第673話 脱線して本線へ
なんやかんやありつつも、人形製作の指名依頼がスタートした。
今も僕はリュミエス人形を鋭意製作中である。音楽室にて、僕がカリカリと木を彫っていると――
「やぁ」
「おや、ジスレアさん」
ふらりと寄ってきたジスレアさんに声を掛けられた。
ちなみにだが、音楽室ということもあり、ジスレアさんも手に楽器を持っている。――ビブラスラップだ。
なんか気がついたらその楽器を手に持つことが多くなっていたんだよね……。
とりあえず今もジスレアさんは、リュミエスさんのベースに合わせてタイミングを見計らいながら『カーッ』とやっているようだが……。その楽器が担当でジスレアさんはいいのだろうか……。
「順調?」
「ああ、人形作りですか? そうですねぇ。まずまずですねぇ」
「それは、人族形態のリュミエス?」
「はい。人族形態の…………うん?」
……あ、そっか。人族形態であることを改めて指摘されて気が付いた。何も考えずにこの形態で始めてしまったが――竜形態のリュミエス人形を作るってパターンもあったのか。
「ふーむ……。なんなら両方作ってみてもいいかもしれませんね。これが終わったら、竜形態のリュミエスさんも作ってみますか」
リュミエスさんも喜んでくれそうな気がするし、ならばいっそのこと両方だ。両方作ってプレゼントしよう。
「あとは、等身大って可能性もあったかと思ったけど」
「等身大ですか……? いやでも、いきなり等身大はどうなんでしょう……」
「そして、竜形態の等身大リュミエスも」
「それは無理では……?」
どんな超大作だ。完成まで何ヶ月掛かるのか……。
「あのサイズの等身大人形となると、置き場所にすら困りそうですね……」
「適当に置いたら、結構な騒動になりそう」
「ですよねぇ。またケイトさんに叱られてしまいそうです」
「……うん。なんだかその光景がしっかり目に浮かぶようで、むしろアレクなら普通にやりかねない気がしてきた」
何故なのか……。騒動になりそうで叱られそうだと言っているのに、何故そうなる……。
「ひとまず指名依頼で作るのは、縮小版の人族形態リュミエスさん人形ですね。おそらく一ヶ月もあれば完成するはずです」
一ヶ月後には完成して、納品して、依頼達成して、莫大なギルドポイントを獲得して、ランクアップする予定である。一ヶ月後だ。すべては一ヶ月後。
「……それにしても、一ヶ月ですか」
「ん? どうかした?」
「一ヶ月なんですよねぇ。一ヶ月掛かるんですよ……」
「うん。一ヶ月。依頼の結果が出るまで一ヶ月。おそらくそう都合のいい結果は出ないと個人的には思っていて、落ち込むアレクのことが今から心配なのだけど、とりあえずすべては一ヶ月後」
「…………」
……どうやらジスレアさんも、この作戦は上手くいかないだろうと予想しているらしい。
心配してくれるのはありがたいけど、今の段階でそんなことを僕に伝えないでくれんかな……。
――というか、そのことではないのだ。
おそらく失敗するだろうと思いながらも進めている本作戦について話したいわけではない。そこは見て見ぬふりを決め込んで作戦を進める構えなのだ。
「作戦のことは置いておいて、僕が気になったのは一ヶ月という日数です。これから一ヶ月となると――さすがにそろそろ来そうじゃないですか?」
「来る? 何が?」
「――僕のレベルアップです」
この町で鑑定して、自分がレベル44であることを知ったあの日から――三ヶ月経った。
なんだかんだで三ヶ月。おそらくだけど、もういつレベルが上がってもおかしくない状況だと思う。ここからさらに一ヶ月となると――これはもう確実だ。その期間内に、確実にレベルアップするはず。
「レベルアップするかもしれないけど、それがどうかした?」
「え? だって次にレベルアップしたら、レベル45ですよ?」
「うん」
「そうしたらチートルーレッt……なんでもないです」
「……うん?」
危ないところだった……。長年一緒に旅をしてきて、気心の知れたジスレアさんではあるが、さすがにチートルーレットのことは秘密なのだ。危ない危ない。うっかり口を滑らせるところだった。
「まぁなんと言いますか……45というのはキリの良い数字ですし、できたら早いところ到達したいなーって」
「キリが良いかな……?」
そこそこ良いはず……。なにせ5の倍数だしさ。5の倍数はちょっとキリが良いイメージ。
まぁその次はレベル50なわけで、50と比べると見劣りするけど、45もそこそこは良いはずで……。
「もちろん人形製作は人形製作でしっかり進めていくつもりですが、並行してレベル上げに勤しむのも良いのではないかと」
というわけで、現在進めている不正受給作戦からは少し離れて、レベルアップ作戦を敢行したいと考えている。
毎度毎度のことながら、どうにも寄り道というか脱線が多い僕である。今回も脱線して、レベル上げの方を――
……いや、むしろそっちが本線か?
よくよく考えると、レベルアップしてルーレットを目指す方が明らかに本線だよね。今までの不正受給作戦とか、謎にバンド結成を目指したりとか、そっちの方が脱線っぽく感じる……。
そうか、むしろ僕は今までずっと脱線し続けていたのだな……。脱線から脱線して、ようやく本線に戻ってきたのか……。
まぁいいや。とりあえず気付けて良かった。ようやく本線に戻ってこれたのだから。このまましっかり本線を進もうじゃないか。頑張ってレベル上げをしよう。
そして、レベルアップを目指すにしても、いろいろと方法が考えられるわけだが――
「やはりここはアルティメット・パワーレベリングですかね」
「ん? 何?」
「アルティメット・パワーレベリングです。高レベル冒険者であるみなさんのお力を借りて、サクッとレベルアップしてしまおうという作戦です」
我らアルティメット・ヘズラトボンバーズのメンバーは、揃いも揃って高レベルだからね。スカーレットさんの勇者式パワーレベリングに、リュミエスさんの魔王式パワーレベリングに、クリスティーナさんの聖盾式パワーレベリングと、パワーレベリングに関しては事欠かないメンバーが揃っておる。
まぁジスレアさんの場合は普段からちょこちょこ訓練に付き合ってもらっていて、免疫もできているはずで、聖女式パワーレベリングだけは起こらないと予想されるのが少し残念だが――
「――うん、任せてほしい。私も協力は惜しまない」
「…………」
聖女式パワーレベリングは起こらないのだけど……。
いやでも、せっかく協力すると言ってくれたのに、それを断るのも申し訳なくて……。
「……ええはい、ありがとうございます」
「ビシビシいく」
「え、それは……」
「『カーッ』」
「…………」
気合いの表れを、ビブラスラップを用いて表現してきた……。
ちょっと怖いな……。普段から妙にスパルタ訓練なのに、その上さらにビシビシ来るのか……。
「――とはいえ、アルティメット・パワーレベリングはどうなのでしょう?」
「え?」
「もはや切り札と言ってもいいアルティメット・パワーレベリングです。ここでそのカードを切ってしまうのは、少しもったいない気もしますよね」
「そう? まぁそうなのかな……?」
ちょっと日和ってしまい、別の方法を取りたくなってきた僕がいたりして……。
でも他の方法ってのもなー。この町だと、使える手段が限られてるよねー。
「ここがメイユ村なら、ダンジョンに籠もるって方法も使えたんですけどねぇ」
なんならそれが恒例だった。ルーレット前のレベル上げと言えば、ダンジョンマラソンが恒例行事だった。
しかしここはラフトの町であり、残念ながらその方法は――
「ん、ダンジョンに行く?」
「はい?」
「この町にもダンジョンはある。そこへ行く?」
「…………」
あー、そっか。そうなんだよね。ダンジョンあるんだよね。
まだ僕は行ったことがないんだけど、この町にもダンジョンが……。
「あんまり気が進まない?」
「あ、いや、別にそんなことは……」
「なんだかアレクは、この町のダンジョンを避けている印象を受ける」
「…………」
「もしかして、何か理由がある?」
理由か……。うん、まぁなくはない。
お察しの通り、実はこの町のダンジョンを避けていて、避けていた理由もある。
その理由とは――
next chapter:アレクがラフトの町のダンジョンに行きたがらない理由とは……!




