第625話 勇者とか魔王とか世界樹とか聖女とか至宝とかが集まるカークおじさん宅
「魔王……?」
「そうです」
「そうか、魔王様なのか……」
ひとまずカークおじさんにもリュミエスさんのことを伝えておいた。
スカーレットさんがリュミエスさんのことを紹介しないまま、リュミエスさん自身も自己紹介等をしないまま、そのまま女性陣がみんな客室に向かってしまったので、とりあえず僕達男性陣はリビングにて情報共有を行っていた。
というわけで、リビングには僕とカークおじさんとヘズラト君が集まって――
……いや、まぁヘズラト君を男性陣に含めるかどうかは難しいところなんだけどさ。
何気にヘズラト君って性別不詳なんだよね。鑑定とかのステータスでも性別がわからないのだ。性別欄自体がなかったりする。
「わりと意味深ではある……。なんでなんだろう」
性別欄すらないとは、いったいどういうことなのか。果たしてこれは何を意味しているのか。このことから何が考えられる? どういう可能性が考えられる?
ひょっとするともしかして――
「美女の可能性が……?」
なくはない。そんな可能性もなくはない。
ヘズラト君もいずれは人化して、美女とか美少女とかに進化する可能性が残されている。残していただいている。
「でもまぁ、ヘズラト君は今のままでいてほしい気持ちもちょっとあるなー。このまま可愛らしいもふもふ系の方向で進んでほしいかも」
「キー?」
もちろん美女とか美少女への進化も良いのだけれど、やっぱりもふもふも良いよね。もふもふは正義。
そんなことを考えつつ、なんとなく隣のヘズラト君をなでりなでりする。
「さっきから何を言っているんだアレク……」
「え? あ、口に出してましたか?」
「アレクは時々そういうことがあるよな。唐突に自分の考えに没頭して、そのままよくわからないことを口にしたりする……」
「あー」
いかんいかん。どうやら独り言を呟いていたらしい。幼いときからの悪癖だ。
……でも良かったな。最終的に『もふもふのヘズラト君が可愛い』的な独り言に落ち着いたのは不幸中の幸いだった。
逆にもしも『美少女に進化してほしいなー』などと口走りつつヘズラト君をなでるような行為に及んでいたら、さすがのヘズラト君もドン引きだったであろう……。
「それで、話を戻すが――魔王様なんだな?」
「そうです。魔王様です。暗黒竜リュミエスさんだと思っていたお方は、魔王リュミエスさんでもあったわけです」
「そうか。そうなのか……。俺の家に魔王様が……」
まぁねぇ。おもむろに自宅へやってきた人が実は魔王様で、素知らぬ顔で奥の部屋へと入っていき、なんか今も同じ屋根の下にいるとしたら、それはちょっとビビるよね。
「あんまり挨拶もできなかったが、実際にはどんな人なんだ? 勇者様の友人だし、悪い人ではないんだろ?」
「そうですね。悪い人ではないと思います。……まぁ僕はいきなり二回ほど攫われそうになりましたが」
「…………」
おっと、いかんいかん。無駄にカークおじさんを怖がらせてしまった。
「あー、でも大丈夫ですよ。基本的に無口で無表情で何を考えているかわからなくて、唐突に人を攫おうとしますが、悪い人ではなさそうです」
「それだけ聞くと、悪い人ではない要素が見当たらないんだが……。何をもって悪い人ではないとアレクは言っているんだ……?」
それはまぁ、美女だから……。
「でもほら、なにせ勇者様の友人ですし」
「んー、じゃあやっぱり悪い人ではないか……」
なんか僕もカークおじさんも、そこそこ認知が歪んでいるような気がしないでもない。
「それにしても、今度は魔王様か……。なんだか俺の家にはとんでもない人達がわらわらと集まってくるなぁ……」
「それもこれもカークおじさんの人徳というやつですよ。そして、そんなカークおじさんが作り上げたカークおじさん宅の素晴らしさによるものですよ」
「別に普通の家だけどな……」
「いやいや、ご謙遜を」
「謙遜でもなんでもないんだけどな……」
まぁとにかく、そんなカークおじさん宅に今現在はいろんな人が集まっている。カークおじさんの言う通り、確かにとんでもない面々だ。各界の著名人ばかりである。
「今いる面子が――勇者様に魔王様に世界樹様に聖女様。あと一応エルフの至宝ですか」
「えらいことになっているな……」
「そうですね、とんでもない称号持ちの方々が大勢…………ふむ」
「ん? どうかしたか?」
「あ、はい、なんとなくみんなを称号で呼んでみたのですが――そういう呼び名が、ヘズラト君にもあったらいいなと思いまして」
ふとそんなことを思った。称号というか二つ名というか、そういうものがヘズラト君にもあったらいいのに。
「ヘズラト君だけがただの召喚獣では、なんだか可哀想じゃないですか。正直今日だってヘズラト君は、エルフの至宝よりもよっぽど良い働きをしてくれましたよ?」
「キー……」
ヘズラト君は『いえ、私は別に……』と恐縮するが、ヘズラト君の優秀さを考えれば、むしろ称号がないのがおかしいくらいである。エルフの至宝よりも優秀そうなのは、僕も認めざるをえない。
「ヘズラトの称号なぁ」
「何か思い付きませんか?」
「んー? じゃあ例えば――『賢者』とかはどうだ? そう呼ばれてもおかしくないくらい賢いだろ?」
「賢者ですか……。ええまぁ、確かにヘズラト君は賢いですけど……」
「ん、ダメか? あんまり良くないか?」
「もう賢者はいるんですよ……」
森の賢者がいるのだ。僕の母とかぶってしまう。
「あぁ、そういえば前に聞いたな。アレクのお母さんが賢者なんだっけか」
「そうなんですよ。賢者が二人もいるのはちょっと……」
「いや、でも別にいいんじゃないか? 例えば勇者様だって、人界にもエルフ界にもいるだろう?」
「あ、そっか」
そっかそっか。確かにそうだ。別に何人いてもいいのか。じゃあヘズラト君も森の賢者に倣って、『大シマリスの賢者』とか、『げっ歯類の賢者』とかでもいいわけだ。
「もしくは、『賢獣』とかでもいいかもな。あるいは『聖獣』とか?」
「おー。良いですね。良い案です。格好いい」
「キー……」
先ほどから恐縮しっぱなしのヘズラト君がいたりもするが、すぐにでも採用したい称号案がぽんぽん湧いてくる。どれもこれも捨てがたい。果たしてどれを選んだものか。
「さてさて、どうしましょうね。ここで決めた称号が、実際にステータスに反映される可能性もありますからね。じっくり検討したいところです」
「え? そうなのか? そんなことがあるのか?」
「僕の『エルフの至宝』とかいう称号も、陰でみんなから呼ばれた結果、称号化したものらしいです」
「そうなのか……」
そう考えると、ヘズラト君のためにも変な称号で呼ぶわけにはいかない。できるだけ格好いい称号が必要だ。カークおじさんだけではなく、もっと多くの人の意見を募るのもいいかもしれないな。
というわけで――できるだけ格好いいヘズラト君の称号案。現在絶賛募集中。
「あ、それってもしかして……俺もそうなのかな。俺もそのうち『カークおじさん』とかいう称号が付いたりすんのかな……」
「はい? どういうことですか?」
カークおじさんに、カークおじさんという称号……?
「いやほら、それこそ勇者様とか世界樹様とか、そういうすごい人達から『カークおじさん』なんて呼ばれているわけだろ? だったらそれがそのまま称号化したりしないかなって」
「え? さすがにそれはどうなんでしょう……」
「しないかな?」
「ただの本名は、称号にはならないのでは?」
「…………」
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