第593話 ラブコメ回9 ――結婚
「ふーむ……。これはこっちで、こっちはここで……」
「アレクー」
「うん?」
自室にて、僕が細々とした作業をしていると、部屋の外から僕を呼ぶ声が聞こえた。
返事をしながら扉を開けると――
「うーす。遊びに来たよー」
「やぁやぁディアナちゃん、いらっしゃい。中へどうぞ」
「ういういー」
ディアナちゃんだ。遊びに来てくれたとのことで、僕も笑顔でディアナちゃんを部屋の中に招き入れた。
「じゃあ椅子に――あ、ごめんね、ちょっと散らかってて」
「おう? 何してたの?」
「あー、それがねぇ……」
なんというか、地味で細々とした作業をちょっとね……。
「実は昨日、ルクミーヌ村へ寄ったんだけど――」
「……会ってないけど?」
「ん?」
「アタシはアレクと会ってないけど?」
「あ、うん……」
ウチのシマに来たってぇのに挨拶のひとつもなかったと、ディアナちゃんがご立腹の様子である。
「えぇと、用事でちょっと寄っただけだから……」
「ふーん……? 用事ってのは?」
「うん、なんでもルクミーヌ村の村長さんが僕に話があるってことで、それで村長さんの家に――」
そこまで話したところで、ディアナちゃんは顔色を変えて、ぷるぷると震え始めた。
「またか、まーたあのババアか……」
「…………」
口が悪いなぁディアナちゃん……。
どうにもディアナちゃんとルクミーヌ村の美人村長さんは相性が悪い。顔を合わすと喧嘩ばかりで、話題に挙げるだけで不快感をあらわにして……。
いや、まぁそれもディアナちゃんだけなんだけどね。村長さん側はそんなこともなくて、ディアナちゃんが一方的に対抗心を燃やしているだけだ。
「で、何? 家に連れ込まれて、変なことでもされたの?」
「いやいや、そんなことは――――いたい」
否定したはずなのに、何故か肩パンをいただいてしまった。
「何故に……」
「変なことを想像していたから」
「えぇ? 別に想像なんて――」
「その上で、なんか嬉しそうな顔をしてたから」
「嬉しそうな顔て……」
というか、むしろ想像させようとしたのはディアナちゃんじゃなくて? ディアナちゃんの言葉に惑わされ、ついつい僕も変な想像をしてしまい、それに照れてしまっただけで、むしろ僕の方が被害者と言えなくもない? うん、そうだな。きっとそうだ。僕は悪くない。
「さておき、別に連れ込まれたわけじゃないからね? 僕から話を聞きに行っただけで、そもそも村長さんの話というのも、別にいかがわしい話じゃなくて――」
「じゃあさ、またどうせあれでしょ? ルクミーヌ村の村長になれとか、どうせそんなことを言われたんでしょ?」
「あー、それも言ってたねぇ……。まぁ冗談だとは思うんだけど、もうすぐ僕も二十歳になるから、それを機に村長就任したらどうか、みたいな感じで……」
確かにエルフ界も二十歳で成人って決まりにはなってるけど、それでもエルフの二十歳なんて若造も若造だ。さすがに村長は無理な気がする。それはさすがに時期尚早。
……いや、そもそも村長になるかどうかすら僕は決めてないし、それにもしも村長になるなら、ルクミーヌ村じゃなくてメイユ村の村長なんじゃないかって感じもするけれど。
「やめときなよアレク……。どうせあのババアが狙っているのは、引き継ぎと称してアレクとのつながりを持ちたいだけなんだから。なんなら『私と結婚してくれ。そうしたら私の後任という形で、夫のアレクを村長に推薦する』みたいなことを言ってくるんじゃない?」
「えぇ? まさかそんな展開に? ――いたい」
再びの肩パンである。
「何故に……」
「まんざらでもなさそうな顔をしていたから」
「いやいや……」
というか、そろそろやめようディアナちゃん。当の村長さんは何も言っていなくて、諸々ディアナちゃんの妄想だからさ……。
その妄想に付き合わされて、僕まで『家に連れ込まれて変なことされたらどうしよう』とか『プロポーズされたらどうしよう』なんて妄想をしてしまっていることに対し、なんとも言えない気持ちになってくるから……。
まぁたぶん村長さんは、真っ当にルクミーヌ村の未来を考えているだけなんじゃないかな。
だって僕とか、今までにいろいろと村興しをしてきたでしょ? 木工でいろんな玩具や道具を作ってきたし、ダンジョンにもいろんな施設を建てて、パン祭りやユグドラシルさんの公開ワイン作りなんてイベントも開いてきた。
おそらく村長さんは、その部分で僕に期待しているんじゃないかな。そういうことを僕に求めているんじゃないかなって――
「あのババアが本当に求めているのは、アレクの金だから」
「…………」
「アレクはお金持ちで、資産があって、その金を求めてるの。玉の輿を狙っているだけ」
そんなことは……。というか、僕じゃなくて僕の金を求めているだけってのは、わりとひどいことを言われている気がする?
「そんなババアよりも――アレクは目を向けるべき女の子がいるんじゃない?」
「うん?」
「もっと近くにさ、もっと純粋にアレクを見てくれる女の子がいると思うんだよね。お金なんて関係なくて、ただただアレクのことが好きで……。その子と結婚した方が、アレクは幸せになれると思う。きっとアレクも、その子のことが好きなんだし……好きだよね?」
「そうだね」
「お、おう」
僕の返答に対し、照れた様子を見せるディアナちゃん。
――うむ。何やらいろいろあったが、最終的にはラブコメに落ち着いたような気がする。
しかしこのやり取り……。いつものやり取りではあるが――
なんかもう今までに何十回もこのやり取りをこなしてきたわけで、今までのやり取りをまとめると、何やらとんでもない数の、とんでもなく重要な約束を交わしてきてしまったような気がしないでもない……。
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