第657話 顔出しヘズラト君パネル、設置秘話
というわけで、検問近くの顔出しヘズラト君パネルをぼんやり眺めていた僕とヘズラト君とリュミエスさんとクリスティーナさんであったが――
「ちなみにですが、なんだかんだで一番良いのはヘズラト君の写し画だったりします」
「うん? どういうことだ?」
今もいろんな人がパネルから顔を出して写し画を撮影しているが、やはり一番はヘズラト君だろう。みんなヘズラト君の写し画には敵わないはずだ。
そんな僕の言葉を聞き、ヘズラト君は自分のマジックバッグからギルドカードを取り出し、クリスティーナさんに提示した。
「キー……」
「ふふ」
ちょっと受けた。
うん、良いよね。顔出しヘズラト君パネルから顔を出したヘズラト君。なんかシュールで、なんか面白くて、なんか可愛らしい。
「ところでクリスティーナさんはどうです? とりあえずクリスティーナさんもヘズラト君になりきって、写し画に残しておきませんか?」
「は? アタシ? いや、アタシはいいよ……。そんな柄じゃねぇし……」
「そうですか?」
ふむ。案外こういう可愛い系のやつとか好きそうなイメージなんだけど……。
――いや、ある意味イメージ通りかもしれん。本当は好きだけど、『柄じゃないし』と遠慮しそうなイメージ。
「では行きましょうか。最後尾はあそこですかね。さぁさぁ並びましょう」
「え? おい、話聞いてたか? アタシはそんなの柄じゃないって……」
「まぁまぁ」
「えー……?」
てな感じで、ちょっと強引に背中を押して顔出しヘズラト君パネルまで誘導することにした。
クリスティーナさんも言葉ではこう言っているけど、実際にはそこまで拒んでこないあたり、やはりイメージ通りだったのだろう。
◇
「やっぱり設置して良かったですね。クリスティーナさんも楽しそうでしたし、みんなも楽しそうです」
「そうだなぁ……。まぁアタシは柄じゃないけど」
まだ言うかクリスティーナさん。楽しげに撮影していたじゃないか。
「でも、よく許してもらえたな」
「はい? 何がですか?」
「検問のすぐ近くにこんなパネルを置くとか、普通断られそうなもんだろ? よく許可がもらえたな」
「あ、それは……」
「うん?」
「……無許可で勝手にやりました」
「…………」
なんというか、最終的には無許可でこっそり決行した形になっちゃったかな……。
最初はちゃんと許可をもらって設置しようって話にもなったんだけどね。スカーレットさんと相談して、倫理観がどうのって話にもなって、それから『このパネルのことをどう説明するか』、『そもそも誰から許可をもらえばいいのか』、『許可がもらえなかったらどうするか』といったことを、二人でいろいろ相談して……。
そのうちに、なんとなく――
『別に検問で悪さをするわけでもないし、近くにパネルを設置するくらいよいのでは……? 許可とか必要なのかな……』
――みたいな流れになってしまったのだ。
いやはや、倫理観とはなんだったのか。僕も僕だし、スカーレットさんもスカーレットさんだ。僕に懇々と倫理観を説いてきたスカーレットさんであったが、おそらくスカーレットさんもそこまで立派な倫理観は持ち合わせていなかったのではなかろうか。
「まぁいろいろとありまして、とりあえずこっそり置いてこようかなって」
「無茶するなぁ……。下手したら逮捕されるぞ……?」
「ええまぁ……逮捕されたんですけどね」
「…………」
クリスティーナさん絶句である。うん、この話を聞いた人は大抵絶句してた。……例外はナナさんだけかな。Dメール越しだけど、ナナさんだけは草を生やしていた。
「本当に逮捕かよ……。大丈夫なのか……?」
「んー、詳しく説明しますと、まず僕とスカーレットさんで事前準備をしていたんですよね。パネルをどこに設置するか、検問の人に見つからずに設置できるのか、ひとまず現地で確認することにしたんです」
「まるっきり犯罪者の行動だな……。犯行前に下見をしてやがる……」
言い方悪いな……。確かにその通りなのかもしれないけどさ……。
「それで、ある程度場所も決めたのですが――いざ設置するにあたり、ひとつ問題があることに気付きました」
「問題?」
「ただ単にパネルを置いただけでは、何かの拍子に動いてしまう恐れがあります。風とかで飛ばされてしまうかもしれませんし、もしかしたら誰かが持っていってしまうかもしれません。そんな不届き者がいる可能性もなくはないです」
「不届き者っていうか……。町への届けを出していないのはアレク達だけどな……」
なんか上手いこと言いよる。
「それで――とりあえず地面に支柱となる杭を打ち込むことにしました」
「杭を……」
「その作業中、門番のケイトさんに見つかり御用となりました」
「…………」
いやー、うっかりだね。一応は僕達も『検問の近くに謎のパネルを設置したら逮捕されるかもしれない』という考えは頭にあったのだけど、そのことだけに執着しすぎて『検問の近くに謎の杭を打ち込んでいたら逮捕されるのでは?』という考えがすっぽり抜け落ちていた。
「とはいえ、それでいきなり牢屋にぶち込まれたわけではなく、そこから事情聴取的なものが始まりました」
「あー、まぁそうだよな……。いきなり検問近くで杭を打ってる奴がいたら、とりあえず何をしているのか聞き出すよな……」
「ケイトさんに厳しく追求されて、洗いざらい白状させられて――そこからはもう平謝りですね。とにかく謝って、悪気はなかったことを伝えて、なんなら町の名物になるはずだと必死にアピールして、だから置かせてくれないかと懇願して――」
「謝りつつも頼み込んでんのか……。図太い二人だな……」
今さらだけど、やっぱり最初に真っ当な手段で設置の申請をすればよかったねぇ。謝りつつも申請をすることになってしまい、どう考えても要求の難易度が上がってしまった。
「その後で、町のえらい人とも会談が行われたそうですね。僕は行かなかったですけど、スカーレットさんとリュミエスさんが行ってくれました」
「ふーん? その二人なんだな」
なんかスカーレットさんが張り切ってくれて……。なのでまぁ、結局は勇者の威光をちらつかせることになってしまったわけだ。しかも勇者の威光だけではなく、魔王の威光までも……。
「そして会談の結果、無事に許可をいただくことができて、こうして設置されることになったのです」
「なるほどなぁ……」
「今回の件では、もう反省しかすることがないですね。結果だけは良かった気もしますが、そこまでの過程は間違いばっかりだった気がします」
「おぉ、さすがのアレクも反省したか……」
「それはそうですとも」
さすがの僕も反省だ。さすがの僕も悔い改めた。やはりルールはしっかり守らなければいかん。たとえみんなに喜ばれる正しい行いでも、ルールに反すれば不正行為になってしまう。
これからは法に従って、清く正しく生きていこう。不正だけはいかんと、そう心に固く誓った僕なのであった。
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