。
でもまぁ、そうなんだろうね。そのくらい違うんだろうね……。
「というわけで、そんなダンジョンを作っている僕からすると、真っ当なダンジョンというのは少々恐れ多いのですよ」
僕だって決してふざけているわけではないのだけれど、そのあまりに斜め上に突き抜けたコンセプトが、他のダンジョンに入ることで明白になってしまうから……。
「んー、確かにアレクのダンジョンは、湖だったり山だったりが特徴だけど――でもそうじゃない普通のエリアもある。その部分で、参考になることはあると思う」
「む、それは確かに……」
「そういう意味では、行って損はないはず」
「なるほど……」
普通のエリアか……。確かにそっちはちょっとおざなりというか、疎かになっていたかもしれん。さらにダンジョンの向上を目指すならば、やはり見てくるべきか……。
「それで、それがアレクがラフトの町のダンジョンに行きたがらなかった理由?」
「そうですねぇ。あとはまぁ、ダンジョンでは貰えるギルドポイントがちょっと少なめだと聞いて、消極的になっていたところはあります」
なんかそういう仕組みらしいからね。ダンジョンの設定通りにポップしたモンスターを倒すより、自然発生したモンスターを倒す方が大変だし冒険者としても評価されるだろうし、それで獲得ポイントにも差が付くとかなんとか。
でもまぁ、今回はランクアップよりもレベルアップが目標だからね。そこは一旦置いておこうか。
「そう。てっきり私は、もっと他の理由かと思っていた」
「他の理由ですか?」
「もしかしたら――ダンジョンに入ることすらできないとか」
「え?」
「自分のところ以外のダンジョンに入るのは禁止とか、そういう決まりがあったりするのかなって」
「いや、そんなことは――」
別にそんな決まりは――
「え、あるんですか?」
「知らないけど……」
つまり……同業者お断りってこと? どうなんだろう。もしかしたらなくはないのか……?
というより、できることなら僕もそうしたい。そんなふうに制限を掛けられるなら掛けておきたい。とりあえず真面目にダンジョン作りしている人に、僕のダンジョンはあんまり見てほしくない。怒られそう。
「まぁナナさんもそんな話はしていなかったので、大丈夫だとは思いますけど……」
でもちょっと怖いな。せっかくラフトのダンジョンに対して前向きになれたのに、門前払いされたらどうしたものか……。
「あと他にも――自分のダンジョンがあるのに、他のダンジョンに寄るのはもったいないと感じるとか」
「もったいない? どういうことですか?」
「例えばだけど、フルールは他の材木屋で木を買ったりはしないだろうし、ジェレパパは他の雑貨屋で雑貨を買ったりはしないはず。アレクもそうなのかなって」
「なるほど……」
そりゃあ他所のダンジョンの売り上げに貢献するよりは、自分のダンジョンの売り上げを伸ばしたいところではあるよね。
……それはそうと、ジスレアさんもジェレパパさんの扱いがアレな感じになっているな。
もしかして僕のせいなのだろうか……。まぁジェレパパ呼びは僕のせいなんだろうけど、でもジェレパパさんのお店が雑貨屋っぽいのは、昔からだと思うけどなぁ……。
「んー、とりあえずそれはあんまり考えたことがなかったです。他のダンジョンに行くこと自体が問題だとは思っていなくて…………ふむ」
「うん?」
「いえ、なんでもないです」
ふと、ナナさんが言っていた『ダンジョンコアはマスターの妻である説』を思い出した。
そうだとすると、僕が他のダンジョンに行くことは浮気ってことになるのかね……。
「あと考えられることとしては――」
「まだあるんですか……」
「アレクのダンジョンのモンスター――不殺モンスターだっけ?」
「ええはい、安心安全を目指す我がダンジョンの特色ですね。相手の状況を判断して、攻撃を中止してくれるモンスターです」
「うん。アレクのダンジョンのモンスターは、そこに制限が掛けられていると聞いた。でもラフトのダンジョンのモンスターには、当然そんな制限はない」
それはそうだろう。なにせ不殺モンスター高いからね。なんかもう法外な値段だったりするのよ。普通のダンジョンでは、あんなモンスターは採用しないだろう。
……ふむ。
ってことは、ラフトのダンジョンには不殺モンスターなんていなくて――
「殺しにくるモンスターしかいない」
「…………」
……すごく怖いことを言う。
怖くなってしまった。言い回しがとても恐ろしい。
「そこを恐れているのかと思った」
「ええまぁ、確かにちょっと怖いですが……」
恐れたのは今だけどね……。今まさに恐怖心を植え付けられたのだけど……。
「あと考え付くこととしては――」
「もうやめませんかジスレアさん……」
僕がラフトの町のダンジョンに行きたがらない理由が、どんどん増えていく……。
ジスレアさんは悩む必要なんてないと言っていたのに、むしろこちらを悩ませることばかり言ってくるじゃないか……。
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