第632話 電撃加入
「……あ、でも、えぇと、リュミエスは洗われるのが好きらしいし、別にそれが無駄だとは思わない」
「……ええはい、ありがとうございます」
言葉の刃を突き立ててしまったことに気付いたのか、ジスレアさんが慌ててフォローしてくれた。
いいのですよジスレアさん、実際なんも変わっておらんのですし……。
……とはいえ、そこまで変化がないとなると、リュミエスさんに対して申し訳ない気持ちにもなってくるね。
まぁ僕が無駄なことをしているのはいいのよ、自ら進んでやっているわけだしさ。でも、それにリュミエスさんを付き合わせてしまっているのは申し訳ない。
ジスレアさんの言う通り、リュミエスさんが本当に喜んでくれているといいのだけど……。
何か少しでもリュミエスさんにプラスの効果があったらいいね。なんとなくさっぱりした気持ちになるとか、お肌のピーリング効果とか、そういうのがあるといい。
「――ところでアレク」
「……え? あー、はい、なんですか?」
何やらジスレアさんが改まって話し掛けてきた。
はて、なんの話だろうか……。
「そろそろ――出発を考えてもいいかもしれない」
「ほう?」
あぁ、なんだ、そういう話か……。なんかちょっと安心してしまった。ここまでの流れがあったため、妙にそわそわしてしまった。
なんというか、ユグドラシルさんも同じ流れだったのだ。リュミエスさんを磨いている最中にやってきて、とりあえず感想を聞かせてもらい、そこからグダグダとした会話が続き、それから『ところでアレク、わしはそろそろ森に帰ろうと思う』と話を切り出される流れであった。
同じ展開をなぞっていたため、もしやジスレアさんまでも『森に帰る』と言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしてしまった。
ちなみに、もしそうなっていたとしたら……まぁ帰るか。僕も帰るな。エルフの掟などとのんきなことを言える状況ではない。ジスレアさんの後に付いて、一目散に撤退である。
「つい先日に世界樹様も帰ってしまったけれど、確かにそれくらい長いこと滞在している気がする」
「あー、今現在で、一ヶ月と三週間滞在させてもらっていますね」
「あと一週間でリュミエスを洗う作業が終わると聞いた。そのあたりを目安に出発したらどうだろう」
「なるほど……」
ぴったり二ヶ月。やはり区切りとしてはちょうどいいか。
……あ、だとすると、少し失敗したかもしれない。それならユグドラシルさんにも『リュミエスさん磨きが終わり、そろそろ出発するのでユグドラシルさんも一緒に行きましょうよ』と提案すればよかった。そうしたら、もうちょいユグドラシルさんを足止めできたかもしれないのに……。
一応ユグドラシルさんには、『もうすぐリュミエスさん磨きが終わりますが、その完了は見届けなくてもよろしいのですか?』とは提案したのだが、そこに関しては――
『いや、それは別に……』
――などと言われてしまった。
まぁねぇ。実際に何も変わっておらんのだし、その完了を見届けたところでねぇ……。
……というか、むしろあの提案は逆効果だったか? 何も変わっていないのに、『どうです? ピカピカでしょう?』と散々尋ねて、散々困らせた記憶がある。リュミエスさん磨き完了後、どうせまた聞かれるのだろうとユグドラシルさんが考えて、それを嫌がった可能性がなきにしもあらず……?
◇
「さてさて、皆様お集まりいただき、ありがとうございます。今回ジスレアさんより、『そろそろ出発してはどうか』というご意見を賜りましたゆえ、この議題について皆様とご相談させていただきたく存じます」
というわけで、カークおじさん宅のリビングにて――僕、ジスレアさん、スカーレットさん、リュミエスさん、ヘズラト君、カークおじさんの面々に集まってもらった。人が多くてだいぶ狭い。
「お、そうなのか。いよいよ出発か」
「ええはい、長いことお世話になりっぱなしで、カークおじさんには大変ご迷惑をお掛けしました」
「いやいや、別に迷惑なんてことはなかったけどな」
と言ったふうに、カークおじさんは優しい言葉を返してくれるが――
でもまぁ、やっぱり迷惑は掛けたよね……。カークおじさんの立場からすると、なんの前触れもなく、おもむろに世界樹様と聖女様と神獣様を引き連れてやってきて、さらに勇者様と魔王様まで呼び込んだわけで……。面子も面子だし、そもそも単純に人数が多い。しかもそのまま二ヶ月近く居座っているのだから、冷静に考えると滅茶苦茶なことをしている。
「で、出発の件ですが――」
「はい」
「え? あ、はい、どうぞスカーレットさん」
唐突にスカーレットさんがこちらを見ながらビシッと手を挙げてきた。
どうやら意見があるらしいので伺ってみよう。
「もうちょっとのんびりしてもいいのかなって気もする」
「なるほど」
検討に値する意見である。気持ちはわかる。わかりますとも。
どうする? じゃあもうそうしちゃう? もうちょっと滞在しちゃう? このまま滞在するだけで、どんどん掟のノルマは消化できているのだし、その案も悪くはないんじゃないかなって……。
「…………」
「え? あ、はい、どうぞリュミエスさん」
リュミエスさんも手を挙げたので、意見を伺ってみる。
果たしてリュミエスさんの意見とは――
「…………」
「ん? あの、リュミエスさん?」
「…………」
「えぇと……」
「…………」
「なるほど」
意見を伺ったところ、やはり無言であった。
なんだこれは。いったい僕にどうしろというのだ。もはやちょっとしたギャグだろうそれは。
「えぇと、つまりリュミエスさんも、もう少し滞在してもいいんじゃないかという……?」
「…………」
「いや、そろそろ出発してもいいんじゃないかという意見ですかね?」
「…………」
反応を見ながらリュミエスさんの意思を探ってみたのだが、正直よくわからん。なんとなく雰囲気的には、出発に票を投じたような?
「……あれ? というか、そもそもリュミエスさんは付いてきてくれるのでしょうか? 僕はもうすっかりそのつもりで話を進めてしまいましたが、そこは問題ないですか?」
そのあたりの確認を取っていなかった。もしや、リュミエスさんもここで離脱なんてこともある? 言うてリュミエスさんも魔王様なのだし、忙しい立場だったりもする? もう帰らなければいけなかったりもする?
「実際のところ、どうなのでしょう?」
「…………」
無言である。
「なるほど――付いてきてくれるのですね。ありがとうございます」
「…………」
無言なのでよくわからんが、たぶん付いてきてくれるのだろう。そんな気がした。そんな意思を見せてくれたような気がしないこともなかった。
「――あ、そうなると、いよいよリュミエスさんもパーティ入りですね? アルティメット・ヘズラトボンバーズの新メンバーになっていただけるわけですね?」
「…………」
「そうですかそうですか。では正式にパーティ加入ということで、僕としても大変嬉しいです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「…………」
無言なのをいいことに、もはややりたい放題し始めた僕がいたりいなかったり。
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