第655話 顔出しヘズラト君パネル
ヘズラト君の進言により、検問の真横に顔出しセルジャンパネルを設置する計画は一旦中止となった。
非常に残念ではあるが、きっとこれで正解なのだろう。なにせヘズラト君の判断だ。ヘズラト君の判断に間違いはないはず。
そして計画の中止を受けて、次に僕が何を考えたかというと――
「顔出しヘズラト君パネル!」
「キー……」
これである。父がダメならヘズラト君だ。ヘズラト君のパネルを作ってみようではないか。
というわけで、買ってきた板をヘズラト君の形に切っていき、『ニス塗布』能力によりヘズラト君の姿を描いていく。そうしてあっという間に――
「うんうん、良い出来だ」
「キー……」
とても愛らしいパネルが完成した。ヘズラト君の魅力が存分に詰まったパネルだ。
きっとこれなら町のみんなも喜んでくれるに違いない。設置も許可してもらえるに違いない。
「どうかな? ヘズラト君はどう思う?」
「キー……」
「ふむふむ。それは何より」
ヘズラト君も、『良い出来だと思います』と太鼓判を押してくれた。
まぁ、それにしては声に元気がないようにも感じられるけど……。やっぱり自分のパネルが検問の真横に置かれることを想像すると、それなりに戸惑いとか躊躇いとかがあるのかもしれないね……。
でもさ、おそらくヘズラト君のためにもなると思うんだ。以前にも似たようなことをやっていたでしょ? いわゆる――ヘズラト君の知名度アップキャンペーンってやつ。
一応はモンスターであるヘズラト君が町の人に怖がられないよう、スカーレットさんを背中に乗せた状態で、しばらく町を練り歩いてもらったことがある。今回はそのキャンペーンのさらに進化系だ。このパネルならば知名度どころではなく――好感度。ヘズラト君の好感度アップキャンペーンになってくれるはず。きっとそのはず。きっと今よりもっとヘズラト君が愛されるようになるはず!
とかなんとか理由を付けて、ヘズラト君に苦労をかけている実情を誤魔化していると――
「おぉ!? なんだこれは!」
「あ、スカーレットさん」
庭で何か作業をしていることに気付いたのだろう。スカーレットさんも庭に出てきた。そして顔出しヘズラト君パネルを見て、大層驚いた声を上げている。
「ヘズラト君!? ヘズラト君がパネルに!?」
「キー……」
何やら大はしゃぎである。そういえば、こういうニスで作ったパネルは見せたことがなかったっけか。
「どうですか? かなり良い出来なのではないかと――」
「私は!?」
「はい?」
「私のパネルは作らないのかアレク君!」
「はぁ……」
いきなりスカーレットパネルの製作を要求されてしまった……。
まぁ自分のパネルも欲しくなるくらいにヘズラト君パネルの出来が良かったということなのだろう。とりあえずそう解釈しておこう……。
「んー、このパネルは比較的簡単に作れるので、ご希望とあれば用意しますが」
「おぉ、そうなのか。じゃあ是非私のパネルも――え? 何をしているんだアレク君」
「あ、はい。ちょっと待ってください。これから最後の仕上げです」
スカーレットさんにそう答えた後、僕はナイフを逆手に構えて――パネルに突き刺した。
そして、ギコギコと顔の部分を切り裂いていく。
「…………」
「これで顔をくり抜いたら完成です。これが終わったらスカーレットさんのパネルも――」
「いや、やっぱり私はいいかな……」
「あれ?」
ふむ。なんかとんでもなく猟奇的な人物に思われてしまった節があるな……。
◇
「へー、なるほどなぁ。ここから顔を出すのか。……確かにアレク君のギルドカードも、こんな感じでセルジャンの輪郭が写っていたな」
顔出しヘズラト君パネルが完成したところで、あらためてパネルの主旨をスカーレットさんに説明させてもらった。どうにかこうにか誤解を解こうと、僕も頑張って説明した。
そうしたところ、スカーレットさんも是非やってみたいとのことで、実際にパネルから顔を出していただいた。
「良い感じですね。サイズもばっちりです」
「キー……」
やっぱりサイズ感なのよ。サイズが重要。パネルの輪郭と、パネルから出した顔がちょうどいいバランスになるようサイズを調整したいのよ。
今回はバッチリだね。とても良いバランスで、程よくシュールな感じになっている。
「そしてカードか。ではギルドカードを――更新!」
せっかくなのでスカーレットさんには自分のカードを部屋から持ってきてもらい、実際にカード更新までやってもらうことにしたのだ。
「どうですか?」
「ちょっと待ってくれ。顔を出したままだと、カードの確認も一苦労だ」
それは一度パネルから顔を抜けばいいだけでは……?
「どれどれ……おぉ! しっかりヘズラト君も写っているね。成功だよアレク君!」
「おー、そうですかそうですか、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「いいとも……いくない!」
「え?」
スカーレットさんはこちらへカードを提示しかけて――その寸前に何かを思い出したようにカードをしまい込んだ。いったい何が……。
……あ、そうか、年齢か。
そういえばギルドカードには年齢欄があったな。それを見せまいとしたのか……。
「油断も隙もないなアレク君!」
「いえ、決してそんなつもりは……」
そんなつもりはなかったのだけど……でもまぁ、気になるといえば気になる部分ではあった。ちょっと見たかった自分もいたりして。
「さておき、面白いね。面白いアイデアだ」
「気に入っていただけたようで何よりです」
「それで、これを検問の真横に置くつもりなのか」
「そのつもりです」
「うーむ。さすがだなぁアレク君。いったい検問をなんだと思っているのか」
「……あれ?」
なんかサラッと苦言を呈された……。大きなシマリスの顔出しパネルから顔を出している人に、もっともな注意を受けてしまった……。
「まぁ確かにこのパネルがあったらみんな喜ぶと思うけどね」
「お、そうですよね? 特に小さい子供とかは喜んでくれると思うんです」
特に子供だ。子供は喜ぶ。子供は喜んでくれるはず。子供が喜んでくれるという事象を免罪符に、計画の正当性を主張していきたい。
「……とはいえ、確かにスカーレットさんの言う通りです。なにせ検問ですからね。設置の許可が降りるかはわかりません。普通に怒られてしまうかもしれません」
「それはそうだろうね」
「なので――こっそり置いてこようかと」
「なるほど、こっそり――え?」
いろいろと悩んだのだけど、やっぱりそうしようかなって……。結局犯人は僕だとバレてしまう気もするけど、証拠さえ残さなければ、知らんぷりできるかなって……。
「そうか、さすがだな……。返す返すも、さすがはアレク君だ……」
「ええまぁ……」
うん、あんまり褒められていないのは、さすがの僕でもわかるとも……。
「んー、それなら私が協力しようか?」
「はい? と言いますと?」
「町の人に掛け合ってみよう。私が頼めばなんとかなるんじゃないかな? つまりはアレだよアレク君。――勇者の威光だ」
「おぉ……」
あったなぁそんなワード……。なんだか懐かしいね。町への入場を許可してもらうため、勇者様の威光に頼ろうとしたんだっけか。
「いやでも、そこでスカーレットさんを頼るのはどうなんですかね……」
「うん? 何か問題が?」
「えぇと……町へ入るときは、もう本当にどうしようもなくてスカーレットさんを頼らせていただきました。しかし今回はそこまで緊迫した事態というわけではないですし、こんなことで勇者様の威光を笠に着て、無理やり押し通すのはどうなのでしょう……」
ふと振り返って考えてみると、そう簡単に使っちゃダメなものだよね、勇者の威光って。
……まぁさらに振り返ると、町への入場以外でも結構頻繁に頼っていた気もするけれど、やっぱりそれはあんまり良いことではないと思う。
「スカーレットさんのご厚意は本当にありがたいのですが……。なんというか、僕の倫理観から言うと、それはちょっと違うんじゃないかなって……」
「倫理観?」
「倫理観です」
「そうか、それで勇者に頼んで許可を貰うのは気が引けると……。そこは倫理観が許さなくて――だから無許可で勝手に設置してくるとか、アレク君の倫理観はどうなっているのか……」
いやまぁ、そう言われちゃうとそうなんだけど……。
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