第613話 お土産のセンス
「そして、いよいよ最後のエルフ土産です」
「いよいよ最後……。というか、本当にずいぶんいろいろ用意してくれたんだな……」
まぁそうね。それなりに手間隙かけて、バラエティに富んだエルフ土産を用意させていただいた。
でだ、いよいよ大トリ。カークおじさんに贈る、最後のエルフ土産というのが――
「それが――こちらです」
「んん……?」
僕がマジックバッグから取り出したエルフ土産を見て、カークおじさんは怪訝そうな顔をしている。
まぁこの世界の人達には、あんまり馴染みがない代物かもねぇ。
「これは……熊?」
「そうです。――木彫りの熊です」
木彫りの熊。鮭を咥えた熊の置物である。ちょっと作ってみた。
「えっと、つまりこれは、なんなんだ?」
「置物です」
「置物……」
「玄関とかに置いたら良いかと」
「なるほど……?」
僕の説明を聞いた後でも、カークおじさんは微妙に戸惑いを隠せていない様子である。
木彫りの熊と言えばお土産の定番かと思ったが、やはりこの世界の人には馴染みがないようで……いや、でもどうなんだろう。あるいは地球の人でも困惑かもしれない。お手製の木彫りの熊をお土産に持ってこられたら、僕だって困惑しかないかもしれん。
「えぇと、でもありがとうな? うん、ありがとう……。ありがとう……」
なんやかんや出来は良い物で、手間も掛かっていそうだし、とはいえ貰って嬉しいかと言えば微妙なところで、飾りたいかと聞かれれば微妙なところで――そんな心情がありありと感じ取れるカークおじさんの受け答えであった。
「こうやっていろいろ準備してくれたことは嬉しいよ。アレクも大変だったろう? ありがとうな」
「いえいえ、とんでもない」
んー。まぁカークおじさんも喜んでくれていそうではあるか? とはいえ、どうもカークおじさんの様子から察するに、僕が持ってきたエルフ土産に喜ぶというよりも、エルフ土産を用意した僕の心持ちに喜んでくれているような……?
ひょっとすると、僕にはセンスがないのだろうか? お土産を選ぶセンスがない?
……なんかちょっとショックだなそれ。お土産のセンスがない人って評価はイヤだ。受け入れがたいものがある。
実際のところ、どうなんだ? 今回僕が持ってきたお土産はどうだった?
とりあえず――ミリアムスペシャルは喜んでくれた。これは間違いない。次に出したクレイスパンは普通の評価かな? そしてクレイス村ペナントは喜んでくれた。それからセルジャン皿は微妙で、熊の置物も微妙な評価だった気がする……。
なのでまとめると――二勝二敗一分といった感じか。
あ、でも白いお皿は喜んでくれたよね。じゃあセルジャン皿の負けは取り消していいか。代わりに白いお皿が勝利判定だ。
白いお皿とセルジャン皿の両方を持っていたことが功を奏したな。勝ちと負けがひっくり返った。
となると――三勝一敗一分?
おぉ、なんだ、全然良いじゃないか。普通に勝ち越しだ。よかったよかった。普通に僕はセンスある方だった。センス◯だ。
「さてと、こうしてお土産を貰ったからってわけでもないんだが、今回もゆっくりしていってくれ。しばらくは泊まっていくんだろ?」
センスの良いお土産に気を良くしたカークおじさんが、そんな提案をしてくれた。
ふむ。まぁ僕としても居心地の良いカークおじさん宅で、ゆっくりしたいところではあるのだが……。
「うーむ……」
「あれ? 違うのか? もしかして今回は早めに出発するのか?」
んー、それがねぇ。なんというかいろいろあってねぇ……。いろいろと予定が変わった感じで、いろいろと予定が定まっていない感じで……。
「本当は、早めに出発する予定だったんですよね」
「お、そうなのか」
「むしろ急ぎで出発しなきゃいけない事情もありまして、ひとまずは一週間程度滞在させていただいて、それから出発しようかなと当初は考えていました」
「一週間……? 一週間は、早めの出発なのか……?」
「早めじゃないですか?」
「そうか……。そうなのかな……」
過去の滞在記録と照らし合わせると、一週間は十分早い。むしろ早すぎる出発と言えるはず。
「そうというのも、スカーレットさんの状況が状況でして」
「勇者様の?」
「どう合流するかで迷っていたのですよ。最後の最後まで調整が付かず、旅に出た後もスカーレットさんと連絡を取り合っていたほどなのですが――」
「うん? え? 旅に出た後で……?」
「はい?」
「旅に出た後ってのは、どういうことだ? もう旅に出たんだろう? 旅の途中で連絡を取ったのか? どうやって?」
「メイユ村の教会から連絡を取りました」
「うん……?」
ふむ。確かにここだけ聞くと謎が謎を呼ぶ話だ。メイユ村から出発したはずなのに、何故メイユ村から連絡を取れたのか。まるで意味がわからない。
「一週間ほどメイユ村のすぐ近くでキャンプを張っていましたゆえ、ジスレアさんはちょこちょこメイユ村に戻っていたんです」
掟により僕はもう戻れないが、ジスレアさんは戻ることもできる。なのでジスレアさんはふらっと家に戻ったり、教会に寄って通話なんかもしていた。
僕とジスレアさんは二人で、『このシステムいいねー』なんて話もしたな。これなら忘れ物が発生する心配もないし、よしんば忘れ物があったとしても、すぐ取りに戻れる。
「村の近くでキャンプって、なんでそんなことをしていたんだ……?」
「あー、それですか、それはまぁ結局のところ……流れでそうなりました。旅の初日にあまり進めず、すぐ近くでキャンプを張ることになったのですが――それで気が付いたら一週間経っていました」
「そうか……。正直わけがわからんが、でもまぁアレクらしいな」
わけがわからんのに、それがむしろアレクらしいとはいったい……。
「……でもさ、それはどうなんだ?」
「何がですか?」
「なんというか、それは旅に出たことになるのか? ちょこちょこ戻っていたのなら、まだ旅には出発していないことに――」
「いけませんカークおじさん。それ以上いけない」
「お、おう……」
これを旅と認めてくれないと、エルフの掟も失敗したことになっちゃうので、これはもう旅です。旅だと認めないことを認めません。
「さておき、スカーレットさんと連絡を取ったところ、とりあえずスカーレットさんもカーク村に向かう予定みたいです」
「ああ、またこの家で合流するのか、なるほど」
またしても勝手に合流地点にされたカークおじさん宅だけど、もはやカークおじさんも何も言わんな。
「スカーレットさんは今もラフトの町に滞在しているそうですし、むしろ急いで僕達がラフトの町に向かわなきゃかと思っていたのですけどね」
「あぁ、それで一週間の滞在予定だったのか」
しかしスカーレットさんから『私もカークおじさん宅でダラダラしたい。やっぱり私もカーク村へ向かう』とのことで、僕達はスカーレットさんの到着を待つことになった。
こうなると、もうカークおじさん宅での滞在期間は読めない。いつスカーレットさんが村に到着するのか、そしてそれから何ヶ月カークおじさん宅に滞在するのか、もはやまったく読めない。
「それにしても、勇者様はまだ町にいるのか?」
「そうらしいです。前回の旅から、ずっといるみたいですね」
「それはまた、ずいぶん長いこといるんだな……。大丈夫なのか?」
「さぁ……」
もうかれこれ九ヶ月くらいほっつき歩いている計算になるのかな……。人界の勇者として大丈夫なのか、確かに心配ではある。
「しかしですね、どうやらそれにも理由があるらしく……」
「理由? 勇者様がずっとラフトの町に滞在していることに、何か理由が?」
「そうなんですよ……。実はここだけの話、なんでもラフトの町に――暗黒竜が現れたらしいのです!」
「暗黒竜が!?」
「暗黒竜です!」
再びの暗黒竜! なんとラフトの町に暗黒竜が――!
「……あれ? でも確か暗黒竜って、勇者様の友人なんだよな?」
「そうらしいですね」
なんとなく『王都に続き、ラフトの町にも魔の手が!?』みたいな雰囲気で話してしまったが、なんのことはない、友達がまた遊びに来たってだけだ。
「そんなこんなで、とりあえず暗黒竜が魔界に戻った後で、スカーレットさんもカーク村に向けて出発する予定っぽいです」
「なるほどなぁ……」
っていうのが、最後の通話でのやり取りだ。
あれから一週間。今はどうなったのか。まだ暗黒竜は帰っていないのか。スカーレットさんはまだラフトの町にいるのか。それとももうカーク村へ向けて出発したのか……。
「というか、僕も暗黒竜に会ってみたいんですけどねぇ」
なんなら暗黒竜が滞在中の今こそラフトの町へ向かいたかった。そして暗黒竜に会いたかったなって、そんな気持ちもちょっぴりあったり……。というかだいぶあったり。
「そうなのか? 俺はどうかな……。いくら勇者様の友人だとしても、暗黒竜って名前が名前なだけに、ちょっと怖いかな」
「ふむ……。確かにそうかもしれません。怖いと言えば怖い。何も知らない今の方が、むしろ幸せなのかもしれないですね……」
「うん……?」
きっと暗黒竜さんは美女なのだと考えている僕。半ば確信している僕。
とはいえ、万が一にも違ったらどうしよう。本当にただの竜だったらどうしたものか……。怖いね。真実を確かめるのが、少し怖い……。
「こんな臆病な僕を、笑ってくださいカークおじさん……」
「いや、俺もアレクと一緒だ。やっぱり怖いものは怖いさ」
「そうですか……」
どうやらカークおじさんも、暗黒竜が美女だと期待しているらしい。
はてさて、実際はどうなんだろうねぇ……。
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