第633話 新生アルティメット・ヘズラトボンバーズ、始動
「終わったー」
ついに終わった! 一ヶ月にわたって行われたリュミエスさん磨き、無事に完了である!
「いやー、終わりましたねリュミエスさん」
「…………」
「リュミエスさんも、お疲れ様でした」
一ヶ月間付き合ってくれたリュミエスさんに、僕がひとまず感謝を伝えると――
「お疲れ」
「おぉ……!?」
なんと! リュミエスさんから声を掛けていただいた!
「……あ、いえいえ、僕はお願いしている立場ですからね。でもリュミエスさんは大変じゃなかったですか? どうですか? 大丈夫でしたか?」
「…………」
無言である。ここぞとばかりに疑問文を連投してみたけど無言。
もう一言二言お言葉をいただけるかなと期待したのだけれど、ここは普通に無言であった。
……そうか、今さっきのは特別だったのだな。リュミエスさん磨きが終わった労いに、特別に声を掛けてくれたのだ。リュミエスさんのために何かを成し遂げた瞬間でないと声を聞けないシステムなのかもしれない。
となると、次にリュミエスさんの声を聞けるのはいつになるのか……。もう一度リュミエスさんの声を聞くために、僕も何か――
「……ハッ!」
「…………」
もしかして、すべてが計算尽く……? まさかリュミエスさんは、こうやって自分のために働く人を増やしてきた? そうやって魔界の王としての地位を築き上げてきた?
さすがは魔王様……。さすがは魔王様の人心掌握術……。
◇
兎にも角にも、リュミエスさん磨きが完了した。
一ヶ月掛けて、リュミエスさんの全身はピカピカに磨き上げられて――うん、まぁやっぱり変化はないんだけどね。元からピカピカで、一ヶ月掛けても同じようにピカピカである。
それでも個人的には満足だ。無事に伏線も回収できたし、リュミエスさんの声も聞けたし、なんかやり遂げた感がある。
「――で、無事に完了したところで、いよいよカーク村を出発しようと思います」
「ん、そうなんだな」
カークおじさんにそう告げた。非常に名残惜しいが、別れの時が近づいてきている。
「カーク村に到着して、今でちょうど二ヶ月となります。きりの良いタイミングかと」
「確かにそうかもなぁ。それで、出発はいつになるんだ?」
「とりあえず――今から二週間後あたりで」
「…………」
そのくらいで出発しようと考えている。
だからまぁ、カーク村での滞在は二ヶ月半ってことになるのかな。
「きりの良いタイミング……?」
「……ええまぁ、確かに最終的には中途半端な日数になっちゃいますけどね。――しかしカークおじさん、僕とリュミエスさんは一ヶ月にも及ぶ重大任務を終えたばかりなのですよ? 少々休んだところで罰は当たらないと思います」
「いや、別にいいけどな……」
それにほら、カーク村で二ヶ月半ってことは、世界旅行のトータル日数は三ヶ月ってことになるわけで、それはそれできりが良くない?
というわけで、我々はしばしのリフレッシュ休暇に入ろうと考えている。
あと、他にもいろいろと準備しなければいけないこともあってだね――
「これから出発の準備を整えたり、送別会の準備も始めなきゃいけないですね」
「あー、送別会か。世界樹様のときもやってたな」
そうそう。ユグドラシルさんが離脱するときも送別会を開いたね。
まぁユグドラシルさんが遠慮したため、そこまで大層な催しではなく、みんなでちょっと豪華な料理を食べたり、おもむろに僕がギターの弾き語りをしてみたり――
……あれはどうだったんだろう。なんとなくノリでやってみたけど、ユグドラシルさんや周りのみんなはどう思ったんだろう。
前世の名曲を引っ張ってきたこともあり、そこそこウケていたような気もするけど……。
「あれ? でも送別会と言うのなら、その準備は俺がしなきゃじゃないか?」
「ああ、別に大丈夫ですよ? それはこっちで勝手にやっちゃいますから」
「自分の送別会を自分で準備するのか……」
今までカークおじさんにはお世話になりっぱなしだったわけで、最後の最後まで面倒を掛けるのも申し訳ない。ここは僕に任せてください。しっかり送別会を準備して、しっかり送り出してみせますとも。
「とはいえ、少々悩みどころではありますね。なにせ今回は全員です。全員を送別なのです。勇者様と魔王様と聖女様と神獣様の送別会となると、それなりに盛大に開かねばなりません」
「いや、あんまり大げさなのは……」
「はてさて、どうしたものか。――なんならアレク出発祭でも開きますか?」
「え? 何? アレク出発祭?」
「我がメイユ村にて、伝統となりつつあるお祭りです」
「そうなのか……」
しかしアレク出発祭を開くにしても――肝心のユグドラシルさんがいない。
そこが問題だ。それではユグドラシルさんのパレードが開けない。それが一番の目玉だと言うのに……。
「であるならば――カークおじさんでいきますか」
「うん?」
「とりあえずカークおじさんには人力車に乗ってもらい、村の中を何周かしてもらうことで……」
「さっきから何を言っているんだアレク……。俺に何をさせるつもりだアレク……」
◇
光陰矢の如し。
月日が過ぎるのは早いものだ。
なんやかんやで二週間が経った。本当にあっという間の二週間で…………まぁ、それで言うならこの村での日々もあっという間だったか。なんかいつの間にか二ヶ月半経っているものな。
これと言って特に何かした記憶はないのだけど、のんびり狩りをしたり、のんびりリュミエスさんを磨いているうちに、結構な月日が過ぎ去っていった。
まぁ良いことだよね。順調に掟ノルマを消化できているわけで、それはとても良いこと。
「ではカークおじさん、誠に寂しいですが、ここでお別れです」
「ああ、またなアレク」
全員でカーク村の柵の前までやってきた。ついに別れの時。
「次に会うのは、エルフの掟が達成されてからになるので、九ヶ月後とかになりますかね」
「おぉ……。いつも似たようなことを言われて、その通りになったことはないけどな……」
なんてことを言うのだカークおじさん。僕がまた掟失敗フラグを立てたみたいに言うのはやめていただきたい。今回こそは大丈夫。きっと大丈夫。
「ではでは、また九ヶ月後に会いましょう。それまでカークおじさんもお元気で」
「おお、アレク達も元気でな」
そんな会話を交わしてから、僕達は柵を跨ぎ、ついでに歓迎ゲートをくぐり、カーク村を後にした。
そうして長いようで短いようなカーク村編が終わり――いよいよ僕達は出発する。
アルティメット・ヘズラトボンバーズの再始動。長らく停滞を続けていた我らのパーティではあるが、魔王リュミエスさんをメンバーに加え、生まれ変わった新生アルティメット・ヘズラトボンバーズの始動である!
「さてさて、それじゃあ行きましょうか。――乗ってもいいかなヘズラト君」
「キー」
一度確認を取ってから、僕はヘズラト君が引っ張る人力車に――おや?
「どうかしましたか?」
「…………」
何やらリュミエスさんが人力車をじっと見ている。
いったい何が……あ、そういえば説明していなかったっけ?
「これですか? これは人力車といって、移動のとき僕はこれに乗って、ヘズラト君に引っ張ってもらっているんです」
そして、何故僕がこれに乗らなければならないかと言うと…………いや、まぁ言わんでいいか。ここまで一緒に生活していて、僕がどういう人物なのか、僕の『素早さ』がどんなもんなのか、おそらくリュミエスさんも十分にわかっているだろう……。
「そういうわけでして、さっそく――え?」
「…………」
さっそく人力車に乗り込もうとしたところ――僕より先にリュミエスさんが人力車に乗り込んでしまった。
「あの……」
「…………」
あー、でもこれ前にもあったな。スカーレットさんが初めて人力車を見たときも、同じ展開になった気がする。
「えぇと、やっぱりリュミエスさんも乗ってみたくなった感じですかね」
「なるほど、意外と子供っぽいところがあるなぁリュミエス」
まったく同じムーブをスカーレットさんもしていましたけどね……。ええまぁ、スカーレットさんも子供っぽいところがあるという意味ならば、僕も全面的に同意しますが。
「それじゃあヘズラト君、軽く進んでみて――んん? え? なんですか?」
「…………」
リュミエスさんは無言のままこちらを見つめていて、さらには僕の手を掴み、ぐいぐいと自分の方に引っ張り始めた。
えっと、何? 違うの? このまま進んでほしいわけではない?
「……もしかして、僕にも乗れと言うことですか?」
「…………」
なんかそうっぽい。一緒に乗ろうということらしい。
「ふむ。まぁ乗ってやったらいいじゃないかアレク君」
「え? いやでも、この人力車は一人用でして……」
「リュミエスの膝の上に乗ればいいさ。竜に乗れることなんてそうそうない。貴重な経験だ」
「えぇ……?」
竜というか、ただの美女なのですが……。美女の膝の上に乗れと……?
なんだろう。それはそれで貴重な経験だとは思うけど、でも案外僕は天界でそれなりに経験していることであり、だけど二十歳を超えたらもうやらないと決めていたことでもあり、この状況を天界から見ているディースさんが、果たして何を思うか……。
とはいえ、そこまで望まれたら、やっぱり僕としてはやぶさかではなくて……。
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