第626話 魔王城
「というわけで、今現在カークおじさん宅は結構な大所帯となっております」
「まぁそうだな」
そのことについて話をせねばならん。とんでもない面々が集まっているカークおじさん宅だが、面子はさておき、そもそも人数が問題なのだ。
「今いるメンバーが、勇者様に魔王様に世界樹様に聖女様にエルフの至宝。それと――神獣」
「キー!?」
唐突に出現した『神獣』という言葉を聞き、ヘズラト君がびっくりしている。
「神獣? あぁ、ヘズラトの称号をそう決めたのか?」
「賢獣や聖獣も捨てがたいですが、やはり神獣も良いなと」
「キー……」
まぁ勝手に決められたヘズラト君本人は、恐縮しっぱなしで困惑しっぱなしだが。
「誰からも愛される可愛くて賢くて優秀なヘズラト君ですが、その愛されっぷりは、もはや神にすら届くほどです」
「神にすらって――ああ、世界樹様か。なるほどな、それで神獣か」
「そうです。我らエルフの神であるユグドラシルさんにも愛されていますし――なんなら人界の創造神様にも愛されています」
「創造神様?」
「最近メイユ村に現れるようになったんですよ」
「え? 創造神様……うん? えっと、それは……え?」
あれ? そういえば伝えていなかったっけか。何やらカークおじさんが結構な驚きようを見せている。
「ほ、本当なのか? 創造神様がアレクの村に……?」
「創造神様は世界樹様とも知己の間柄らしく、世界樹様に会いに来たそうですね」
一応はそういう設定でお願いしたい。もちろん本当はそれだけではなく、実際には僕の召喚獣だったり、あるいは僕の母親を自称していたり、なんなら今もカークおじさんの驚きっぷりを天界から眺めているはずだけど、たぶんその辺りのことはあんまり話さない方がいいはず。
「もう千年以上顕現されていないって話も聞くが……」
「千年!? え、そうなんですか……? 確かに久々の顕現とは言っていましたが……」
それはすごいな……。カークおじさんの驚きも納得だ。
というか千年も現れないで、よくもまぁしっかり存在が語り継がれたものだねぇ……。
「このことが広まったら、人界が大騒ぎになりそうだ……」
「ちなみにですが、僕の旅に付いてくるか本気で迷っていました。もし同行していたら、今も一緒にカークおじさん宅に滞在していたでしょうね」
「俺の家が大騒ぎになりそうだ……」
千年ぶりに人界に顕現――千年ぶりに創造神様がカークおじさん宅に顕現。
それは確かに騒ぎになりそう。人界中の人達がカークおじさん宅に押し寄せてきてしまうかもしれん。
「まぁそれはさておき」
「さておくのか……」
「そういうわけで、ヘズラト君は神獣です」
「そうだなぁ……。世界樹様と創造神様に愛されたら、それはもう神獣だな」
「キー……」
なんならミコトさんにも愛されてるし、ウェルべリアさんやレーテーさんにも愛されている。これほど神様に愛されているのなら、文句なしで神獣である。
今後はこの呼び名を広めて、そのうち神獣の称号をゲットしてもらおう。
「個人的には賢獣の呼び名も気に入っているので、要所要所で使い分けていき、両方取得できたら良いですね」
「キー……」
頑張ろうヘズラト君。何やら称号のことを、資格や免許みたいな扱いをしてしまっているような気もするが、とりあえず持っていて損はないだろう。
「あ、カークおじさんはどうします?」
「俺?」
「カークおじさんも称号が欲しいと言っていませんでしたか?」
「別にそうは言っていないが……」
「どうしましょうね。カークおじさんには、なんて称号がいいのでしょう」
「アレクはあんまり人の話を聞かないよな……」
悩むなー。何がいいかなー。カークおじさんと言えば親切で優しくて、器が大きくて懐が深い人ってのが僕のイメージだけど、そのあたりで考えてみようか。
あるいは――この家か? カークおじさんと言えばカークおじさん宅。そのことを称号に盛り込むのも良いかもしれない。
「だとすると……家主? いやでも、それは称号としてちょっと微妙な気もする。もう少し格好いい呼び方はないものか……。管理者? 守り手? 守護者?」
「この家のことを言っているのか……? あー、まぁアレク達は大層この家を気に入ってくれているみたいだしな」
「と言っても、もちろんお家だけを評価しているわけではないですよ? カークおじさん宅は、カークおじさんが居てこそのお家だと考えておりますゆえ」
「そうか? そう言ってくれると俺も嬉しい……。嬉しい? あぁ、うん、まぁ嬉しいかな……」
カークおじさんも喜んでいるようだし、この方向で考えていこうではないか。
「ではそうですね、これからカークおじさんは――『神々の守護者』を名乗ってください」
「……え?」
「『神々の守護者』です」
「あまりにも誇張しすぎだろ……」
まぁまぁ、大丈夫ですよ。僕なんて称号にポケットティッシュ呼ばわりされているわけで、あれと比べれば全然納得できる称号だと思います。
◇
話を元に戻そう。毎度のことながら、だいぶ話が脱線してしまった。
問題は人数なのだ。現在の滞在者の人数が問題。
「とりあえずアレクとヘズラトは俺の部屋で構わないか?」
「ありがとうございます。お世話になります」
このこと自体は事前に決めていたことだ。前回の旅でもそうだったけど、スカーレットさん合流後はカークおじさんの部屋にお邪魔させてもらうよう頼んでおいた。
というわけで、男性陣とヘズラト君は問題なし。
問題は――女性陣だ。
「現在客室には、ユグドラシルさんとジスレアさんとスカーレットさんとリュミエスさんの四名がいらっしゃいます。しかし、さすがに四人が一部屋で寝泊まりするのは厳しいかと思います」
「さすがに狭いよなぁ。揃いも揃って偉人ばかりだし、窮屈な思いをさせるわけにはいかないし……」
そうだよねぇ。世界樹様に聖女様に勇者様に魔王様がいるわけで…………うん? 魔王様?
「……ハッ!」
「うん?」
「魔王様がお過ごしになるということは――ここは魔王城なのでは?」
「え?」
「魔王城、カーク村支部」
「いきなり魔王城にされても……。というか、城ではないだろ」
まぁ普通の民家ではある。
「じゃあそうだな。――もう一部屋作るか」
「お、増築ですか? 魔王城にふさわしいお城にしますか? お任せください。増築工事はわりと慣れています」
「そうじゃなくて……。物置に使っていた部屋が一部屋ある。そこを開けよう」
あー、そういえばあったっけか? 確かにあった気がする。……なんだそうか、まだ部屋は余っていたのか。
案外あっさり問題解決しちゃったな。もちろんこれから物置の荷物を運び出したり、大掃除が始まったりで大変なんだろうけど、家を増築するほど大変ではないだろう。
「あるいは、玄関前にテントを建てることになるかと考えていたのですが」
「またかよ……。なんですぐ玄関前にテントを建てようとするんだよ……」
「そして僕やカークおじさんの男性陣は、テント暮らしが始まるかと思っていたのですが」
「俺が追い出されるのか……。俺が居てこその家じゃなかったのか……」
とはいえ、女性陣に外のテントを勧めるわけにもいかないでしょうし、それより何より――
「玄関前に陣取り、家の中の神様を守る。これこそが『神々の守護者』の在り方なのではないかなと」
「いやそれは……というか、本気なのかアレク。まさか本当にその称号を俺に付けさせようとしているのか……?」
next chapter:ユグドラシルさん足止め作戦




