第670話 ギルドポイント不正受給作戦――第五弾『指名依頼』
――宿の音楽室にて。
「というわけでスカーレットさん、第五弾なのですが」
「んー?」
「良いアイデアが浮かびまして、できたらスカーレットさんに意見を伺いたいなと――」
「んー」
「意見を……」
「んーんー」
「…………」
あんまちゃんと聞いてねぇな……。
不正受給作戦の第五弾について相談しようと思ったのだけど、スカーレットさんはギターに夢中である。それほどまでに熱中してくれているのは、作った側として嬉しいことではあるが……。
「…………」
「あ、聞いてくれますかリュミエスさん」
どうしたものかと考えていると、リュミエスさんがスッと近くに寄ってきてくれた。話を聞いてくれるらしい。
「実はですね、ギルドポイントを獲得するための新たな作戦として、指名依頼に目を付けたのです」
「…………」
「と言っても、僕が指名するのではなく――僕は指名してもらう側」
「…………」
「誰かに指名依頼を出してもらって、それを達成してギルドポイントを獲得しようという作戦なのです!」
ばばーん。
……てな感じで、大袈裟な身振り手振りを交えながら大まかな作戦概要を発表したのだが、いかんせんリュミエスさんのリアクションは薄いため、どう受け取ったのかいまいちわからない。
「えぇと、ちなみにリュミエスさんはどうですか? 何か僕に依頼したいこととかありますか?」
「…………」
「あ、もちろん依頼料はこちらでご用意いたします」
こっちがお願いしている立場なのでね、依頼料も僕が持とうじゃないか。
このあたりが、不正受給作戦の不正受給作戦たる所以かもしれない。出来レースというか、裏取引というか、ヤラセというか。
「そういうわけで、何かないですかね。なんでもいいですよ?」
「…………」
試しに尋ねてみたところ、リュミエスさんは無言でこちらを見つめるのみであった。
うむ。もうちょい待ってみよう。考えている最中かもしれん。リュミエスさんとのコミュニケーションで大事なのは、焦らないこと。
「…………」
「ふむ?」
しばしの時が流れた後――おもむろにリュミエスさんが自分の腕をさすり始めた。
えっと、どうしたのかな? ……寒いのかな?
違う? そういうわけではない? なんだろうね。あるいは体を洗っているときのような仕草で――
「あ、もしかしてリュミエスさん磨きですか? カーク村でやったような?」
「…………」
「あってます?」
「…………」
あってたっぽい。わからんが、たぶんあってる。
ほー。そうなのか。タワシを使ってのリュミエスさん磨きが再びリクエストされたか。というか、本人的にはあれって良かったのだね。今さらながらそれがわかって、少しホッとしたりして。
「じゃあまたやりますか。では、その前に依頼の手続きをしてから――」
あ、でもどうなんだろう……。ギルドで依頼するんだよね? 『私の全身を隅々まで磨いてほしい』などという指名依頼をギルドで出してもらって、それを僕が受注して……。
「リュミエスさん磨き自体は問題ないのですが、それを依頼してもらうことには問題が……。なんならリュミエスさんにも迷惑が掛かってしまいそうなので、ひとまず依頼はやめておいた方が……」
「…………?」
うん。やっぱりやめておこう。おそらくこの町の人からすると、リュミエスさんといえば黒いドレスの美女というイメージで定着していると思われる。そんな中でこの案件は、何やらとてもいかがわしい依頼だと勘違いされてしまう可能性が高い。そしていかがわしい依頼を、喜び勇んで受注する僕だと思われてしまう可能性も高い。さすがにそれは僕としても不本意。
「でも、そういう感じですよね。とりあえずそういう感じの依頼を求めています。他にはないですか?」
「…………」
再びの依頼募集に対して、再びの無言。
うむ。再び待とうではないか。
そうして、しばらくすると――
「…………」
「ふむ? 肩ですか? 肩がどうかしましたか?」
リュミエスさんが、自分の肩を軽く揉んだり叩いたりしている。
それはいったい――いや、待て。どうやらまだ続きがあるようだ。
「…………」
「うん? なんですか? 手で四角を作って……」
両手で四角を描くような仕草で……。はて、いったい何を意味しているのか。お弁当箱を表現しているのか。あるいはVARを確認するつもりなのか。
というか、さっきからこのジェスチャーゲームはなんなのだろうか。
「えぇと? 紙? 紙ですか? ふむ。券?」
「…………」
「肩と券で…………肩たたき券?」
「…………」
あってたっぽい。どうやらリュミエスさんは、肩たたき券をご所望のようだ。
いやしかし、肩たたき券とは……。それはどうなのだろう。とりあえず肩たたき券のイメージと言えば、子どもが親にプレゼントするような物で、あんまりギルドの指名依頼で希望する物ではないようにも感じるが……。
まぁリュミエスさんからすると、僕の話した『リュミエスさん磨きのような依頼』という言葉を守ってくれたのだろう。お身体を洗わせていただいたり、肩を揉ませていただいたり、なんとなく系統は一緒な気がする。
「んー、そうですね。ひとまずリュミエスさんには肩たたき券をプレゼントさせていただこうと思います。リュミエスさんにはお世話になっているので、これくらいお安い御用です」
とりあえず贈ろう。ニスを用いて、無駄に豪華な肩たたき券を作ってプレゼントしよう。
それにしても、この世界にも肩たたき券があるとは知らなかった。故郷に帰ったら、父と母にもプレゼントしてみようか。なんか喜んでもらえそう。なんなら父とか感動してむせび泣く姿まで想像できる。
「とはいえ、それはあまりにもお安い御用すぎて、できたらもうちょっと難易度高めの依頼を希望したいところなのですが」
てな感じで、再び依頼を募集して……いやでも、こんなふうに募集し続けて大丈夫なんだろうか。
このままだと、ただただリュミエスさんの要求を無限に叶え続けることになりそうなんだけど……。
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