第660話 木工シリーズ第58弾『ベース』
※「第660話 木工シリーズ第132弾『ベース』」の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございませんでした。
原初のアレクブラシでは、ギルドポイントを獲得することはできなかった……。
1ポイントも……。たった1ポイントすら獲得することができなかった……。
ショックだ。単純にポイントを貰えなかったこともショックだし、何気に原初のアレクブラシがチートではないと証明されてしまったような気もして、そのショックもすごい。
「……でもまぁ、よくよく考えると仕方がないことなのかもね」
以前にヒゲの受付さんからも、『おそらくギルドポイントとは、冒険者としての活動を評価するポイントなんだ』って話を聞いた記憶がある。『薬草を納品して1ポイントというより、薬草を採取した行動に1ポイント与えられる』とかなんとか。
その観点から考えると、確かにこの結果も納得できる。
原初のアレクブラシ獲得に関して、冒険者的な要素は皆無であった。転生時のサービスで貰った物だし、そもそもそれって転生前のことだったし。
「だからまぁ仕方がない。今回の0ポイントは仕方がないことで――むしろポジティブに考えようじゃないか。ポイントを貰えなかったのは残念だけど、別の可能性が残った。原初のアレクブラシがチートである可能性は、まだまだ残されているということだ」
というわけで、切り替えていこう。
切り替えて、また新たな不正受給作戦を模索していこうではないか。
「ふむ。どうかしたのかアレク君。いつものように、何やら独り言をつぶやいているみたいだが」
「え? あ、すみませんスカーレットさん」
そうか、つい口に出していたか……。一部屋に五人が生活している空間で独り言などという、もはやどうやっても独り言にはなりえない独り言を呟いていたか……。
「なんというか、ちょっと前回の振り返りをしていました」
「前回の振り返り……?」
前回の不正受給作戦を振り返って、傾向と対策を練っていたところなのですよ。
「――それはそうと、ついに完成しましたよスカーレットさん」
「おぉ、出来たかアレク君」
「今度こそは、スカーレットさんに気に入っていただける物だと信じております」
ここ最近は、不正受給作戦の次なる一手を考えながらのんびりと木工作業に勤しんできた僕である。
少し前にスカーレットさんのセカンドライフについて考える機会があったと思うが、スカーレットさんの趣味になりそうな道具を作っていたのだ。
そして、今回作ったのが――
「ベースです。ベースという楽器です」
というわけで、やはり音楽を始めてみてはどうかという僕の提案。
スカーレットさんからは、『恋愛ソングを歌うのはちょっと……』てなことを言われてしまったが、別に無理して恋愛ソングを歌う必要はない。普通に曲を弾くだけでも楽しいし、歌うにしても恋愛要素のない曲を探して歌えばいい。
現に僕はそうしている。スカーレットさんに指摘されて以降、僕も恋愛ソングを歌うのが恥ずかしくなってしまったのだ。
「ふむ。ベースか」
「もう少し正確に言うと、アコースティックベースですね」
「アコースティックベース?」
「アコベです」
「アコベ……」
アコベである。正直ベースに関してはそこまで詳しくないのだが、とりあえずアコベって響きは好きだったりする。なんか可愛いよね、アコベ。
「ふむふむ。形状としてはアレク君のギターと似ているね」
「そうですね。違う部分で言うと、やはり弦でしょうか」
「ほう。糸に違いが?」
「ええはい、弦の数に注目してみてください」
「えぇと、糸は四本かな」
「そうなんですよ。ギターは弦が六本ですが、ベースは弦が四本です」
「そうか。ベースは糸の数が少ないのか」
弦だっつっとろーに。
……いや、別にいいんだけどさ。
「ギターが六本で、ベースが四本。ここだけ見ると、ベースの方が簡単そうに見えるけど」
「ふふふ。気持ちはわかります。ついついそう考えてしまいますよね」
「む。ということは、実際にはそうではないのかな?」
「…………」
……どうなんだろう。『ところがどっこい、ベースというものは奥が深いのですよ』的なことを言おうと思ったのだけど、演奏自体の難易度としては、やっぱりベースの方が簡単なのかな?
「まぁなんだかんだどっちも奥が深い楽器で、どっちも極めるまでには長い道のりが待っているようですが」
「なるほどなぁ」
「そんなわけで、今回スカーレットさんにおすすめしたいのがベース――木工シリーズ第58弾『ベース』なのであります」
「……うん? 第58弾?」
「ええはい、そうですけど?」
「第132弾では?」
「はい?」
第132弾……? なんのことだろう。元々ベースは第58弾だった。第132弾にする予定もなかったし、都合により予定を変更した事実もなかった。
「この前に作っていた楽器が、第131弾だったと思う」
「ああ、第131弾というと……」
「『カーッ』ってやつ」
「『カーッ』ってやつですか」
「叩くと、『カーッ』って鳴るやつ」
「ええまぁ、ビブラスラップって名前なんですけどね」
まぁスカーレットさんの説明も、端的でとてもわかりやすい説明な気がしないでもない。
もうちょっと詳しく形状を説明すると、二重L字形の太い針金の先に、重りと音の鳴る小さな木箱が繋がっていて、重りの部分を叩くと木箱から『カーッ』という音が鳴る打楽器である。
「そうそう。あんな物を渡されて、趣味にしたらどうかと言われたときには、本当にどうしたものかと……」
「あれはあれで作るの大変だったんですけどね……」
メインとなるパーツは針金で、あんまり木工って感じでもなかったしさ……。専門外だったわりには、そこそこ良い音が鳴るように作れたと思うんだ。
残念ながらスカーレットさんにはお気に召していただけなかったようだけど、とりあえず作っておいて損はなかったと思う。
もしかしたら、左腕に移植することでラスボス戦とかで役に立つ日が来るかもしれない。
next chapter:木工シリーズ第132弾『防音室』




