第653話 久しぶりに草むしり
薬草採取に向けて、僕とスカーレットさんとリュミエスさんとクリスティーナさんの四人は冒険者ギルドを出発し、町の検問へとたどり着いた。
そして、検問にて――
「こんにちはー」
「あら、こんにちは」
久々にケイトさんと再会した。この町に到着して以来なので、一週間ぶりの再会である。
ここ一週間で、ふらっと冒険者ギルドを訪れてはクリスティーナさんと会っていた僕だけど、さすがに用もなくお仕事中のケイトさんを訪ねるわけにはいかない。さすがにそこは自重した。さすがに僕だってそれくらいの分別はありますとも。
「ああ、それとクリスティーナもいるのね」
「よう」
「また一緒に冒険できる仲間と再会できたようで、私も嬉しいわ」
「うるせぇよ」
やはりクリスティーナさんといえばボッチだと……。みんなからそんな扱いを受けているのだなぁ……。
「でも、どうやらヘズラト君はいないみたいだけれど……」
「そうですね。今日はこの四人で活動するつもりです」
「ということは、アレク君が自分の足で歩くの……? 大丈夫かしら……」
やはり僕は遅い子だと……。みんなからそんな扱いを受けているのだなぁ……。
「まぁそこまで遠くへ行くつもりもないので大丈夫です。近場で薬草採取に勤しんでくる予定です」
「そういうことだ。そもそもアレク君の足では、そう遠くへ行くこともできない。安心してくれたまえ」
なんか追加でスカーレットさんからも遅い子扱いを受けてしまった……。
「というか、こんな面子で集まっておきながら、結局やるのは薬草採取なのね……。確かに前もやっていた気がするけれど……。いえ、まぁいいわ。それじゃあ全員ギルドカードの提示をお願いできるかしら」
「はいはい。少々お待ちを――おぉ?」
「どうかした?」
「期限切れですね」
ギルドカードでの検問通過は、カードの更新から一週間以内という決まりである。ちょうど前回から一週間が経ち、有効期限も切れてしまった。
そこに気付いた僕は、ササッとカードを更新して、それからイケメン対策として、『ニス塗布』で顔写真の目線を黒塗りで隠した。これで準備完了だ。これで検問を通過できる。
「ふむ……」
「何?」
「いえ、別になんでもないんですけどね……」
んー、でもなんか寂しいなぁ……。少し前までは、顔出しセルジャンパネルから顔を出して、満面の笑みを浮かべたギルドカードの写真だったはずが、今はなんの変哲もないただの写真になってしまって……。
……いや、まぁなんの変哲もないってことはないか。目線を黒塗りしている時点で、十分おかしな顔写真であることには違いない。
◇
とにもかくにも検問を通過して、薬草採取が始まり――そして薬草採取を終え、検問まで戻ってきた。
「ただいま戻りましたー」
「あら、おかえりなさい」
どうやらまだ勤務時間だったようで、ケイトさんが出迎えてくれた。
「薬草採取はどうだった?」
「あー、そうですねぇ……」
軽い感じで尋ねてきたケイトさんに対し、僕はなんと答えたものか……。
「んー。なんというか薬草って、根の長さで簡単にわかるんですよね」
「ん? ああ、そうね。それで薬草と薬草モドキの区別が付くわね」
薬草は根でわかる。とりあえずそこは覚えていた。薬草採取においてライバル関係である僕とスカーレットさんも、そこだけはしっかり覚えていた。
しかし僕達の記憶は、非常に曖昧であやふやだったことも間違いなくて……。
「危ないところでしたねスカーレットさん……」
「そうだなぁアレク君……」
……なんか真逆で覚えていた。実際には根が短いのが薬草で、根が長いのが薬草モドキなのだけど、僕達二人はまるっきり真逆で覚えていたのだ。
そこでクリスティーナさんからは――
『おい。何やってんだ? 逆だ。根が長いのは薬草モドキだ。なんで二人とも薬草モドキばっかり集めてんだ』
――などと指導を受けてしまった。
さらには、そんな指導を受けたにもかかわらず、僕ときたら――
『ははーん。さてはクリスティーナさん、僕達をテストしているんだな? いやいやクリスティーナさん、そんな引っ掛けには掛かりませんよ?』
――などと考え、僕とスカーレットさんの二人は無意味にクリスティーナさんに抗ったりもした。
その点、リュミエスさんは素直にクリスティーナさんの指示に従っていた。どうやらリュミエスさんも薬草採取の経験はなさそうだったけど、クリスティーナさんの指導をしっかり真面目に聞いて、めきめきと薬草採取技術を伸ばしていった。
もしかしたら今日だけで、リュミエスさんには薬草採取技術で抜かれてしまった可能性も……。
でもまぁ、良かったよね。僕達の失態はともかくとして、薬草採取の指導を通じてクリスティーナさんとリュミエスさんの仲も少し深まった気がするし、やっぱり親睦会として薬草採取は優秀なんじゃないかな。
「なんやかんやありましたが、やっぱり薬草採取は良いなって結論に落ち着きました」
「そうなの……? よくわからないけど、それなら良かったわね……? えぇと、じゃあとりあえずギルドカードの提示をお願いできるかしら」
「ええはい、少々お待ちを」
僕はギルドカードを取り出し、目線が黒塗りなこと以外はなんの変哲もない顔写真を見て、ちょっぴり残念な気持ちになりつつも――
「……あれ? いや、でも待てよ?」
もう一度、ちらりと自分のギルドカードを眺めてから、今度は検問に目を向け、そして再びギルドカードに視線を落とす。
それからしばし考え込んだ後――
「そうか、だとすると、もういっそのこと……」
なるほどなるほど――良い考えかもしれないな。
「どうかした?」
「――伏線です」
「え、何? 伏線……?」
思わせぶりなアクションと呟きで、伏線を張ってみたりした。
「なんというか、良いことを思い付いたのですよ」
「…………」
うんうん。良いことを思い付いたぞ。
良いことを思い付いたと言っているのに――何故そんな顔をするのですかケイトさん。何故そんな訝しげな顔をされなければならないのか。
「……良いことなんですよ? えぇと、まぁ僕が何をするか、今から楽しみにしていてください」
とりあえずそれだけ伝えておくと、ケイトさんからは――
「どうしたらいいのかしら……。今すぐアレク君を拘束して、計画の内容を吐かせた方がいい気がしてきたわ……」
何故なのか……。
……まぁいいや。とりあえず楽しみにしてもらって、それから僕がいったい何をするつもりなのか、僕の伏線とはなんだったのか、いろいろと予想してもらえたら幸いである。
next chapter:検問の真横に、顔出しセルジャンパネルを無許可で勝手に設置して逮捕されるアレク君




