第645話 緊急とは……
なんか遠回しにクリスティーナさんから、『アレクは人の話を聞かずにマイペースで行動して周りを困らせる』って言われたような……?
いや、まぁ気のせいだろう。それは気のせい。そもそも僕はそんな人物ではないはず。
そんなことよりも、話を元に戻して説明を続けよう。なにせ緊急事態なのだ。もうすでに話がだいぶ脱線して、だいぶ雑談混じりになりつつあるが、それでも緊急事態なのだ。
「とにかくですね、魔王式パワーレベリングでレベルが上がったのですよ」
「魔王式パワーレベリングなぁ……」
「そうです。魔王式パワーレベリングです」
「それって結局、何をしたんだ?」
「はい?」
何を? 何をって……。それはまぁ、簡単に説明すると――
「誘拐を……」
「……は?」
「あ、その、だからつまりですね、リュミエスさんの体を……いや、違くて」
「…………」
いかん。何やら訝しげな目で見られている。
先日エルザちゃんに魔王式パワーレベリングについて説明したところ、不当にも変態扱いされてしまったため、今回は発言に気を遣って慎重に言葉を選ぼうとした結果、何故かむしろピンポイントでいかがわしいワードを抽出してしまった。
「違いますよ?」
「何がだよ……」
「なんだかクリスティーナさんはいかがわしい妄想をしているようですが、別にそんな事実はありません」
「なんでアタシの方がいかがわしい奴扱いされてんだよ」
「むー、むー」
いやだって、そんな目で見てきたから……。
「まぁその、いろいろとあったのですよ……。ただ別に、いかがわしいことではないですから。本当ですよ? 嘘だと思うなら、リュミエスさん本人に聞いてみてください。リュミエスさんがしっかり答えてくれるはずです」
「……答えてくれるか?」
「あー……」
答えてくれないかもしれない……。なにせリュミエスさんだし、何も喋ってくれない可能性も大いにありえる。
というかリュミエスさん磨きの方はまだしも、うっかり僕を誘拐しようとした件については、リュミエスさん本人からすると普通に話しづらい事案な気がしないでもない。
「やっぱりリュミエスはアレクに対しても喋んねぇか?」
「ほとんど喋ってくれないですねぇ」
「そうか……。リュミエスの場合はスカーレット以上に仲良くなれたかどうかわかんねぇんだよな……。なんとなく悪い奴じゃないのはわかるけど、基本喋んねぇから、二人でいるときとか正直困ることが多い……」
「なるほど……」
二人っきりでいて、それでいて無言の空間とか、特にクリスティーナさんは苦手そうよね……。間が持たなくて焦るクリスティーナさんの姿が鮮明に想像できる……。
「まぁとにかく、なんやかんやあってレベル44に到達したわけですが――しかし僕からすると、むしろそこが問題なのです。あと1レベルでレベル45に到達してしまうことこそが問題なのですよ」
「レベル45が? あ、そういえば前回もそんな感じだったよな。レベル40が問題とかなんとか……」
「そうなのです。レベル40も問題でしたが、実はレベル45も問題だったりします。僕が再三再四言っていた緊急事態とは――現時点でレベル44に到達してしまったことを指しているのです」
なにせレベル45に到達したら――チートルーレットがある。
もうあとたった1レベルでルーレットの季節がやってくるのだ。このままいくと、間違いなく世界旅行中にルーレットが始まってしまう。
「えぇと……よくわかんねぇんだけど、じゃあまたすぐ故郷に帰るってことか? 前回の旅みたいに、レベル45に到達する前に帰らなきゃいけねぇのか?」
「そこですよね……。それで僕も悩んでいたのですが……」
この問題に対し、僕もいろいろと考えた。
考えに考えて、ようやくたどり着いた結論が――
「……いや、もうちょっと引っ張ってみますかね」
「あん?」
せっかくだし、結論の発表はもうちょい引っ張ろう。もうちょい結論に至るまでの過程も聞いてもらいたい。結論まで紆余曲折あったのだ。
「ひとまずみんなで会議を開いてみたのです。帰るか帰らないかの緊急会議です。……まぁパーティ内で相談できるのは、事情を知っているヘズラト君だけでしたが」
「もうその時点で不思議なんだけどな……。なんでヘズラトだけなんだよ……」
事情が事情だからねぇ……。でもその代わりに、事情を知っているパーティ外の人達ともDメールを用いて会議をしてみた。
ちなみにだが、会議でみんなを集める際、最初に『緊急事態が起きました』と発信したところ、ナナさんからは――
『また魔王に攫われましたか?』
などという返信が来て、軽くイラッとしたりもした。
「会議でまず話し合ったのは、故郷へ帰ることに対してのメリットとデメリットです。どっちもあって、とりあえず帰ることのメリットとしては――世界樹様です」
「世界樹様? あぁ、そういえばレベルアップした瞬間を見せたいんだったか? 確か見せると世界樹様が喜んでくれるとか」
ほう。そんな説明をクリスティーナさんにしたんだったか。
なるほどなるほど、その説明で間違いではない。実際ユグドラシルさんは、僕の昇天シーンを喜んでくれる。もう何度か見せてあげることはできたはずだが、可能ならばまた見たいとユグドラシルさんも言っていたし、ユグドラシルさん的には何度見ても良いものなのだろう。知らんけど。
あとはまぁ、ルーレットの際にユグドラシルさんが居てくれることのメリットとしては……やっぱりいろいろ頼れるよね。とんでもないチートを手に入れたときとか、むしろユグドラシルさんを頼るほかないわけで……。
例えば、もしも本当にパ◯ェロを手に入れたら、『ユグドラシルさんに貰ったので……』と言うほかないわけで……。
例えば、もしも知らない誰かが急に現れた場合――ダンジョンコアを手に入れたときのナナさんや、『召喚』スキルのミコトさんや、召喚獣ボールのディースさんみたいに、なんか急に新キャラが現れた場合も、『ユグドラシルさんの知り合いらしいです……』と言うほかないわけで……。
しかし、このあたりの詳細をクリスティーナさんに説明できない以上、クリスティーナさんからするとユグドラシルさんは、『アレクのレベルが五の倍数に達したとき、何故かその瞬間を見たくてたまらなくて、祝いたくてたまらない人』って認識がされちゃいそうだけど……。
うん、なんというか、そこはユグドラシルさんに申し訳ない。頼ってばかりで申し訳なくて、変な誤解を生んでしまって申し訳ない。
「そして、今度はデメリットですね。帰ることのデメリットとしては――エルフの掟失敗です」
「そりゃまずいな」
「まずいですねぇ」
非常にまずい。というか、これはもうデメリットとかではない気がする。そんな言葉では済まないくらいに問題だ。なんかもう全部ご破算。全部パー。全部おじゃん。
「細かく言えば、他にもいろいろメリットデメリットはあるのですが、すべてを総合的に判断して、僕達が導き出した答えは――」
ここで一旦タメを作り……もうちょっと引っ張ろうかとも考えつつ、でもまぁすでに十分引っ張ったかなと、なんかちょっと納得しつつ満足しつつ――ようやく僕は結論を口にした。
「――結局、帰らないことにしました」
「あ、帰んねぇのか」
「そのつもりです」
やっぱり掟があるからね。ここで帰ったりしたら、村の人達からなんて言われるか……。あるいは温かい励ましの言葉とかを掛けてくれそうな気もするが、それはそれでつらそうで……。
そんなこんなで、世界旅行は続行決定。次のルーレットは世界旅行中に決行決定。ユグドラシルさんに頼れない中で、どうにかこうにか自力で乗り切るしかないな。
「そういうわけですので、クリスティーナさんも喜んでください」
「ん? 何がだ?」
「また僕がすぐに帰ってしまうのではないかと、不安になったのではないですか? 安心してください。これからしばらく町に滞在することになるので、クリスティーナさんと一緒にごはんを食べてあげることもできます」
「おら」
「むー、むー」
むぎゅっとされてしまったが、でもこれもメリットのひとつだよね。せっかくラフトの町に着いてみんなと再会できたのに、二回連続ですぐお別れというのも、さすがに寂しいじゃないか。
「まぁいいや。とりあえずアレクは帰らないってことで…………うん? じゃあ今までの話はなんだったんだ?」
「はい? 何がです?」
「再会早々、えらい勢いで緊急事態がどうのこうのって騒いでいたけど、結局このまま普通に滞在すんのか?」
「ええまぁ……」
「つまり結局は、別になんでもないって話だったのか……?」
「まぁ、そうですね……」
「そうか……。いや、うん、まぁいいんだけどな……」
「…………」
なんですか。なんだと言うのですか。僕がただただ無駄に騒いだみたいに言って……!
それを言うなら、そんなのいつもですからね!? 無駄に騒ぐだけ騒いで、そのわりに何も起こらないとか、そんなのむしろ僕の平常運転なんですからね!?
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