第650話 スカーレットさんのセカンドライフ2
――スカイダイビングとか、ハンググライダーとかどうだろう。
のどかに飴を舐めているリュミエスさんを見て、ふと思った。せっかくリュミエスさんがいるのだし、スカーレットさんにスカイスポーツを勧めてはどうだろう。
まず竜形態に変身したリュミエスさんがスカーレットさんを掴み、そのまま天高く飛翔。十分な高度を得た後に、スカーレットさんを投下。
とりあえずパラシュートだかグライダーだかは僕が『ニス塗布』で適当に作ってみるので、そちらを試してほしい。おそらくこの世界では初となる空のアクティビティである。スカーレットさんには存分に楽しんでいただきたい。
とはいえ、僕もそんな道具を作った経験はないので、パラシュートが上手く開くかちょっぴり自信がなかったりもする。
パラシュートなしのスカイダイビングという、紐なしバンジー以上の大惨事になりかねんけど、きっとスカーレットさんならば無傷で生還できるはずだと――
……いや、さすがに無責任すぎるかな? いくら問題ないといっても、そんな無謀な計画に付き合わせるわけにはいかないか。本当に勧めるのなら、まずは自分自身で体験してからじゃないとダメだと思う。
そして僕は、そんなの絶対に体験したくない。
んー。やっぱりもうちょっとのんびりした趣味の方が良い気がしてきた。だとすると……釣りとかどうだろう。
釣りは僕もよくやっている。旅の途中でも川を見かけたらやっているし、故郷でも村に流れる川や、ダンジョンの湖エリアでもやっていた。ヒカリゴケが唯一光り輝く瞬間なのだ。
もちろんスカーレットさんはヒカリゴケを作ることができなくて、他の餌を用意しなければいけないけれど、まぁそこは大した問題ではないだろう。
適当に石の裏にいる虫を餌にすればいい。なにもスカーレットさんだって、虫も触れない女の子ってわけではないはずだ。
「とりあえず女の子ではない」
「……うん? なんだ? 今何か言ったかアレク君」
「あ、いえ、なんでもないです。とりあえずスカーレットさんにお勧めする趣味としては――」
釣りを――あ、でも違うわ。そもそも今回はインドア系の趣味を勧めるという趣旨だった。
ひとまずアウトドア系を勧めるのはやめておこう。アウトドア系は、インドア系の趣味が軒並み失敗した後で改めて提案してみるとしよう。
……ふむ。なんかもう始まる前から失敗前提で考えてしまっているところに我ながら不安を覚えるが、とりあえず今勧めるのはインドア系だ。インドア系で言うと――
「あ、そうだ。料理とかどうですか?」
「料理?」
「あと、裁縫とか」
「料理と裁縫……? え、何……? そのお嫁さんみたいな趣味は……」
「お嫁さんみたいな趣味……」
いやいやスカーレットさん、今時その考え方はどうなのでしょう。現代の価値観にそぐわないのではないかと――
「まぁ母の趣味なので、確かにお嫁さんの趣味であることは間違いないのですが」
「あぁ、ミリアムか。そういえばそんな趣味があったかな」
「母は料理好きで料理も美味しいですし、お裁縫も得意です。――これもそうですね。これを見てください」
「膝小僧?」
「いえ、そこではなく」
何故今の流れで膝小僧を紹介すると思ったのか。
「膝小僧ではなく、僕のズボンです。このズボンも母お手製です」
「あー、そうか。……うん、そのズボンを見ていると、裁縫が趣味というより、半ズボンが趣味なのではないかと思ってしまうけど」
……まぁその意見もあながち間違いではない。
「んー。でも裁縫かー。やってみたら楽しいのかなぁ」
「どうなのでしょうねぇ」
これまた実際には自分がやったことのない趣味であり、ちょっと勧めづらいとこではある。
「でもまぁ、ちくちくと縫っていくうちに自分が欲しい布製品を自由に作れるというのは、楽しいことなのかと予想しますが」
「そんなもんなのかなぁ……。しかしアレク君。いきなり半ズボンは難しいのではないだろうか」
「はい? 半ズボン?」
「そもそも私は、半ズボンが欲しいとはそこまで願っていなくてだね……」
いや違う。僕が勧めたのは裁縫であり、半ズボン作りを勧めたわけではない。
「というか半ズボン半ズボン言わないでください。なんなのですか。それを言ったらスカーレットさんだってそうじゃないですか」
「うん? 私?」
「スカーレットさんも短パンじゃないですか」
「短パン……。いや、そこはショートパンツと呼んでほしいのだけど……」
同じだ同じ。何気に僕よりも短いではないか。さすがに僕はそこまで太ももを露わにしてはいない。
「そもそも私は女性だからショートパンツは良いと思う。たとえ女の子であろうとも大人の女性であろうとも、女性ならばショートパンツは問題ないはずだ。それに対して、成人男性の半ズボンはさすがにちょっと……」
いやいやスカーレットさん、今時その考え方はどうなのでしょう。現代の価値観にそぐわないのではないかと――
……ちなみに僕としては、スカーレットさんが自分のことを『女の子』に分類したのか『大人の女性』に分類したのかが、ちょっぴり気になってしまったわけだが。
というより、実際の年齢を考えるとそもそも『大人の女性』ってレベルでもなく、そのあたりについても余計な茶々を入れられそうな場面ではあったけれど、普通に殴られそうなのでそこは一応口をつぐんでおいた。
「まぁいいや。それで、ミリアムの趣味が料理と裁縫だとして――じゃあセルジャンはどうなのかな? セルジャンは何か趣味がなかったっけ?」
「父ですか? ふむ。父の趣味というと……」
なんだろうね? やはり父で思い浮かぶのは、いろんなセルジャンシリーズが――いや、それは違うな。どちらかといえば、それは僕の趣味だ。
じゃあなんだ? セルジャンシリーズ以外で、思い浮かぶことといえば――
「……牧場?」
「うん?」
「牧場やってますね。セルジャン牧場」
とりあえずパッと思い浮かんだのがそれだった。
……さすがにもうちょっと他にあるんじゃないかと、発言した後で思ったりもした。
「そうかぁ。二人はそんな趣味なのか……」
「ええまぁ、パッと思い浮かんだ感じでは……」
「ミリアムが料理と裁縫で、セルジャンも狩人をやめて牧場を始めて……。ミリアムもセルジャンも、第二の人生を歩んでいるのだなぁ……」
「…………」
なんかしみじみとそんなことをスカーレットさんがつぶやいた。
まぁ母の場合はそうなのかな……。結婚して子供が生まれて、料理をしたり子供の服を縫ったりと、第二の人生と言えそうな気がしないでもない。
しかし父の場合はどうなのか……。父の牧場は、僕とナナさんが勝手に押し付けた第二の人生だったりもするわけで……。というか別に狩人はやめていない。普通にそっちが本業だ。
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