第624話 優しい嘘
「これ、このゲート」
「ああ、僕が作った歓迎ゲートですね」
というわけで歓迎ゲートだ。二回ほど僕が攫われたことで、ちょいとばかし距離が離れてしまったが、歓迎ゲートの前まで戻ってきた。
「おぉそうか、やっぱりアレク君が作ってくれたのか。いやぁ嬉しいよ、ありがとうアレク君」
「いえいえ、とんでもない」
うんうん、やっぱり作ってよかったな。スカーレットさんにも喜んでもらえたようで何よりである。
「こうして私達の名前もしっかり入っているし…………あれ?」
「はい?」
「んん? なんだろう。なんかちょっと引っ掛かる……。なんだか違和感があるような……」
「違和感ですか?」
スカーレットさんの話を聞き、みんなで歓迎ゲートの横断幕を見上げる。
横断幕には、『歓迎! 勇者スカーレット様! 暗黒竜リュミエス様!』の文字。はて、違和感とはどういうことか。
「別におかしなところはないと思いますが……。んー、ヘズラト君はどう? 何か気になるところがあったりする?」
こんなときこそヘズラト君だ。先ほど僕が攫われたときも素早く冷静に的確に行動してくれたヘズラト君ならば、スカーレットさんの言う違和感とやらにも気付くことができるかもしれない。
そう思ってヘズラト君に尋ねると――
「……キー」
「ん? それはつまり?」
「キー……」
「あっ……」
あー、そうか、名前か……。それは確かにそうだな……。
ヘズラト君曰く、おそらくスカーレットさんが感じた違和感とは――リュミエスさんの名前だろうとの話だ。
スカーレットさんは僕達へのサプライズを考えていて、暗黒竜がリュミエスさんであることや、リュミエスさんが魔王であることを伏せていた。通話でも暗黒竜としか話していなかったのだ。
であるならば――歓迎ゲートの横断幕に『リュミエス』の名前があるのはおかしい。伝えていないのに、何故知っているのかという話だ。
なるほどなるほど。さすがだな。そこに気付くとは、さすがはヘズラト君。
……とはいえ、これはいったいどうしたものか。違和感の正体は判明したが、これをそのままスカーレットさんに伝えるわけにはいかない。
今さらスカーレットさんに――
『スカーレットさんのサプライズって、実は全部バレていたんですよね……。暗黒竜がリュミエスさんだったことも、リュミエスさんが魔王だったことも、全部ユグドラシルさんがバラしちゃって……』
――などと話すわけにはいかない。
きっとスカーレットさんをガッカリさせてしまうだろうし、ユグドラシルさんをしょんぼりさせてしまうだろう。
そんなことを考えながら、ふとユグドラシルさんを見ると……どうやらユグドラシルさんも違和感の正体に気付いたらしい。
チラッと視界に映ったユグドラシルさんは、視線をキョロキョロさせて、あわあわしていた。
「なぁアレク君、ヘズラト君はなんと言ったのかな?」
「あ、えっと…………ヘズラト君も、おかしなところは何もないと言っています」
「えぇ……?」
とりあえずそう伝えた。幸いにもヘズラト君の言葉は僕にしかわからないので、嘘をつくのも容易い。
「絶対そんな雰囲気じゃなかっただろうに……。ヘズラト君の言葉を聞いて、アレク君も何かに気付いた様子を見せていたじゃないか……」
「…………」
嘘をつくのも容易いが、その嘘が容易くバレてしまったな……。
いやでも、これは良い嘘だから。みんなを傷付けないための優しい嘘だから……。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ。違和感なんてないです」
「ないって……。私があると言っているのに、ないとは……」
「気のせいですよ。横断幕の文章だって、おかしな部分はひとつもありません。どこも間違っていないです」
「それは確かにそうだけど……」
「というわけで、そろそろ進みましょうスカーレットさん。――あ、せっかくですし、ゲートをくぐっていってくださいよ。さぁスカーレットさん、さぁさぁ」
「うーん……。まぁそうかな、それじゃあ――くぐろうか!」
うむ。どうにか誤魔化せたようだ。先ほどまでは難しい顔で考え込んでいたスカーレットさんも、今はゲートをくぐってわーいわーいと喜んでいる。
スカーレットさんが大雑把――おおらかな性格で助かった。
「ではみなさん進みましょう。まずは村へ入り、それからカークおじさん宅を目指しましょう」
「おー、久しぶりのカークおじさん宅だ。楽しみだね」
というわけでみんなもゲートをくぐり、村に向けて移動を始めた。
それにしても、僕とユグドラシルさんとジスレアさんとヘズラト君のメンバーに、スカーレットさんとリュミエスさんが加わったことで、結構な大所帯になったな。しかもみんながみんな、なかなかに個性的なメンバーだ。
……常識人枠はユグドラシルさんとヘズラト君の二人だけかな? だいぶ常識人と非常識人の割合が歪である。早いところカークおじさん宅へ戻り、常識人を補充しなければいかんな。
ぼんやりとそんなことを考えながら、僕も歩き始めると――
「…………」
「え? あの……」
「…………」
「あ、いえ、特にどうということはないのですが……」
「…………」
なんか近いな……。
リュミエスさんがえらく近い。肩が触れ合うくらいの距離を歩いている。なんというマンマークだ。
なんだろう。やはり僕は気に入られたのだろうか。あるいは、このお宝は自分の物だと所有権を主張しているのか。それとも、また僕を攫ってしまおうと画策しているのか……。
なんだかドキドキする。美女がピッタリ寄り添っていることにもドキドキするし、もしかしたらまた攫われてしまうかもという状況にもドキドキする。
とりあえず僕としては、もう攫われないように一応は気を付けて進んだ方がいいんだろうけど……。でも僕が気を付けたところで、リュミエスさんがその気になったら、きっと僕はなすすべもなく攫われてしまうのだろうし……。
だったらまぁ、気を抜いてもいいのかなって……。美女にうつつを抜かしてもいいんじゃないかなって……。
◇
「カークおじさーん、ただいま戻りましたー」
勝手知ったるカークおじさん宅ではあるが、スカーレットさんは久々で、リュミエスさんは初めての来訪。なので、とりあえず玄関にてカークおじさんが出てくるのを待った。
「ああ、おかえり。どうしたんだ? わざわざ玄関で挨拶を――――あ、勇者様」
「やぁやぁカークおじさん、久しぶりだね」
「あ、はい、お久しぶりです。勇者様もお元気そうで何よりです」
「またしばらくやっかいになるよ」
「ええはい、それはもう。粗末な家で恐縮ですが、いつまででもごゆっくりお過ごしください」
カークおじさんも嬉しそうだ。相変わらずの勇者ファンっぷりである。
「ありがとうカークおじさん。ではでは、お邪魔しまーす。――よーし、みんな移動だー。付いてこーい」
勝手を知っているっぷりは僕以上だなスカーレットさん……。
何故かスカーレットさんが先陣を切って号令を掛けて、みんなもわらわらと移動を始めた。
そうして客室へ進む女性陣と、なんとなく残された男性陣。
そこでカークおじさんが難しい顔をしながら、こっそり僕に話しかけてきた。
「……なんか知らない人がいなかったか?」
「ええまぁ……」
まぁリュミエスさんも元気に挨拶するようなタイプではないだろうしなぁ……。それでいて、こっちからはちょっと話し掛けづらい雰囲気の持ち主だし……。
その結果、無言でスーッと客室へと移動していくリュミエスさんと、その様子を無言で見送るカークおじさんという画に……。なんだろう。なんかシュールでちょっと面白かった。
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