第612話 総集編12 ――エルフ土産
「――お土産があります」
「うん?」
テントを片付けてカークおじさん宅へ移動し、一息付いたところで僕はそう切り出した。カークおじさんにお土産があるのです。
「お土産って言うと……」
「エルフ界のお土産。――エルフ土産です」
「エルフ土産……」
カークおじさんにはいつもお世話になっているからね。そして今回もこれからお世話になるわけで、やはりお土産は欠かせない。
「いくつか持ってきたので、喜んでいただけたら幸いです」
「ああ、正直ちゃんと喜べるか不安だけど、気持ちは嬉しいよアレク……」
ふむ。カークおじさんが何を不安がっているかは不明だが、とりあえず用意した物を出していこうか。
「まずはこちら――ミリアムスペシャルです」
「おお、これは嬉しいな。いつもありがとうな」
「いえいえ」
ミリスペファンのカークおじさんのために、今回も茶葉を袋詰めして持ってきた。こちらは素直に喜んでくれているようで、僕としても嬉しい限りだ。
「ちなみにですが、ミリアムスペシャル760だそうです」
「あぁ、確かちょっとずつ改良を重ねているんだったか。じゃあ前回のとは少し違うのかな? 楽しみだな」
「そうですねぇ……」
まぁ正直僕は違いがそこまでわからんのだけど……。あるいはミリスペファンのカークおじさんならば、細かな違いに気付けたりするのだろうか……。
「しかし760とは、ずいぶんと大きな数だな」
「ええまぁ……。ちなみにですが、この数字が母の年齢と関係しているとか、この数字から母の年齢を推測できるとか、そんなことは決して――」
「ん? アレクのお母さんは760歳なのか?」
「あわわわわ」
「え?」
な、な、なんて恐ろしいことを言うのだカークおじさん! むしろ僕は推測するなと伝えたかったのに!
というか、その推測は大間違いである! 口に出すのも憚られる間違いだ! さすがに760歳はいかん!
「……えぇと、間違っても760歳なんてことはないです。それは違います。大体一年に二回のペースで改良されているので、2で割ると母の年齢に――って、何を言わせるのですか。それはダメです。禁句です。母に対して年齢の話は禁句で、母の年齢を探るなんてもっての外です」
「そ、そうか……」
危ないところだった。危うく遠く離れたメイユ村の母から、『今、母はひどい侮辱を受けた気がします』と怒られてしまうところだった。
「……さておき、とりあえずお茶は美味しいはずなので、楽しんで飲んでください」
「おぉ、ありがとうな」
「では次ですね。次のエルフ土産が――パンです」
「パン……? ああ、パンか。それも毎回持ってきてくれるよな。確か前回は、隣村のパンだったか?」
「そうですね。前回はルクミーヌ村のルクミーヌパンをお土産に持ってきたはずですが、今回は――クレイスパンです」
「クレイスパン――というと、クレイス村のパンか?」
「その通りです」
旅の出発前に寄って、作ってもらったのだ。出発前の忙しい最中に、一日がかりで準備を――
……うん? よくよく考えると、出発前じゃなくてもよかったか? メイユ村さえ出発すればいいのだし、出発後にクレイス村に寄って、それから作ればよかったのかな? ……なるほど、そのルートは気付かなかったな。
「クレイス村か。メイユ村から結構遠いのか?」
「あー、まぁそれほどではないですね。一日あれば行って帰ってくることができます。ルクミーヌ村も隣村ですが、クレイス村も隣村なんですよ」
「へー? じゃあ村の方向が違う感じか?」
「そうですそうです。――あ、それで言うとカーク村も隣村ですね。メイユ村の東がルクミーヌ村で、南がクレイス村、北がカーク村ということになります」
「ほー、一応は全部隣村なのか」
メイユ村はエルフ界の最北端にあるので、そういう位置関係になる。
もっと正確に言うと、北東の隣村がカーク村かな。たぶん北西には魔界の隣村とかもあるはずなんだけど、詳しくは知らんなぁ。
「ちなみにですが、この三つの隣村は、もちろんカーク村が一番遠くて、そもそもエルフ界を飛び越えた場所にあるわけですが――僕が初めて訪れた村の順番で言うと、ルクミーヌ村、カーク村、クレイス村という順になっております」
「……順番おかしくないか?」
「そうなんですよね……。なんというか、すべてはエルフの掟が原因でして……」
「掟か……」
「掟です」
掟により、こんな順番になってしまった。僕だって驚いたさ。一番近くのルクミーヌ村にしか行ったことがなかったのに、いきなり世界を旅してこいと命じられたのだ。
なんならルクミーヌ村の後は――カーク村、ヨーム村、ローナ村、スリポファルア村、ラフトの町と回ってからのクレイス村である。エルフの村々もよく知らないまま、人界に飛び出していった形だ。カークおじさんの言う通り、わりとメチャクチャな順番だと思う。
「そんなこんなで、実はつい最近まで寄ったことがなかったクレイス村ですが――しっかりペナントは用意してもらいました。どうぞお受け取りください」
「おぉ……」
「これも飾ってあげてください」
「あぁ、ありがとうな……」
貴重なクレイス村ペナントである。まだまだ数も少なく、人界でこれを持っているのはカークおじさんだけとなるだろう。おめでとうカークおじさん。
「そして次のエルフ土産が――」
「まだあるのか……」
「おっと、これは良い物ですよ? 普通に良い物です」
「ん、そうなのか? なんだ?」
「白いお皿です」
「お皿?」
例の白いお皿だ。新春パン祭りでも大好評を博した白いお皿を、マジックバッグから取り出してカークおじさんに提示した。
「へー? 良いじゃないか。なんだかオシャレだな」
「そうでしょうそうでしょう」
みんなに好評だよね。みんなオシャレで良いと言ってくれる。さすがは白いお皿。
本当なら新春パン祭りの抽選でしか手に入らないお皿ではあるのだが、人界に住むカークおじさんは、そもそも抽選を受けられないわけで……だからまぁ、いいじゃない。ここは特別にサービスしてあげてもいいじゃない。
「というわけで、カークおじさんに白いお皿をプレゼント――したいところなのですが」
「うん?」
「しかしですね。今回エルフ土産として持参したのは、そのお皿よりももっともっと良いお皿なのです」
「そうなのか? これよりも良いお皿?」
「それが――こちらです」
僕はもう一枚お皿を取り出し、カークおじさんに提示した。
「どうぞ貰ってください」
「…………」
お皿をじっと見ながら、言葉を失うカークおじさん。
しばらくして、ようやく絞り出した言葉が――
「これは……なんだ? というか、誰だ……?」
「父です」
「父……? アレクのお父さんか?」
「そうです。僕のお父さんの顔が描かれたお皿です」
とてもリアルな父が描かれているお皿である。とてもリアルな父が、お皿の底でにっこりと微笑んでいる。
「そんな父の皿、セルジャン皿を今回は特別にプレゼント――」
「できたら、何も描かれていないお皿の方をくれないかな……」
何故なのか。
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