第652話 薬草採取の人
――冒険者ギルドへやってきた。
薬草採取のため、泊まっている宿を出発した僕とスカーレットさんとリュミエスさんの三人だったが、そのまま町の外へ向かうのではなく、ひとまず冒険者ギルドへと足を運ぶことにした。
そうというのも――
「やはりクリスティーナさんです。クリスティーナさんの協力なくして、薬草採取は成し遂げられないと考えております」
なにせ一年十ヶ月ぶりの薬草採取だ。このまま三人で薬草採取に向かっても、悲惨な結果になることは火を見るより明らか。
であればクリスティーナさんだ。再びクリスティーナさんにご指導ご鞭撻のほどをお願いして、ただの草むしりになる未来を回避したいところ。
「ふーむ。そうなのかな?」
「はい? なんですかスカーレットさん」
「たとえ一年十ヶ月ぶりだろうが、私ならばしっかり薬草を探り当てることができると思う」
「…………」
なんという根拠のない自信……。
というかフラグだ。これ以上ないほどのフラグ。このフラグの立てっぷりからすると、延々ただの雑草を引き抜き続け、さらにはタンポポを薬草だと言い出しかねない勢いである。
「とはいえ、クリスティーナを誘うことに異論はない。運良く会えたら引っ張っていこう」
「そうしましょう」
スカーレットさんの名誉を守るためにも、やはりクリスティーナさんの協力は必須だな……。
「そういえばお二人とも、もうクリスティーナさんとは再会したみたいですね。昨日クリスティーナさんから聞きました」
「うん。私達も戻ってきたことだけは伝えておいたけど……アレク君は昨日も?」
「ええまぁ」
ここ一週間ほどは、何もせずにダラダラする生活が続いていたが、ギルドにだけは足繁く通っていた僕だったりする。
と言っても、別に冒険者活動なんて何ひとつしていない。ギルドに寄って、クリスティーナさんがいたら少し話して、話し終わったら帰るだけである。なんだかんだ会いにいくと、クリスティーナさんもちょっと喜んでくれるんだよね。
「さてさて、今日はいらっしゃいますでしょうか」
クリスティーナさんを探して、ひとまずギルドの食堂を見回していると――
……というか、こちらへ向けられている視線が多いな。やたらと目が合う。まぁ勇者様がいて魔王様がいて、目立つメンバーだし注目されるのも仕方がない。
「お、いましたね」
みんながこちらへ視線を向けてくる中、むしろちょっと控えめにチラチラと視線を向けてくるクリスティーナさんを発見した。さっそく合流しよう。
「こんにちはー」
「おうアレク。座るか?」
「ありがとうございます。では失礼して」
軽く挨拶を交わしながら、同じテーブルに付かせてもらう。
「やぁやぁ」
「ああ」
僕に続き、スカーレットさんも挨拶してから席に付いた。
ふむふむ。しばらく一緒に活動していただけあって関係も良好なようだ。気さくに挨拶を交わす二人の様子から、だいぶ打ち解けている雰囲気が伝わってくる。
「…………」
「お、おう……」
……でもリュミエスさんとだけは若干ぎこちないな。別に仲が悪いわけではないのだろうけど、なんかぎこちない。
リュミエスさんは基本的に喋らないし無表情だし、なかなかに難しいよねぇ。会話で困ることが多いとクリスティーナさんも言っていたっけか。
「それで、今日は三人か。どういうメンバーなんだ?」
「ええはい、ようやく僕も長旅の疲れが癒えたところで、冒険者活動を再開しようと思った次第であります。そこでまずは――薬草採取から始めようかなと」
「薬草採取? あー、そういえば前にやってたなぁ……。またやるのか?」
「そのつもりです。そこでクリスティーナさんに薬草採取とはなんたるかを今一度ご教授願えないかと思い、本日はお伺いいたしました」
「なんたるかって言われても……」
「やはり薬草採取と言えばクリスティーナさんですからね」
「そんなことはねぇだろ……」
いやいや、ご謙遜を。薬草採取と言えばクリスティーナさんで、クリスティーナさんといえば薬草採取だ。クリスティーナさんに『聖盾』という格好良い称号がなければ、『薬草採取の人』という称号を贈りたいくらいなのだ。
「まぁいいけどな……。んじゃ行くか?」
「おぉ、ありがとうございます」
よしよし、それじゃあ四人で薬草採取だ。僕達三人に、クリスティーナさんを加えたメンバーで――あれ? いや、むしろ僕か? 僕が加わる形?
「ふむ。御三方はしばらく一緒にパーティを組んでいたわけで、今回はそんな三人パーティに僕がお邪魔する形になるのですね」
「あー、まぁそうなんのかな?」
「僕が加わった結果、挑むのが薬草採取になってしまったわけで、活動のランクがだいぶ下がってしまいましたね……」
たぶん三人のときは、もっともっと高難度のクエストに出発していたのだろう。
なんかすごい素材の回収とか、なんかすごいモンスターを討伐したりとか……。語彙が乏しくて申し訳ないが、なんかもっとすごいことをしていたはずなのだ。それが今回は薬草回収ということで、そこはさすがに申しわけなく思う……。
「まぁ私達が三人パーティを組んでいたときも、薬草採取をしようかという話にはなったんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。せっかくだし、この三人でもやってみようかって」
勇者、魔王、聖盾のパーティで薬草採取をするのか……。
いや、でもなくはないのか? 特にクリスティーナさんとリュミエスさんは初対面ということもあって、三人が親交を深めるための親睦会的な意味で、軽く薬草採取なんかをしてみるのも悪くはないのかも……?
「でも結局実行には至らなかったな。そこで私が薬草採取を始めてしまうと――差が付きすぎてしまうと思ったから」
「はい? 差ですか?」
「薬草採取の腕前だ。私とアレク君で差が付きすぎてしまう」
「はぁ……」
そんなことを考えていたの? というか、そこは別に差が付いてもいいのでは……?
「薬草採取において、私とアレク君はライバル関係にあるだろう? もちろん私もアレク君を倒したいとは思っているけれど、あまりにも実力に差が付きすぎてしまうのも面白くない。そもそもアレク君がいないところで、こっそり実力を付けるのも違うと考えている」
「そうなんですか……」
妙なところでライバル視されていた。しかも正々堂々真っ向勝負で倒したいと思われていた……。
「これ以上差が付いたら、もはや勝負にならなくなってしまうからね」
「…………」
しかも元々の実力も、自分の方が分があるみたいな言い方をする……。
そんなことなかったはずだけどな……。たぶん一年十ヶ月前の時点では、僕の方が腕前は上のはずだと――
まぁそんなふうに張り合っている時点で、やっぱりライバルってことなのかね……。
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