第619話 歓迎! 勇者スカーレット様! 暗黒竜リュミエス様!
「いいぞー、ヘズラトくーん」
「キー」
「うむうむ。その調子じゃ、ヘズラトよ」
「キー」
「がんばれー」
「キー」
今日も今日とて狩りである。
狩りのメンバーは、僕とユグドラシルさんとジスレアさんとヘズラト君の四名。カークおじさんも誘ったのだけど、今日は大根を天日干しする作業があるとのことで辞退されてしまった。
残念ではあるけれど、カークおじさんの切り干し大根は僕も好物であるゆえ、そう言われては無理に誘うこともできない。カークおじさんは大根の天日干しに専念してほしい。
というわけで、今日は四人での狩りである。
そして今回も、一生懸命狩りをするヘズラト君と、その様子を応援する他のメンバーという構図になっており、僕らはヘズラト君を見守りつつ、雑談を交わしながらカーク村の周辺を進んでいた。
「ふーむ。スカーレットさん達と合流したら、暗黒竜さんの戦いも見てみたいですねぇ」
襲い来るウルフをバシバシと引っ掻いているヘズラト君を見ていて、ふとそんなことを思った。
これがウルフVS暗黒竜ならばどうなるのか。おそらくは今以上に一方的な蹂躙になるはずで、その強さに圧倒されることだろう。あるいは、あまりの強さにドン引きしてしまうかもしれない。
ちょっと怖くもあるが、怖いもの見たさという気持ちもある。お願いしたら見せてくれるだろうか。
「もうすぐ着くはずなんですよね?」
「うん。この前教会で通話したら、もう出発したと伝言が残されていた。たぶんその出発日から、今日でちょうど一週間のはず」
「なるほどなるほど」
一週間か。それだけの期間があれば僕の足でもラフトの町からカーク村まで移動できる。やはり二人の到着は間近だと考えられるな。
「とりあえず僕としては、歓迎の準備が間に合ってよかったです」
「歓迎の準備っていうと――あのゲート?」
「そうです。二人が到着する前に、どうにか間に合いました」
二本のポールを立てて、その間に横断幕を掛けて、歓迎ゲートを作ったのだ。
あれを見たら、きっとスカーレットさんも暗黒竜さんも喜んでくれるはずだ。
「まぁ問題は、そのゲートにちゃんと気付いてもらえるかどうかなのですが……」
「そういえば村を囲う柵の外の、妙な場所に立っていると思った。何故あの場所に?」
「カーク村とヨーム村を直線で結ぶと、あの位置になるのですよ」
「あー、そういえばそうかも」
おそらくスカーレットさん達もラフトの町を出発した後は、スリポファルア村、ローナ村、ヨーム村と経由してカーク村にたどり着くはずで、ならばゲートを立てる位置は、あの場所になるのかなって――
……あれ? いやでも、どうなんだろう。二人は村々を経由してくるのかな?
だとするとヨーム村とローナ村とスリポファルア村では、突如現れた暗黒竜によって大騒動が巻き起こったと考えられるが……。そんなふうに各地に混乱を巻き起こしつつ、二人はカーク村を目指しているのだろうか……。
「もしくは、カーク村の入り口に立てようかとも考えたんですけどね」
「入り口?」
「北と南に、柵が開く入り口があるのですよ」
一応は、そこが村の入り口なんだと思う。なのでそこにゲートを立てようかとも考えたわけだが……でもあの入り口とか、もはや誰も使ってないよね。みんな柵を跨いで出入りしている。
当然スカーレットさん達もそうだろう。となると、やはり入り口にゲートを構える意味もなく、結果として柵の外のなんでもない場所にポツンとゲートを構えることに……。
「入り口か……。でも、そういう入り口は他にもあった方がいいと思う」
「そうですか?」
そうなの? 必要なのかな? でもあんな低い柵なんて、普通に跨げばいいだけで――
「アレクが転んで危ない」
「…………」
やめてくれんかな……。僕のことを思っての発言なのかもしれないけど、僕のことを毎回毎回柵に蹴躓く間抜けなノロマみたいに言うのはやめていただきたい……。
「……しかしアレクよ、そのゲートについて、わしとしては少々気になることがあるのじゃが」
「気になることですか? なんでしょう?」
「そのゲートに書かれた文字なのじゃが……」
「ええはい、『歓迎! 勇者スカーレット様! 暗黒竜リュミエス様!』と書かせていただきました」
シンプルに歓迎のメッセージを書き込んでみた。何か問題があっただろうか?
「暗黒竜リュミエス……そもそも本当にリュミエスなのか?」
「はい? どういうことですか?」
「わしの知り合いにリュミエスという名の暗黒竜がいるとは話したが……しかしそれだけじゃ。今この村を目指している暗黒竜がリュミエスだとは確定しておらん。別の竜かもしれん」
「別の竜……?」
あー、そっか。リュミエスさんではない可能性もあるのか……。
なんかもうリュミエスさんで確定だと思い込んで、何も疑わずに名前を書き込んでしまった……。
「すまぬ。わしの発言が元で、アレクを惑わせてしまったかもしれん……」
「いえ、そんなことは……」
まぁ本当に違ったら、僕以上に暗黒竜さんの方が戸惑うことになるかもしれないけどね……。
暗黒竜さんに気分良く入村してもらうつもりが、戸惑いと混乱の入村になってしまうかもしれん……。
「――いや、でもたぶんリュミエスさんじゃないですか?」
「うん? じゃが、それは別に――」
「普通に考えて、リュミエスさん以外はありえないと思います」
「普通とは……? その自信はどこから来るのじゃ……?」
やっぱりさ、この流れで別の竜なんて、ちょっと考えられなくない? わざわざ固有名詞まで出てきたんだよ?
『固有名詞が出た』――この事実の重さを、ユグドラシルさんは少し侮っている。ジェレパパとかレリパパとかカークおじさんとか、未だに出てきてないからね?
「それに、ユグドラシルさんも久しく会っていないとのことで、リュミエスさんだった方が嬉しいですよね?」
「む? まぁそれはそうじゃが」
「会いたいですよね? 会うのが楽しみですよね?」
「う、うむ……」
「早く会えるといいですねぇ」
「うむ……」
よしよし。ユグドラシルさん足止め作戦は今日も順調である。
勇者スカーレットさんや暗黒竜リュミエスさんに興味を抱いている間は、ユグドラシルさんもエルフ界には帰ろうとしないだろう。
……とはいえ、こうなると合流した後が問題か。
ダラダラした滞在期間に異を唱え、ともすればエルフ界に帰ろうとするユグドラシルさんだが、スカーレットさんもカーク村でダラダラするためにここを目指しているわけで、おそらく到着後もダラダラ期間は続くと思われる……。だとすると、それはもうユグドラシルさんも帰っちゃうよね……。
新たな足止め作戦を考えなければいけないな……。
そりゃあダラダラせずに次の村を目指せばいいだけなのかもしれないけど、できたらダラダラは続行の方向で考えたい……。ダラダラしつつ、ユグドラシルさんを足止めする方法を早急に探さなければ……。
◇
ひとしきり狩りを行った後、そろそろ戻ろうかと、みんなで帰り道を進む途中。
ついさっき話した歓迎ゲートの近くを通りがかって――
「おや? あれは――」
「スカーレットだ」
おぉ、スカーレットさんだ! あの赤い髪は、間違いなくスカーレットさん!
どうやらちょうど到着したらしい。スカーレットさんがゲートの近くで横断幕を見上げている。
「ですが、隣にいるのは……?」
スカーレットさんの隣にいるのは誰だ? 隣の女性は……?
黒いドレスを着ている、あの女性は――
「おー、よかったのうアレク。合っていたようじゃ」
「はい?」
「あやつが――リュミエスじゃ」
「え?」
え、リュミエスさん? あの女性が? え、でも…………えぇ?
「そうかそうか、やはりリュミエスじゃったか。皆が暗黒竜としか呼ばぬから、わしも気付くのが遅れて、判断が付かずに少々不安になってしまったのじゃ。それよりも――もっと有名な呼び方があるじゃろうに」
「え? え?」
「――魔王と呼べば、すぐわかったのにのう」
「え……?」
………………え?
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