第541話 邪竜の件――もとい、暗黒竜の件について
さてさて、カークおじさん宅の玄関前に鎮座する謎のテントだが――果たして誰が建てた物なのか。中には誰がいるのだろうか。
「こんにちはー、どなたかいらっしゃいますかー?」
試しに僕が声を掛けてみると、中でガサゴソと誰かが動く気配を感じた。
しばし待つと、テントの入り口がスッと開いて、そこからにゅっと顔を出す人が――
「おお、アレク君! 久しぶりだね!」
「スカーレットさん!」
スカーレットさんだ! テントの中に居たのは、人界の勇者スカーレットさんであった!
……うん、まぁなんとなく予想は付いていたのだけどね。
ちょうどスカーレットさんの話をしていたところだったし、やはり流れ的にスカーレットさんなのかなって。あとはまぁ、僕達以外でこんなことをするのは、スカーレットさんくらいなんじゃないかなって……。
「お、カークおじさんもいるのか、久しぶりカークおじさん」
「あ、はい。お久しぶりです勇者様。それであの、このテントは……」
「それとジスレアか、久しぶり」
「うん、久しぶり」
他の面々にも気付いたのか、スカーレットさんが順々に挨拶をしている。
スカーレットさんも久しぶりの再会を喜んでいるようだ。喜びすぎて、「テント……」との呟きを流されてしまったカークおじさんが少し不憫。
「あとは誰かな? おお、ヘズラト君もいるんだね? 久しぶりヘズラト君――」
「キー」
「誰!?」
うむ。カークおじさんと同じリアクションである。ちょっと面白い。
◇
『それはさておき、テントを撤去してください』――改めてカークおじさんからの要請があり、スカーレットさんはテントを畳み、それからみんなでカークおじさん宅のリビングまで移動した。
「へー、進化かぁ。すごいなぁヘズラト君、やるじゃないか」
「キー」
「ふふふ、可愛い可愛い」
そんなやり取りをしつつ、スカーレットさんに撫で撫でされているヘズラト君。どことなく誇らしげである。
「それで、いったいどうしたの? 伝言では『すぐ出発するように』という話だったはず。でももう一ヶ月も経っている」
「あー、申し訳ない。いろいろと手違いがあってだね……」
「手違い?」
「うん。えーと、どこから話せばいいのかな? とりあえずみんなと別れてから、私は邪竜の討伐に向かったのだけど――」
――邪竜! そうだ、僕はその話が聞きたかった!
その邪竜の群れとやらは、実は美女の集団であったというストーリーが、僕の頭の中で勝手に出来上がってしまっている。
この予想が実際はどうだったのかを聞きたい。そこは是非とも確認しておきたい。
果たして邪竜の件はどうだったのか――!
「で、それ自体は解決して、それから私は別の依頼を――」
ちょっと!
なんで!? なんでそこバッサリカットしちゃったの!? むしろ僕はその話が一番聞きたかったというのに!
「あの! その!」
「うん?」
「そのお話、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか……?」
「詳しく? うん、別にいいけど……えぇと、とりあえず王都に着いて、その邪竜を見に行ったところ、実際には違くて……」
「あ、そうらしいですね。ジスレアさんから聞きました。実際には邪竜じゃなくて、違う竜だったと」
「うん、邪竜ではなくて――暗黒竜だった」
暗黒竜!?
むむ、そうか、邪竜ではなく暗黒竜だったか……。そもそも暗黒竜というワード自体が僕は初耳だったりするのだけれど、それはえっと……どうなのだ? それはどう解釈すればいい?
それはつまり――美女の可能性が高まったと考えてもいいのかな? 美女に近付いたと考えていい?
「いろんな竜が集まっていたけど、そこの親玉というかリーダーというかが、暗黒竜だったね」
「なるほど、暗黒竜がリーダーですか……。それで、その後はどうなりましたか?」
「うん、それで、なんやかんやで解決して――」
ちょっと!
僕はその『なんやかんや』が聞きたいというのに、何故カットしてしまうのか! 焦らしてくる! スカーレットさんが僕を焦らしてくる!
「あの、もうちょっと……さらにもうちょっとだけ詳しく教えていただけると幸いなのですが……」
「そう? んー、実際には別に大した事件でもなかったんだけどね。戦闘とかもなかったし」
「あ、へー、そうなんですか。戦闘にもならなかったのですね……」
「そうそう。でも、ありがとうアレク君、私のことを心配してくれて」
「え? ……あ、はい。それはもう、何よりです。スカーレットさんが無事で何よりでした」
別にそういう意図はなかったため、そんなふうに良い笑顔で感謝されてしまうと、僕としてはなんだか申し訳ない気持ちになってしまうのだけど……。
いや、もちろんスカーレットさんの無事を願っていたのは確かよ? それは本当に。
でもなんか、結構余裕っぽい雰囲気が最初から漂っていたし、それでむしろ僕としては、竜のみなさんを心配してしまった面もあったりして……。
――さておき、戦闘にならなかったというのは有益な情報だ。つまりは対話で解決できたということであり、暗黒竜さんとはコミュニケーションが取れるということである。
つまりは――美女だろう。これはきっと美女だね。もう七割くらい美女なんじゃないかな?
「というか、その暗黒竜は私の知り合いだったんだ」
「へ? 知り合い?」
「昔からの知り合いで、今回は私に会いに、魔界から人界の王都までやってきたらしい」
「なんと……。そうでしたか、そんな事情が……」
魔界から来たスカーレットさんの知り合い……。なるほど、これまた興味深い情報である。
しかしなんというか、さっきからいろんな情報が小出しに小出しにやってくるな……。正直僕からすると、一番聞きたいのは美女かどうかってことなのだが……。
どうしたものか。もういっそのこと、『その暗黒竜さんは美女に変身できますか?』と聞いてしまおうか?
……でもそれもなぁ、一応今はまだ美女の話題なんて欠片も出ていないわけで、なのに突然そんなことを尋ねたら、『何言ってんの?』って逆に聞き返されてしまうかもしれない。
スカーレットさんが『暗黒竜と会いました』と言っているのに、僕が『美女ですか?』なんて聞いたら、『暗黒竜だっつってんだろ』って返されちゃう可能性が……。下手したら、頭がおかしい人扱いをされてしまいかねないわけで……。
――まぁそうは言っても、おそらく美女で間違いないんだろうけどさ。
暗黒竜で、竜の群れのリーダーで、人族ともコミュニケーションが取れて、魔界から来たスカーレットさんの知り合い。
これらの情報から総合的に合理的に常識的に判断すると、もうほぼ間違いなく美女。もう九割方美女であることは確定しているのだけどねぇ。
next chapter:再結成! アルティメット・ヘズラトボンバーズ!




