第656話 新メンバー、お披露目
「さてさて、着きましたね」
「…………」
「キー」
――冒険者ギルドにやってきた。
今日のメンバーは、僕とリュミエスさんとヘズラト君の三人。基本的に喋らないリュミエスさんと、『キー』という言葉しか喋らないヘズラト君ということで、傍から見ると僕がひたすら独り言を呟いているだけにも見えてしまうメンバー構成だったりもするのだけれど――それはさておき、冒険者ギルドに到着した。
そうしてギルドの扉を開けて中へ入り、ギルド内を見回していると――発見。
クリスティーナさんを発見したので、近くまで移動して挨拶を交わした。
「こんにちはー」
「…………」
「キー」
というわけで、これまた僕以外は少し内容がわかりづらいセリフとなっているが、まぁ三人とも『こんにちはー』という同じ意味のセリフだったのだろう。
「おう、今日は三人なんだな」
「ええはい、今日は冒険者活動のために外へ出る予定なのですが、同行してくれる人を募ったところ、リュミエスさんとヘズラト君が付いてきてくれました」
こういう募集を掛けると、かなりの高確率で付いてきてくれるリュミエスさんだったりする。
そしてヘズラト君も、ほぼ確実に付いてきてくれる。なんなら付いてきてくれなかったことがないくらい付いてきてくれる。
ふむ。そう考えると、ヘズラト君に申し訳ない気にもなってくるな。いつもいつも僕の都合に振り回されていることになるわけで……。
「いつもヘズラト君には迷惑を掛けてしまっているねぇ……」
「キー? キー」
「おぉ……。ありがとう。ありがとうヘズラト君!」
「キー」
僕の唐突なフリに対しても、なんていじらしいことを言ってくれるのだヘズラト君よ。
僕はいじらしいヘズラト君と熱い抱擁を交わしてから、とりあえずほっぺたあたりをいじいじしてみた。
「――というわけで、とてもいじらしくて健気なヘズラト君と、レベル差がある僕にも付き合ってくれる心優しいリュミエスさんです」
「お、おう。そうか……」
ヘズラト君への感謝を捧げている最中、なんだかリュミエスさんから視線を感じた気がしたので、念のためリュミエスさんにも感謝を捧げておいた。
「それでですね、できたらクリスティーナさんにもご一緒していただきたい気持ちがあるのですが……」
「ん? いいぞ別に」
「ありがとうございます。……ですが、今日は薬草採取の予定はないのですよね」
今日はスカーレットさんがいないので……。なんかスカーレットさんも、僕がいないときは技術に差が付かないよう薬草採取を自粛してくれたみたいだし、一応は僕もそれに倣っておこうかなって。
「別に薬草採取じゃなくてもいいけどな……」
「そうですか? 普通の狩りでもいいですか? 僕のレベルに合わせた狩りになってしまうので、心苦しく思っていたのです。これが薬草採取なら、気軽に誘えるのですが」
「よくわかんねぇな……。なんで難易度が低い狩りには誘いづらくて、薬草採取なら気兼ねなく誘えるんだよ……」
「それはまぁ、クリスティーナさんといえば薬草採取の人ですから」
「違ぇよ……」
またまたご謙遜を。
さておき、とりあえずクリスティーナさんも問題ないということであれば、四人で狩りに向かうとしよう。アルティメット・ヘズラトボンバーズ出陣である。
「――あ、そういえば聞きましたよ?」
「あん? 何をだ?」
「なんでもクリスティーナさんは――正式にアルティメット・ヘズラトボンバーズに加入してくださったそうじゃないですか」
「あー……」
そんな話をスカーレットさんから聞いたのだ。非常に重要なことなので、ここでしっかり本人からも確認をとっておきたい。
「なんつーか……アタシとスカーレットとリュミエスでしばらくパーティを組んでただろ? そのときに、せっかくならパーティ登録した方がギルドポイント的にも得だろうって話になって、じゃあ登録だけでもしとくかって……」
「ほうほう。なるほどなるほど」
そんな流れで説得したのですね。いやはや、素晴らしい働きですスカーレットさん。
「いやぁ、嬉しいですね。とても嬉しい」
「おー、そっか」
「僕も度々誘ってはいたのですが、どうにもこうにもクリスティーナさんは照れてしまい、パーティ加入はしてくれなかったのですよね。きっとクリスティーナさんも誘われて嬉しいはずで、まんざらでもないはずで、でも勇気が出なくて……。そんなクリスティーナさんも勇者スカーレットさんに触発されたのか、勇気をもって一歩前へ歩き出せたことが、僕は何より嬉しいです。あのシャイで引っ込み思案なクリスティーナさんが、ようやく――」
「おら」
「むー、むー」
◇
なんやかんやありつつ、新メンバー加入が発表された我らアルティメット・ヘズラトボンバーズ一行はギルドを出発し、検問まで移動した。
すると、検問から少し離れた場所にて――
「おー、賑わってますねぇ」
人だかりを発見。大盛況である。良きかな良きかな。
「なんだあれ……」
「おや、見るのは初めてですか?」
「アレクは知ってるのか……?」
「それはそうですよ。なにせ僕が作ったものですからね。何を隠そう、あれこそが――顔出しヘズラト君パネルです!」
とりあえず胸を張って自信満々に紹介してみた。
そして僕の隣では、ヘズラト君が恥ずかしそうに縮こまっていた。
「顔出しヘズラト君パネル……。ああ、そうだな、確かにヘズラトっぽいな……」
「パネルの穴から顔を出すと、誰でもヘズラト君になれるパネルなのです」
「そうか……。それはまた、そうか……」
まだ微妙に理解が追いついていないのか、困惑している様子のクリスティーナさんである。
「とりあえず人気はすげーな……」
「そうですねぇ。大盛況で、順番待ちの列もすごいです」
大勢の人達が、楽しげにヘズラト君になりきっている様子が確認できる。町の人達にもすっかり受け入れられたようだ。これはもう大盛況で大成功だね。
「でもあれは何をしてんだ? みんなギルドカードを持ってるのか?」
「そうです。顔を出した状態でギルドカードの更新をすると――こんな感じに写るのですよ」
僕は自分のギルドカードを取り出し、クリスティーナさんに提示した。そのギルドカードには、ニスで目線だけは隠しつつも満面の笑みでヘズラト君になりきる僕の姿が。
「はー、すげぇな。面白いこと考えるなぁアレク……」
「いえいえ」
まぁ顔出しパネル自体は僕が考えたものではないので、そう褒められると恐縮してしまうのですが。
「最初は顔出しセルジャンパネルにしようと思ったんですけどねぇ」
「うん? セルジャン?」
「僕の父です」
「……うん?」
これまた理解が追いつかないようで、困惑している様子のクリスティーナさんである。
「えっと、アレクの父親? それは、人なんだよな?」
「まぁ人ですね」
「ただの人なんだろ?」
「まぁただの人ですね」
いや、でも一応は森の勇者様で、強くて格好良いイケメンエルフではあるのですけどね?
……そりゃあ顔出しパネルになったら、そのイケメン要素もくり抜かれてしまうわけですけども。
「アレクが何を考えて父親をパネルにしようとしたかは知らねぇけど、とりあえずヘズラトで良かったんじゃねぇか……?」
「そうですかねぇ……」
ふーむ……。もしもヘズラト君じゃなくて父だった場合、今みたいに町のみんなに心から楽しんでもらえたかというと、確かにちょっと自信はないかもなぁ……。
「やっぱり父もこの町じゃあ知名度がないですからね。格好も普通の村人ですし、それじゃあ人気が出るかは怪しくて…………おや?」
「ん? どうかしたか?」
「でも逆に言うと、知名度があって、格好に特徴があれば……?」
そう言って、ちらりとクリスティーナさんに視線を移す。
「なんだよ……?」
知名度はあるだろう。この町が誇る一番の冒険者で、『聖盾』の称号を有する凄腕の戦士である。
顔出しパネルゆえ、美しい顔は見えなくなってしまうけど、盾を持ってもらえば顔出しパネルでも特徴は出せるはずで……。
「……なるほど」
「おい……。なんかやべーこと考えてねぇか……?」
僕の思わせぶりなアクションと呟きを聞き、クリスティーナさんは不安そうな表情を見せ始めた。
察しが良いなクリスティーナさん……。少し前に、似たような流れから顔出しヘズラト君パネルが作られたわけだが、そのときにその流れを察したヘズラト君同様、クリスティーナさんも察しが良いようである……。
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