第605話 出発当日、誕生日前日
世界旅行の出発が一週間後と決まり、それまでにしっかり準備を整え、万全の状態で出発日を迎えるのだと意気込んで、実際に準備を始めてから――二週間が経過した。
……うん。二週間だね。一週間後に出発のはずが、なんかもう二週間経っていた。
準備に手間取り、なんやかんやで二週間である。出発延期を無駄に繰り返して、今日がようやく出発日だ。
「というわけで、ユグドラシルさんにも迷惑を掛けてしまいました。申し訳ございません」
「ふむ。まぁわしは構わんが」
急な予定変更で、同行予定のユグドラシルさんにも迷惑を掛けてしまった。
ちなみに予定変更は二回。一週間後の予定だったのが十日後の予定に変わり、十日後の予定だったのが二週間後の予定に変わり、その度に教会へ赴き、ユグドラシルさんに予定変更を伝えることになった。
都合により予定を変更してお送りしますってな感じだ。誠に申し訳ない。
「まぁよいではないか。こうして誕生日前に出発できるのじゃから」
「ええまぁ、そこはなんとかギリギリ間に合いましたが……」
出発が今日これからで、僕の誕生日が明日。本当にギリギリのタイミングだった。
……というより、ひょっとすると僕の中に『とりあえず誕生日にさえ間に合えばいいんじゃね?』的な感覚があった可能性も否定できない。それで心に油断が生まれ、ダラダラと準備を進め、結果ギリギリになってしまった可能性が無きにしも非ず。
「それで、準備はもう万端なのじゃな?」
「ええはい、そこはしっかり準備しました。今回こそは結構な長旅になりそうですし、それはもう万端で万全です」
「ふむ。それは何よりじゃ。――試しに聞いてもよいか? 実際には、どんなふうに準備をしておったのじゃ?」
ほほう? そこを聞きますか。そこを聞いてくれるのですかユグドラシルさん。そこは僕的にもいろいろと話したいことがありまして――
……まぁ急な出発延期を二回も叩きつけられたわけで、そりゃあユグドラシルさん的にも聞きたいことではあるかな。
「とりあえず荷造りですよね。何が必要で何を持っていくか、じっくり考えていました」
「ふむふむ。荷造りか」
「基本的に僕の旅は、カークおじさん宅かラフトの町の宿で待機する時間が長いので――というかそればっかりなので、室内で暇をつぶせる遊具とかをしっかり準備しました」
「…………」
今までに作った木工シリーズの中でも、ギターとかトランプとかの遊べるシリーズを吟味して、あとはやっぱり木工道具かな。僕の場合、これがあればどれだけでも暇を潰せるわけで――
……うん。いの一番に室内での暇つぶしグッズを紹介してしまったばっかりに、ユグドラシルさんも微妙に呆れ顔をしている。
「いや、ちゃんとした荷物もあるのですよ? ちゃんと真面目に荷造りもしていて、例えば――お土産とか」
「お土産?」
「カーク村やラフトの町の人達へのお土産とかも準備していました」
「えぇと、まぁそうじゃな。そういうのも確かに大事か……? それでアレクはお土産に何を用意したのじゃ? アレクからのお土産と聞くと、何やら不安しかないのじゃが……」
どういう意味か。
まぁ普通ですよ。普通にちゃんとしたお土産です。
「とりあえず――パンですよね。メイユパンとルクミーヌパンとクレイスパンを用意しました。日持ちするパンを焼いてもらい、焼き印を押してもらいました」
「アレクはパンが好きじゃのう……」
別にそういうわけでもないんだけれど……。でもやっぱりお土産と言えばこれかなって……。
それにしても、このパン何気に時間掛かったよね。クレイスパンとか、行って焼いてもらって帰ってくるのに一日がかりだもんな。
「あと、荷造り以外のところで、いろんな人と打ち合わせをしていました」
「打ち合わせ? ほう。そういう準備もあるのか」
「特にナナさんですね。僕の留守中、ナナさんにはいろいろと任せることになるので、そのお願いをしていました。今後のダンジョンの予定なんかも話し合いましたね」
これからダンジョンにどんなエリアを追加していくか、軽くダンジョン会議を開いたりもしていた。
あとは適当に村でイベントとか開けそうなら、父やジェレパパさんやユグドラシルさんを頼りつつ、なんか楽しいことできたらいいねって話もしていたかな。
「それと、ディースさんとミコトさんとも打ち合わせをしていて……特にディースさんは今回の旅に同行するか否か、だいぶ悩んでいましたから」
「あぁ、そういえば四人で会議をしたのう。あのときもディースは悩んでいて、結論が出ない様子じゃったが……」
そうですねぇ。二週間前にやった神会議ですね。
もはや懐かしさすら覚える神会議。結局グダグダで大したことは決まらなかった神会議。
「あれ以降も話し合いを続け、結局のところディースさんは――――天界に戻ることに決まりました」
「うむ。そうらしいのう」
「そして、天界から僕を見守ると……」
「そうか……」
とりあえず今回の旅は不参加と決めたが、それならば天界に戻るとのことだ。そして僕を見守ると。
下界に降りて、僕と一緒に生活するのも素晴らしいが、天界から僕を眺めるのも、それはそれで乙なものらしい。なんかそんなことを言っていた。
「もうお別れも済ませて送還したので、今も天界から見ているはずです」
「今もか……」
なんとなくユグドラシルさんと二人で天井を見上げてみる。僕達の視線の先は、なんの変哲もないただの天井だが、きっと今もディースさんは天界から僕達を見守ってくれているのだろう。
なんとなく手を振ってみたり。たぶん天界でディースさんも手を振りかえしてくれているはずだ。
「それで結局、ディースさんは天界へ戻り、ミコトさんは前回同様メイユ村に残ることが決まりました」
「ふむ。結局のところ、旅の面子は前回と同じになったわけか」
「そうですねぇ――あ、そういえばそのあたりのことで、僕も迷っていたことがあるんです」
「うん? 迷っていたこと?」
「そうなんですよ。それが――テントです」
世界旅行中に使うテント。そのことで若干迷っていた。なんなら今もちょっと迷っている最中だ。旅の準備は万端だと豪語していた僕ではあるが、実はやっぱりちょっと迷い中。
「今までのテントって、ちょっと小さめでしたよね」
「ふむ。確かにそうかもしれんな。わしとアレクとジスレアが入ると、少し窮屈じゃったかな」
「元々二人用テントですからね。そんなテントにディースさんやミコトさんまで追加となると……さすがにもう無理ですよね」
そんなぎゅうぎゅうテントはさすがに厳しい。……いや、まぁ僕的には構わないといえば構わないのだけどね? 最悪それでも別に構わない僕ではあるのだけれど。
「それで一応、もうワンランク大きめのテントを購入しておいたのです」
「ほー、そうなのか。なるほど、それは確かに必要な準備じゃったな」
「ですよね? しっかりその準備もしていたのですが……でも結局ディースさんもミコトさんも不参加となり、そうなるとテントはどうしたものかと……」
じゃあやっぱり今までのテントでいいのかなと思い、旅用のマジックバッグには小さめテントを詰めておいた。
そして大きめテントの方は、部屋のマジックバッグの中に放置されているわけだが……。
「でもせっかく買ったのに使わないのは、ちょっともったいない気もするんですよねぇ」
「ふーむ……。それならば、大きいテントでよいのではないか?」
「そうですかね。そう思います?」
「うむ。それだけ広々と使えて、ゆったり眠れるわけじゃろう?」
「んー、そうですね、そうなんですよね。――うん。じゃあそうしますか」
確かにユグドラシルさんの言うとおりだ。ユグドラシルさんが背中を押してくれたことだし、やっぱり大きめテントかな。
僕は旅用マジックバッグに詰めていた小さいテントを取り出し、部屋のマジックバッグに片付けた。
そして今度は、部屋のマジックバッグに眠っていた大きめテントを取り出して、ユグドラシルさんに披露した。
「これが今回買った大きいテントです。では今回の旅は、こちらを採用ということで」
「うむ。大きいテントにしても、デメリットはないのじゃろ?」
「デメリット? あー、デメリットと言うと……設営に時間が掛かりますね。やはり大きい分だけ設営が大変です。そして片付けるのも大変です」
そこがデメリットと言えばデメリット。試しに一回設営してみたんだけど、ちょっと苦労したんだ。
「む。そうか、その問題があったか……。となると、難しいところじゃな。テントは毎日設営し、毎日片付けるわけで、そこで毎回苦労するのは避けたいか……」
「……じゃあ、やっぱりやめますか?」
「うーむ……」
どっちがいいか、わからなくなってきたな……。やはり悩みどころ。ずっと悩んでいたが、結局いつまで経っても悩みどころ。
そんな感じで悩みつつ、大きいテントと小さいテントを旅用のマジックバッグに詰めたり出したり、部屋のマジックバッグに詰めたり出したり……。
「まぁ悩むのは構わんが、これで結局どっちのテントも家に忘れるとか、そんなことはないようにな?」
「はっはっはっ、やだなぁユグドラシルさん、大丈夫ですって」
やめてくださいよユグドラシルさん。無駄に旅を延期して、二週間も準備してきたんですよ? だというのに旅で一番大事なテントを忘れるとか、そんなことがあるわけないじゃないですか。
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