第61話 僕とローデットさんのコンビネーション
眠りから目覚めたローデットさん――もとい、叩き起こされて涙目のローデットさんとともに、僕らは応接室に移動した。
僕とユグドラシルさんは並んでソファーに座り、ホスト側のローデットさんが対面のソファーへと座る。
ようやく落ち着いて話ができるかと思ったが、始まったのはユグドラシルさんからローデットさんへのお説教だ。
お説教の内容は――礼拝堂で寝ていた件や、僕がバラしてしまった普段の勤務態度の件、加えて応接室を完全に私物化している件など……。
教会に入る前は『ちょっとねぎらってやるだけ』と、ユグドラシルさんは言っていたが、真逆の結果になってしまった。
ねぎらわれるどころか叱られっぱなしのローデットさんをさすがに不憫に思い、僕は助命嘆願に乗り出した――
「いやその、こういうローデットさんの朗らかな部分がですね、村の人達に愛されている所以でして――」
「愛されてますー……」
「なんというか、教会というものを堅苦しく捉えず、自然に接することができる。そういう効果もですね――」
「あると思いますー……」
「それによって、教会や世界樹様を、より身近に感じられるという結果にも――」
「繋がってますー」
うるさいなローデットさん。合いの手がうるさい。
「はぁ……まぁよい。くれぐれも教会の品位を貶めるような行為は慎むことじゃ」
「はい、大丈夫ですー」
どこからその自信が……。
「ところでそのー……ユグドラシルさんは、世界樹さんの写し身なんですかー?」
「そうじゃ……」
へー、写し身って言うんだ。
「わー、凄いですー。初めて見ました、小さいんですねー?」
「…………」
さすがローデットさんだ。ユグドラシルさんが圧倒されている……。
さっきまでは涙目でお説教を受けていたのに、許されたと見るや、この気軽さ……。
「……ま、まぁ、こういう誰に対しても明るく友好的なところが、ローデットさんの美点でして――」
「美しい点ですー」
「もうそれ止めい!」
なんだかコンビ芸みたいになり始めた僕のフォローとローデットさんの合いの手だったが、ユグドラシルさんはお気に召さなかったようだ。
「それにしても、アレクは妙にローデットを庇うというか、お主ら仲がいいのう」
「はい、仲良しなんですー。アレクさんはいつも私に会いに来てくれて、お金を――」
「鑑定してもらっているんです! 教会はちょくちょく鑑定してもらいに来ていて、ローデットさんとは頻繁に会うので、それで……」
僕は慌ててローデットさんの言葉を遮った。
たぶん子どもからお金を巻き上げる行為は、教会の品位を貶める行為だと思うから……。
「今、お金がどうのと……」
「ま、まぁまぁ……」
「そういえばアレクさん、今日は鑑定しないんですかー?」
疑念を抱いたユグドラシルさんを誤魔化していると、ローデットさんが尋ねてきた。
そりゃまぁ、せっかく教会に来たのなら、鑑定したいところではある。
とはいえ、今日はユグドラシルさんのコーディネーター兼ボディガードだからな。私的な行動は慎みたい。
「いえ、今日はユグドラシルさんの案内ですので」
「別に構わんぞ? いつもやっておるのじゃろ? したらよい」
「あ、そうですか……? えぇと、じゃあ、ちょっとお願いしてもいいですかね?」
僕はユグドラシルさんの厚意に甘えて、鑑定をすることにした。
というわけで、いつも通り硬貨を取り出し、ローデットさんへ手渡す――
「では、こちらをどうぞ」
「ありがとうございますー」
「いえいえ――あ」
「…………」
ユグドラシルさんが見ているというのに、いつもの流れでお金を渡してしまった……。流れるようにお金を渡してしまった……。
長年の習慣とは恐ろしいな。ついさっきは自分で誤魔化したというのに……。
「や、やっぱり労働には対価が必要だと思うんです……」
「それはそうじゃが……」
ローデットさんが立ち上がり水晶を取りに行っている間に、僕はユグドラシルさんに弁解する。
「いや、ローデットさんも最初は遠慮したんですよ? 僕が無理を言って受け取ってもらっているんです」
「そうは見えんかったが……」
「それに、こういった寄付がないと、教会も成り立たないのでは?」
まぁ、この寄付は教会へ流れていないと思うけど。
「うーむ……。しかし、子どもから金を取るのは……」
「いえ、僕も中身は中年男性ですから……」
自分で中年男性って言うのもなんだかなぁ……。
「むー……」
「どうしたんですかー?」
ローデットさんが水晶を持って戻ってきた。
ユグドラシルさんはまだ納得いかない様子だったが、僕は強引に話題を変えることにする。
「いえ、なんでもありません。さぁ鑑定、鑑定しましょう! たぶんペース的に、もうすぐレベルが7に上がると思うんですよね?」
「頑張ってくださいー」
「ありがとうございます」
「むー……」
ユグドラシルさんはまだむーむー言っていたが、僕は鑑定のため、水晶に魔力を流す。
さぁどうかな? 本当にそろそろレベル7に上がるころだと思うんだけど――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:8(↑1) 性別:男
職業:木工師見習い
レベル:8(↑2)
筋力値 5(↑2)
魔力値 3
生命力 5(↑2)
器用さ 12(↑2)
素早さ 2
スキル
弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv1
スキルアーツ
ニス塗布(木工Lv1)
称号
剣聖と賢者の息子
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
何故か僕のレベルは、二つも上がっていた……。
そのことに驚く僕とローデットさん。そして、あまり状況を理解していないのか、僕らが驚いた様を不思議そうに見るユグドラシルさん。
というか、僕も状況がわからない。なんでいきなりレベルが二つも上がっているんだ?
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