第598話 無限お皿地獄
――ホムセンである。
いろいろと用事があり、今日はジェレパパのホムセンまでやってきた。
「こんにちはー」
まずは元気に挨拶をしながらホムセンの扉を開けると、ちょうどジェレパパさんが店番をしていたらしく――
「…………」
「……え、どうしました?」
お店のカウンターから、えらく怪訝そうな顔で僕を見てくるが、何をそんなに警戒しているのか……。
「……なんか厄介事もってきただろ?」
「…………」
何故なのか。ただただ普通に来店しただけなのに、何故そんな疑いを掛けられなければいけないのか。
「急になんですか、いったいどうしたというのですか」
「ツラでわかるわ。今から俺に厄介事を押し付けようってツラをしてやがる」
「いやいや、別にそんなことは――」
「またあれだろ、無限なんちゃら地獄を俺にやらせようとしてんだろ」
「…………」
「あ、やっぱそうじゃねぇかよ! またかよ!」
……ふむ。ついつい黙ってしまったのがまずかったな。図星だと見抜かれてしまったようだ。
というか、ツラでわかるのか……。果たして僕はどんなツラを下げてお店に入ってきたのだろう……。
「まぁまぁ、ちょっと聞いてください。実は作りたい物があるのですよ」
「作りたい物ってお前……」
「たぶん村のみんなにも喜んでもらえると思うんですよね。それでジェレパパさんにも手伝ってほしくて――ちょっと待ってください、今サンプルを出します」
「お、おう……」
――てな感じで、少々強引に話を進めた。
このように強引にでも話を進めていくと、なんかいつの間にかジェレパパさんも手伝ってくれる流れに持ち込めるのだ。いつもありがとうジェレパパさん。
「それで――これなのですが」
「あん? なんだ? 皿か?」
「そうです。木製のお皿です」
「ずいぶんと薄い皿だな。これじゃあすぐに欠けちまわねぇか?」
「ええまぁ、確かにこれだけ薄いと、少し力を入れただけで割れてしまうでしょうね。このお皿で食事をするのは少々難しいかもしれません」
「だよな。じゃあなんだ? どう使うんだ?」
「見ていてください。これをですね――『ニス塗布』」
お皿に『ニス塗布』を発動。これにより、すぐにでも欠けてしまいそうだった木製の薄いお皿が、あっという間に強くて美しい例の白いお皿へと早変わりである。
「へー? すげぇな。『ニス塗布』で作る皿か。触ってみてもいいか?」
「もちろんです。どうぞどうぞ」
僕が頷くと、ジェレパパさんはお皿を手に取り、しげしげと全体を眺め、指で軽くコンコンと叩いて硬さを確かめた。
「なるほどなぁ。強度も十分ありそうだし、見た目も良いな。わかんねぇけど、いろんな料理が映えそうじゃねぇか?」
「ありがとうございます。そうですね、良いお皿ですよね。……この白いお皿も、悪くはないですよね」
「あん?」
このシンプルな白いお皿ってのも、それはそれでありだと思う。前世でも人気のデザインだった。
とはいえ、僕的にはもうちょっと別のデザインも考えていたわけで……。
「本当はお皿の底に父の顔を描こうとしたのですが、父から激しい抵抗に遭い、泣く泣くその案はボツとなりました」
「またそんなことしてたのかよ……。なんで坊主はいろんな物にセルジャンの顔を描きたがるんだよ……」
「父も喜んでくれると思ったのですが」
「抵抗されてんじゃねぇか……」
そうなんだよね。どうも父は喜ぶよりも、恥ずかしがってしまうことの方が多くてねぇ。
「そんな感じで見た目はシンプルなものになりましたが、家族からの評価は上々です。試しに一週間ほど使ってみましたが、食事にも問題なく使用できます」
これでやっぱりダメでしたーとかなったら、計画を最初から練り直さなきゃだからね。一週間の試用テストを経て、問題がないことも確認できて、いよいよこれから量産体制に入りたいと考えているのだ。
「きっと村のみんなも喜んでくれるはずで、できるだけたくさん数を用意したいんですよ」
「……たくさん?」
「たくさんです」
「たくさんってのは、いくつだ……?」
ふむ。やっぱりそこだよね。そこが問題だ。いったい何枚お皿を作ればいいのかって問題がある。
でもさ、やっぱり今回が初めてのお皿だし、そりゃあもうたくさん用意したい。できるだけたくさんプレゼントしたい。というわけで――
「500枚くらい作りますか」
「…………」
なんかジェレパパがフラッてなった。フラッと後ろにぶっ倒れそうになった。なかなか良いリアクションである。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇよ……。500枚って、本気で言ってんのか……?」
「まぁ大丈夫ですよ。納期まで、まだあと一ヶ月以上あるので」
「全然大丈夫じゃねぇだろ……」
大丈夫大丈夫。二人で一生懸命頑張ればきっと大丈夫。500枚だとすると、二人で一日17枚作れば大丈夫な計算に――
……結構大変かな? だいぶ大変な気がしてきた。あんまり大丈夫じゃないかもしれない。
「ちょっと厳しいですかね?」
「ちょっとどころじゃねぇだろ……」
「んー、わかりました。では――300枚にしましょう」
「多いなぁ……。それでも全然多いぞちくしょう……」
まぁまぁ、これなら一日10枚作ればいいだけですよ。きっといけるはずです。二人で頑張りましょう。
「じゃあそうですね、とりあえず僕が100枚、ジェレパパさんが200枚ということで――」
「なんでだよ」
「え? あ、はい、それじゃあ僕が50枚、ジェレパパさんが250枚ということで――」
「なんでだよ! 違ぇよ!」
え、あれ? 違うの? てっきり僕を気遣って『アレクが100枚? なんでだよ。それじゃあアレクが大変だろ。もっと俺に任せろ』的なことを言ってくれたのかと思ったが、別にそういうわけではなかったらしい。
「なんで俺の方が多いんだよ。というか50と250って……。無茶苦茶言うなお前……」
「でも僕も大変なんですよ……。当然ニス塗りは僕の役目になるわけですが、このニスは硬さを出すために結構な魔力を込めて慎重に作業しなくちゃならなくて……」
何気にニスを塗るだけでも大変なんだ。おそらくだけど、魔力回復薬とかを飲みながら作業することになるんじゃないかな……。でもさ、やっぱりそこはサボれないところだし……。
「それに、引換券も作らなきゃですし……」
「引換券?」
「そうです。300枚お皿を作るということは、引換券も300枚用意しなければいけないわけで――」
「なんの話だ?」
「んん?」
あ、そっか。よくよく考えると、パン祭りの景品って話もしていなかったか。それすら端折って、流れで話を進めてしまっていた。
……やっぱり流れってすごいな。そこの詳しい説明もせずに、なんかいつの間にか手伝ってもらう流れに持ち込めたもんな。
「あー、これって、新春パン祭りでプレゼントしようと思っているんですよね」
「パン祭り? あぁ、あれか、セルジャンがパン撒くやつか」
「そうです。そのおまけとして、この白いお皿です。抽選でプレゼントを考えていまして――これですね。これが引換券です」
僕はマジックバッグから小さなプレートを取り出し、カウンターへ置いた。
かんなくずと『ニス塗布』で作った引換券で、表には『白いお皿、引換券』と書かれている。
「今回もパンを紙に包んで撒く予定なのですが、その中に、この引換券を一緒に入れた物も撒こうと考えてます」
「あー、そんな仕組みなのか」
「というわけでして、僕はお皿を作って、お皿にニスを塗って、引換券も作らなきゃで、あとパンの発注や交渉もしなきゃで……」
何気に忙しい。無駄に忙しいのだ。……元はと言えば、『大シマリスのジェイド君も頑張っているし、なんか僕も真面目に頑張りたいよねー。ちょっと早いけど、パン祭りの準備でも始めるー?』みたいな感じで始めたはずが、気付けばむしろ余裕がなくなりつつある。一ヶ月という準備期間が、むしろギリギリに思えてきた。
「くっそ、じゃあやっぱり俺なのか。俺の方がだいぶ多めに作ることになんのか……」
「申し訳ありません……。なので、とりあえず僕が100枚、ジェレパパさんが200枚でいかがでしょう」
「200か……。200なぁ……」
でもほら、別に僕も100枚きっかりで終わらせるつもりもないですから。余裕ができたら、僕ももっと作りますから。
……まぁ余裕がなかったら、ジェレパパさんのノルマがさらに増えそうな予感もするけど。
さておき、これから一ヶ月ちょい、二人で頑張っていきましょう。無事に無限お皿地獄を乗り切るべく、二人で一緒に頑張りましょう!
「……あれ?」
「はい?」
「おい、なんかいつの間にか俺も手伝う流れになってねぇか?」
――バレた!
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