第545話 検問で一悶着起こしてみる
スカーレットさんに人力車とヘズラト君を奪われてしまい、わりと本気でカークおじさん宅に戻ろうとした僕であったが、ジスレアさんから――
『ダメ。もう出発日は今日と決まった』
と言われ、ペシーンペシーンと背中を押され、スカーレットさんを追って歩き始めることになってしまった。
……まぁ、すぐにジスレアさんから『これは……私が背負って運んだ方がいいかもしれない』などと言われ、さらには『やっぱりカークおじさん宅に戻った方が……?』などと前言撤回されてしまう始末ではあったが、ひとまず歩き始めた。
ちなみに、後ろで僕達にずっと手を振ってくれていたカークおじさんも、『さすがにもう帰ってもいいのかな……。どうなのかな……』などと困り顔をしている様子ではあったが、兎にも角にも歩き始めた。
そうこうしているうちにスカーレットさんが戻ってきてくれて、人力車の席を交代し、ようやく僕達アルティメット・ヘズラトボンバーズの再出発が本格的に始まった。カークおじさんもニッコリして帰っていった。
カーク村滞在時は、出発までグダグダと滞在を続け、こうして出発の際にもゴタゴタしてしまったが、ようやくの再出発。
出発してしまえば後は順調で――僕達はあっという間にラフトの町まで進むことができた。
「素晴らしい速度だったね。いやはや、人力車とは大したものだ」
「ですねぇ。我ながら良い物を作ってしまいました。――まぁ、実際に引っ張ってくれるヘズラト君あってこその人力車ですが」
「ん、それはそうだ。ヘズラト君もお疲れ様」
「キー」
ヘズラト君はスカーレットさんに撫でられながら、『いえいえ、すべては人力車によるものです。私なんて、そんなそんな』と恐縮している。
そんな愛らしいヘズラト君を僕も撫でてあげたいが、荷台の中からではちょっと距離が遠い。気軽にヘズラト君を撫で撫でできないのが、人力車唯一の欠点だな。
さておき、カーク村を出発してから、ヨーム村、ローナ村、スリポファルア村と、順繰り順繰り攻略していって、気付けばもうラフトの町。この距離をたった一週間で走破してしまった。前回のちょうど半分の日数で到着である。
早い。素晴らしく早かったぞヘズラト君。
「そして、いつもの検問ですね」
もう町を囲む壁も見えている。すぐに検問だ。
門番のケイトさんはいるだろうか? お休みで居なかったりしたら、一度出直すくらいの心構えだったりするのだけれど、果たして。
「それでアレク君、どうする?」
「はい? 何がですか?」
「とりあえず人力車で乗り付けて、一悶着起こしてみる感じかな?」
「なんでですか……」
いきなりどうしたスカーレットさん。意味がわからない。どういう理屈でそんな発想に至ったのか。
「毎回到着時には、検問で一悶着起こしているアレク君だと思ったけれど」
「…………」
……確かにそうかもしれない。とはいえ、別に僕だって起こしたくて起こした一悶着ではない。
「だからきっと今回も、一悶着起こしてから町へ入るのかなと」
「いやいや、それは……」
毎回そうだからって、今回もそうする必要はないだろう。むしろ今までのことを反省して気を付けるべきでしょうよ。
無駄に一悶着起こす理由なんて――
「――一理ある」
「えぇ……?」
今までの話に、何故かジスレアさんが理解を示した。
一理あるの? 嘘でしょう? どういう理があるというの……?
「冷静に考えたら、町の中を仮面姿で歩くなんて許されるわけがない。それが許されたのは――その前にもっと無茶な姿を晒したから」
「あー……」
そういえば一番最初は覆面姿で検問に進み、普通に追い返されたんだっけか。
そして前回は、赤い仮面を着用したスカーレットさんがヘズラト君に騎乗した状態で検問に乗り込んで――
……というかスカーレットさんじゃないか。よくよく考えると前回一悶着を起こしたのは僕じゃなくて、スカーレットさんじゃないか。
……うん、まぁとにかくそういう騒動を起こしてからの仮面姿だったわけで、それでケイトさんも『ただの仮面姿なら、前よりはだいぶマシになったんじゃない?』なんて錯覚を起こしていた可能性も、確かにありえない話じゃない。
「もしもケイトが改めて冷静に判断したら、仮面姿でも町に入れなくなるかもしれない」
「なるほど、その事態を回避するために一悶着を……」
どうしよう。理があるように思えてきてしまった。
たぶん間違っているはずなのにな……。どんな理屈だろうが、検問で騒動を起こすのは絶対間違っているはずなのに……。
「何もそこまで大きな騒ぎを起こすつもりはない。町に迷惑を掛けるつもりもないし、ちょっとビックリしてもらうくらいの感じで」
「ふーむ。軽くちょっとだけ一悶着ですか……」
しかし、なんだな。改めて思うのだけど、基本的にこのパーティのメンバーは――ポンコツしかいないな。
こんな提案をしてくるメンバーもメンバーだし、その提案を真に受けてしまう僕も僕で、きっとポンコツなのだろう。
「キー……」
「……うん」
そんな中でヘズラト君だけは、『やめた方が良いのではないでしょうか……』と言っている。
さすがはヘズラト君。アルティメット・ヘズラトボンバーズ唯一の良心。
――でもダメなんだ。他のメンバーはみんなポンコツだから、ヘズラト君のありがたい提言も聞き入れることはできず、一悶着起こす流れに向かってしまっているんだ。
next chapter:毎回毎回一悶着起こすような輩は、もう出禁にした方がいい




