第542話 再結成! アルティメット・ヘズラトボンバーズ!
暗黒竜さんの件について、しきりに説明を端折ろうとするスカーレットさんとの攻防の末、どうにかこうにか大まかな概要を確認することができた。
なんでもその暗黒竜さんはスカーレットさんに会うため、魔界から人界の王都に向けてバッサバッサと飛んでやって来たそうだ。
しかしその時点で結構な騒ぎとなってしまい、王都側から警戒されているのを感じた暗黒竜さんは、とりあえず余計なことはせず、そのうち友人のスカーレットさんがやって来てくれることを期待して王都近くの森に佇んでいたらしい。
ところがスカーレットさんは現れず、そうこうしている間に部下っぽい竜のみなさんが『なんかリーダーが人界で揉めているらしいぞ!?』と勘違いし、暗黒竜さんがいる森に集まってきてしまった。
そうして王都近くで無駄に不穏な空気が流れ始めた頃――ようやくスカーレットさんが王都に到着したとのことだ。
……なるほど。スカーレットさんが今回の件についての説明を微妙に渋った理由が、ちょっとわかった気がする。
かなり早い段階からスカーレットさんへの救援要請っぽいものは来ていたらしいが、僕達の世界旅行に付き合っていたスカーレットさんは、その要請を一ヶ月ほど放置し続けたのだ。
あの放置がなければ、今回の騒動ももっと早く解決できただろうし、無駄に緊張状態を作り出すこともなかっただろう。
しかも、そもそもの騒動の発端は自分に会いに来た友人だというのだから、そりゃあ自分からはちょっと説明しづらい事情なのもわかるというものだ。
「というか、もっと本当に洒落にならない事態に陥っていた可能性もありますよね……。人界と魔界を巻き込む大騒動とかになっていた可能性も……」
「あー、まぁ確かにそうかも?」
「平和的に解決できて良かったです……」
「そうだねぇ。それはそう思う」
こういう些細なすれ違いから全面戦争に突入とか、ない話じゃないものね……。
とりあえず僕としては、人族側にも暗黒竜さん側にも被害が出なくて本当に良かったと思う。
でも改めて考えると、何の気なしにバサバサと王都近くまで突撃しちゃう暗黒竜さんにも問題があるような気がして……。
なんというか、わりとドジっ子っぽい雰囲気も感じるかな? なるほどなるほど、そういうことならば――やはり美女だな。九分九厘美女だ。
「あ、そうだ」
「はい? どうかしましたか?」
「竜のことも解決して、こうしてアレク君と再会もできたし、これを返そうと思うんだけど……」
返す? はて、なんのことだろう?
僕が小首をかしげていると、スカーレットさんは自分のマジックバッグに手を伸ばし、ある物を取り出して僕に見せてきた。
「それは……」
「――アレクブラシ。別れ際にアレク君から渡された、アレクブラシなんだけど……」
「あー……」
そうか、そういえば渡していたな……。
相手が竜ならば、もしものときは使ってくださいと、チートルーレットで手に入れたタワシ――オリジナルのアレクブラシをスカーレットさんに授けておいた記憶がある。
僕がタワシを手に入れたときの妄想――竜をタワシで磨いて窮地を乗り切るという例の妄想。あのときの妄想が実現するんじゃないかなって、あのときの伏線を回収できるんじゃないかなって、そんなことを思って渡したのだけど……。
「えっと、どうでした……?」
「何が……?」
……うん、とりあえずあんまり役には立たなかったみたいね。
◇
「それから集合していた竜達には魔界に戻ってもらって、暗黒竜とはしばらく一緒に居たかな」
「ほうほう。そうですか」
なるほどねぇ。そんな感じでのんびりとガールズトークに花を咲かせていたわけだ。
……まぁ、おそらくスカーレットさんも暗黒竜さんも『ガール』って年齢じゃあないような気もするけど、とりあえず二人とも美女ではあるだろうし、そこは別にいいだろう。
「それから溜まっていた別の依頼をこなして、ようやくカーク村までやってきたんだ」
「ふむふむ。そうですか」
人界の勇者パーティへの依頼が溜まってしまって大変そうって話はジスレアさん経由でも聞いたな。てんてこ舞いだと聞いた気がする。
だとすると、スカーレットさんもなかなかに忙しかった感じかな? 多少は暗黒竜さんとのんびりしていたけど、依頼に追われて忙しない日々を送っていた感じ? いやはや、お忙しい中ありがとうございますスカーレットさん。
「――ちょっと待って」
「うん?」
「大体の経緯はわかったけれど、スカーレットが遅れた理由をまだ聞いていない。何があったの?」
むむ、確かにジスレアさんの言う通りだ。スカーレットさんの伝言の後、実際に合流するまで一ヶ月掛かったわけだが、その理由はまだ聞いていなかった。
僕的には暗黒竜さんのことが聞けて満足したため、そっちは普通に流してしまっていた。サラッと流して心の中で感謝とか捧げてしまっていた。
でも確かに気になるといえば気になる。はて、いったい何があったのだろうか?
「遅れた理由か……。んー、まぁそれはその、なんやかんやあって……」
「…………」
暗黒竜さんのときと一緒である。スカーレットさんは微妙に説明を渋っている様子だ。『なんやかんや』で乗り切ろうとしている。
「何故隠すの? 何を隠しているの?」
「いや、別に隠しているわけではないのだけれど……」
「じゃあ何故?」
「うっ……」
ジスレアさんから厳しく追及されておる……。まぁスカーレットさんが遅れたことに、ジスレアさんはちょっぴりおかんむりな様子だったからな……。
確かに僕達としても、いったいどうしたらいいのか今まで困っていたところだった。
……それでも結局、何もせずただぼんやりとカークおじさん宅で過ごしていただけではあったが。
「その、やっぱり依頼がずいぶん溜まっていてね。それでコツコツ依頼を達成していって、もう少しで全部終わるかなってくらいのタイミングで、ジスレアに連絡したのだけれど……」
「あー、もしかして、その後に追加で依頼が来ちゃったとかですか?」
「いや、そうではなく、普通に全然終わらなかった」
「…………」
「見通しが、ちょっと甘かった……」
そうなんや……。そこはベテラン冒険者様なのだから、しっかり見通しを立ててから連絡してほしかったかもしれないかな……。
というか別にそんなに焦らずとも、全部終わった後で連絡してくれたらよかったのに……。
「じゃあつまり、それらの依頼を終わらせるのに時間が掛かって、それで遅れちゃった感じでしょうか?」
「…………」
「スカーレットさん?」
「終わらせてというか、終わらなそうだったので…………逃げ出した」
「…………」
いやいやいや、逃げちゃダメでしょ。人界の勇者パーティ宛の依頼でしょ? わからんけど、結構重要な依頼なんじゃないの? それを勇者様が逃げ出すのはさすがに……。
「依頼に次ぐ依頼で、ちょっと疲れてしまったんだ」
「そうなんですか……」
「うん、疲れたんだ」
「それじゃあ、仕方ないですかね……?」
そう言われちゃうとなぁ……。そんな素直に『疲れちゃった』って言われちゃうと、『いやいや、頑張って?』とは、なんか言いづらい……。
「それで早くアレク君達に合流したくなってしまったんだ。早く休みに入りたかった」
「…………」
別に僕達のパーティ活動は、休養期間ってわけでもないのですけどね?
そりゃあ実際には似たようなものかもしれないけれど、一応は違うので、それを直接口には出さないでほしいです……。
「まぁでも途中でパーティメンバーに見付かって連れ戻されちゃって、結局全部依頼を終わらせてから来ることになったんだ。それで遅れちゃった感じだね」
「あー、そうですか……。それはまた、お疲れ様でした」
優秀なパーティメンバーだなぁ……。さすがは人界の勇者パーティと言っていいんだろうか。
「えぇと、でもスカーレットさんも急いで合流しようとしてくれたみたいで、その気持ちは嬉しく思います。ありがとうございます」
「いやいや、だけどすまなかったね、遅れてしまって」
「とんでもない。これからよろしくお願いします」
「うんうん。任せてくれたまえ。なんやかんやあったけれど、ようやく私も合流して、アルティメット・ヘズラトボンバーズ再結成だね!」
「……はい!」
おぉ、軽く忘れ気味だったけど、そういえばそんなパーティ名だった。無駄に長い時間を掛けて、そう決めた記憶がある。
うん、そうだね。結成時のオリジナルメンバーであるスカーレットさんも合流し、アルティメット・ヘズラトボンバーズ再結成! 再始動! 再出発だね!
とはいえ、そのスカーレットさんが『休みたい』とか言いつつ合流してきた点について、若干不安を覚えたりもするけれど……。
そしてここは、休養にぴったりなカークおじさん宅……。なんかもう、今後の展開が微妙に予想できてしまうかもしれない……。
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