第648話 アルティメット・パワーレベリング
――パワーレベリングである。
勇者式パワーレベリングに、魔王式パワーレベリングに、聖盾式パワーレベリング、さらには聖女式パワーレベリングに、おまけで神獣式パワーレベリング。
つまりは――全員だ。
この際全員にお願いしてしまおう。残念ながらユグドラシルさんだけはいないけど、ユグドラシルさん以外のアルティメット・ヘズラトボンバーズのメンバー全員にお願いして、最強で最高で最大のパワーレベリングを敢行するのだ。
名付けて――アルティメット・パワーレベリング!
この究極のパワーレベリングにて、僕は一足飛びにレベル45へと到達する――!
うん。とりあえずそういう予定だった。
そういう計画を立ててはいたのだけれど……。
「ずいぶんとダラけているなぁアレク君」
「あ、スカーレットさん……」
スカーレットさんの言う通り、今の僕はダラけきっていた。部屋のソファーにもたれかかって、ぐでっとしていた。
「いやー、違うんですよ」
「何が違うのか」
「僕もこんなつもりじゃなかったんです。真面目にレベル上げをしようとは思っていたのですが……」
「うん、そういう話だったはずだ。今度レベル上げに付き合ってほしいと、私もアレク君からお願いされていた」
「そうですね。確かにお願いしていましたねぇ……」
「それが――一週間前のことだ」
「一週間前……」
そうか、もうそんなに経つのか……。結局パワーレベリングは始まらず、ぐでっとしたまま一週間経ってしまった……。
「なんというか、レベル上げを始める前にちょっと休みたいと思ったのです。よくよく考えると、ラフトの町に着いてすぐでしたし……」
「あー、まぁそうかな? アレク君にレベル上げの話をされたのも、町に着いて二日後とかだったはずだ」
「ですよね? カーク村からラフトの町まで一週間かけて移動してきたわけですし、ちょっとくらい休んでも……」
だって一週間ですよ? 少し冷静に考えてみてくださいよ。一週間の間、道なき道を進み続け、夜は野宿で、いつモンスターが襲ってくるかわからない状況で眠りについて……そんな一週間を送ってきたのですよ? そう考えると、とんでもなく過酷な旅だと思いませんか?
……うん。そう考えれば過酷な旅だ。基本的に僕は人力車で揺られるだけで、夜とかただのキャンプ気分で、どんなモンスターが来ても心強い味方がいるから安心してすやすやと――とか、そんなふうに考えてはいけない。
「だからまぁ、ハードなトレーニングを始める前に、束の間の休息を味わっておこうかなって……。むしろ味わった方がトレーニングにも身が入るかなって……。でも気が付いたら、その休息が一日一日と伸びていって……」
「なるほど……」
「明日こそは頑張ろう。明日から頑張ろうとは思っていたのですが、結局ここまでずるずると……」
「なるほど。――気持ちはわかる」
「おぉ……。わかってくれますか……」
なんか同意を得てしまった。まさか得られるとは……。
「しかしですね、この一週間で僕も考えたのですが――やっぱりレベル上げはやめようかなって」
「え、やめる?」
「ええまぁ、今はその方向で考えています」
「おぉ、すごいなアレク君。そこまで怠惰に振り切って生きていけるとは……。さすがの私もそこまでじゃない。その潔さに、ちょっと尊敬すら覚える」
「いやいやいや……」
そうではない。僕の怠け癖はさておき、一応他にも理由があるのだ。
サクッとレベルを上げて、レベル45のチートルーレットを回すことを目的にアルティメット・パワーレベリングを計画していたわけだが――そこでひとつ、気になることがある。
何度も話題に挙がったことだけど、僕はここ十ヶ月でレベルが5上がった。十ヶ月でレベル5だ。驚異的なスピードである。
しかしアルティメット・パワーレベリングを活用すれば――ひょっとするとさらにペースを早めることも可能なのではないだろうか。なにせアルティメットだ。究極なのだ。十ヶ月どころか九ヶ月で――あるいは八ヶ月で――はたまた七ヶ月で――そんな短期間で5レベルアップの可能性すらありえるかもしれない。
だがしかし、それはそれで問題だったりもする。
僕の世界旅行は、最低でもあと九ヶ月は続けなければいけないのだ。とんでもない勢いでレベルが上昇している中で、まだあと九ヶ月は故郷に帰ることができないとしたら……世界旅行中にレベル45のルーレットが発生して、さらにレベル50のルーレットまでもが発生してしまうことに……。
あっという間に二回のルーレット。本来嬉しいことなのだけど、今回ばかりはちょっとまずい。世界旅行中でユグドラシルさんを頼れない状況だというのに、二回も危険な橋を渡ることになってしまう。
これらの可能性を考えると、そこまでペースを早めることもないのではないだろうか? そんな結論に至った。そんな理由だ。そういう理由でしかない。
……別にアルティメット・パワーレベリングの訓練内容を想像して日和ったとか、そんなんじゃない。それは違う。決してそんな理由ではないことだけは知っておいていただきたい。
「でもまぁ、そろそろ何か別のことをしてもいいかもですね」
「ほう? 何かというと?」
「んー、とりあえず――木工とか?」
木工。安定の木工。迷ったら木工。なんの気なしに木工。そんな木工エルフの僕。
「木工かー。何か楽しげなことを始めるなら付き合おうと思ったけど、そればっかりは見ていることしかできないなぁ」
「おや?」
ああ、そんな感じですか? なら別にいいですよ? 木工じゃなくて、外へでも遊びにいきましょうか。
「でも楽しそうに木工をしているアレク君を見ていると、少し羨ましくなるね。そういう趣味があることは良いことだと思う」
「ほう。そうですかね。スカーレットさんはそういう趣味的なものって、あんまりなかったりしますか?」
「もちろん私も趣味のひとつやふたつはあるけれど、アレク君の木工に並ぶほどの趣味って考えると、ちょっとどうだろうなぁ」
「例えば僕みたいに何かを作ってみるとか、何かを育ててみるとか、そういうのは――」
「何かを殴ることしかしてこなかったなぁ」
「…………」
なんというセリフだろう……。あるいは、とんでもなく荒れた人生を歩んできたかのように聞こえてしまう……。
……いや、違うんだろうけどね。勇者として真面目に真っ当に歩んできただけで、むしろ立派な人生なんだろうけどね。
「うーん。アレク君の木工ほどに熱中できて、心から楽しめる趣味ってのは、やっぱり私にはないのかなぁ。私も誰かを殴る以外の趣味を見つければよかった」
「…………」
なんて恐ろしい趣味だろうか……。もうちょっと言い方なんとかならんかな……。
「――というか、別に今からでもいいのでは?」
「うん?」
「今から何か趣味を見付けて始めても、遅くはないでしょう?」
「今から? そうか、今からか。今さらかと思ったけれど、今からでも私も何か趣味を……」
「そもそもスカーレットさんの場合は遅いとか早いとかないのでは? ええまぁ、実年齢から考えると、あまりにも遅すぎると言うべきなのかもしれませんが――」
「ぶん殴るぞアレク君」
「ひっ……」
いや、その、スカーレットさんに限っては年齢を気にする必要もなくて、まだまだ無限の未来が広がっているはずだと伝えたかっただけでして……。
「でもまぁ、戦うこと以外にも何か喜びを見出すことができたならば、それはなんだか楽しそうで、心躍る話ではある」
「あ、そうですねそうですね。きっと楽しいですよ」
「なるほどなぁ。これが第二の人生というやつか……」
……でもやっぱり言っていることは老後の話っぽく聞こえてしまうね。
next chapter:スカーレットさんのセカンドライフ




